ジェームス・イハ @ 渋谷クラブクアトロ

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ジェームス・イハ @ 渋谷クラブクアトロ
会場に入ると、ベータ・バンド(懐かしい!)やピクシーズがBGMとして流れている。一体いつの時代だろうと思わないでもないが、今日のライヴではこれが正解というか、すし詰め状態でクアトロを埋めた観客も、そんな一時の「タイムマシン」を共有できる数少ないライヴであることを十分に承知している。そう、14年ぶりとなるソロ・アルバム『ルック・トゥ・ザ・スカイ』をリリースしたジェームス・イハの単独公演である。今年の夏はフジロックへの出演があり、この単独公演の直前には京都音楽博覧会への出演というのもあったが、やっぱり単独公演は重さと意味合いが違う。チケットは早々に売り切れたそうだけれど、自分と同世代の観客がぎっしりと会場を埋めている。

19時を少し回って、場内の照明が暗くなると、真っ先にイハがステージに歩み出てくる。写真では見ていた白髪が、照明に照らされて金色に輝くのを見て、「ああ、イハだ」という身も蓋もないことを思う。最初に発した一言は「Hey」。出来過ぎなくらい、カッコよすぎるオープニングだ。そして、カウントを少しトチッて、アット・ホームな雰囲気のなか始まった1曲目は“GEMINI”。ツアー・メンバーであるSteve ShiltzのギターとFrank Locrastoのキーボードによる幽玄な調べの上に、イハのアコギが入ってくる。そこから歌い出したイハの声は、音源と同じく無垢そのものと言えるものだった。その印象は、ギブソンのSGを手にして始まった2曲目“SUMMER DAYS”でも変わらない。アルバム『ルック・トゥ・ザ・スカイ』を聴いて分かっていたことだが、やはりメロディが素晴らしい。セカンド・アルバムを出すのに14年もかかってしまったのも分かるというか、思わず納得してしまうくらい、ジェームス・イハという人の純度がそのメロディには宿っている。

ジェームス・イハ @ 渋谷クラブクアトロ
ジェームス・イハ @ 渋谷クラブクアトロ
ここまで終わったところで、ボソボソッと「今夜は来てくれて、ありがとう」と呟く。曲間は基本的に沈黙なのだが、その沈黙というか、間にも、イハという人の空気が漂うのが面白い。Steve Shiltzがウクレレを手にして始まった3曲目は、“MAKE BELIEVE”。バック・バンドは、凄腕という感じではなくて、割合ドカドカとしているところもあるのだけど、そのローファイな手触りがイハのキャラクターと見事にシンクロしている。そして、4曲目は、イハが試しに弾いたギター・コードの時点で、客席からは溜息のような歓声が漏れる。ファースト・アルバム『レット・イット・カム・ダウン』の1曲目、“BE STRONG NOW”だ。14年前の曲が、新作の曲とまったく違和感なく、同じように響く。その事実に、まず驚かされる。そして、やっぱり彼の曲は、彼という人の生き写しのように生み出されていて、だからこそブレないんじゃないか、そんなことを考えさせられる。なにより楽曲がまったく古びていない。イハもこの曲が終わったところでは、「Wow」と雄叫びを上げてみせる。歓声を真似するかのように雄叫びを上げてみせた彼の顔には笑顔があった。それはようやくこの場所に戻ってきたことへの嬉しさのようにも読み取れる。

パティ・スミスのカヴァー“Dancing Barefoot”を挟みつつ、中盤は“TILL NEXT TUESDAY”、日本盤のボーナス・トラックだった“STAY LOST”、“APPETITE”と、セカンド『ルック・トゥ・ザ・スカイ』からの楽曲が演奏されていく。ちなみに、この日ファースト・アルバムから演奏されたのは、先ほどの“BE STRONG NOW”だけだった。イハは朴訥とした声で、それらの楽曲を歌っていく。ヴォーカリストという意味ではジェームス・イハという人は、決してうまいわけではない。しかし、だからこそ彼の楽曲は磨き抜かれているというか、そのメロディの純度が徹底されている。この中盤は、そうしたイハの魅力が堪能できる楽曲ばかりだった。“APPETITE”は、かなりアブストラクトな展開も見せる曲だが、そうした曲でもイハの歌という背骨がしっかりとしているからこそ見事に成立している。そして、そんなイハの歌心の極致とも言えるのが、この後に演奏された、セカンド・アルバムからのシングル“TO WHO KNOWS WHERE”だった。みずみずしいメロディが、永遠の少年とも言うべきイハのキャラクターとリンクする。個人的にも新作の素晴らしさを確信した楽曲の一つだっただけに、こうしてライヴのハイライトになるのが嬉しい。本編はここから“NEW YEAR’S DAY”と“SPEED OF LOVE”で終了する。

ジェームス・イハ @ 渋谷クラブクアトロ
アンコール。イハが小走りでステージに走ってくる。どこかコントのようで、それがまた愛らしいというか、イハならではのたたずまいになっている。そして、始まったのは、これを期待して観に来た人も多かっただろう、スマッシング・パンプキンズのカヴァー“MAYONAISE”。当然のことながら、ビリー・コーガンの歌う“MAYONAISE”と、イハの歌う“MAYONAISE”は違う。けれど、同時にイハの歌う“MAYONAISE”にも、ちゃんと当事者としてのスマパンの遺伝子が宿っているという事実。それがすごかった。言うなれば、イハの歌う“MAYONAISE”は、ビリーの歌う“MAYONAISE”とは違っても、スマパンの“MAYONAISE”にはなっていたのだ。2000年の解散以降、スマパンのイハは封印されてきたわけだが、曲を歌うだけで、こんなにもあっけなくそれが解放されてしまった事実にビックリする。そして、それはファンにとってみれば、やはり感慨を持たずにはいられないワンシーンだったのだ。最後はデヴィッド・ボウイのカヴァー“ROCK N’ ROLL WITH ME”。これは御愛嬌というか、ロック少年としてのイハがそのまま出た感じ。10代の頃、ベッドルームでこんなふうに歌ってたのかな?などと想像してしまう。全部でほぼ1時間ピッタリ。14年に1枚しかアルバムを作らなかった彼らしく、余計なものが一切なく、けれど彼自身がそのまま伝わってくるようなライヴだった。(古川琢也)

1. GEMINI
2. SUMMER DAYS
3. MAKE BELIEVE
4. BE STRONG NOW
5. TILL NEXT TUESDAY
6. STAY LOST
7. DANCING BAREFOOT
8. APPETITE
9. TO WHO KNOWS WHERE
10. NEW YEAR’S DAY
11. SPEED OF LOVE
(encore)
12. MAYONAISE
13. ROCK N’ ROLL WITH ME
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