KREVA「908FESTIVAL」@さいたまスーパーアリーナ

KREVA「908FESTIVAL」@さいたまスーパーアリーナ
 9月8日を「908-クレバの日」と称し、毎年様々な活動を起こしてきたKREVA。その歴史の中でも今年のこの908FESTIVALは、豪華極まる出演者が集ったという点において、また結果的にさいたまスーパーアリーナという大会場を(開放しないことも少なくない2階席まで)一杯にしたという結果に鑑みても、過去最大規模の試みになったと言っていいだろう。ここで「試み」という言葉を使うのは、この908FESTIVALが、既存の音楽フェスティバルやイベントと異なる、斬新かつ画期的な挑戦であったと思うからである。まず908FESTIVALの特異点として挙げなければいけないのが、2つのステージで交互にライヴが行われる、という大枠はいわゆる「フェス」と変わらないが、メインステージにおいて基本KREVAが出ずっぱりであったということ。例えばライヴエイドでボブ・ゲルドフが、でも、ナノムゲンでアジカンが、でも何でもいいが、ミュージシャンが主催者となるフェスであっても、だからといって全出演者と共演するというのは稀有なことだと思う。その点でこの908FESTIVALは、「KREVAのKREVAによるKREVAのための」フェスであったと言える。しかし、興味深かったのは、ブッキングやステージ構成の意図として、現行シーンの底上げに資する優れた才能を持つ若手のフック・アップという目的が明確に見えたこと。つまり、今のKREVAが自分のために100%やるべきこと、やりたいことをやると、そこには否が応でも日本のヒップホップ全体への視点を包括せざるを得ないということだ。自分がそういった「代表」の立場にあることを認め、微塵も目を背けず対峙しているのである。だからこそ今日の908FESTIVALは完全に彼を主役としながら、「KREVAにとって」を超えて「日本のヒップホップにとって」極めてエポックなフェスとなったのである。

KREVA「908FESTIVAL」@さいたまスーパーアリーナ
 全編通して約3時間半に及んだフェスのオープニングを飾ったのは、dj908と熊井吾郎による(開演までの)DJを経て登場した、KEN THE390、LB、HI-SO、KLOOZ、サイプレス上野、そしてKREVAのMC6人だった。この面子で歌うといえばもちろん、KREVAの期間限定Twitterでのやりとりをきっかけに誕生した名曲“PROPS”! それぞれの個性を刻みながら華麗にまわされるマイクリレーに、フロアもいきなり天井無しの盛り上がりを見せる。この後は、1曲ごとにゲストが立ち替わり現れ、KREVAとの共演曲を披露していくことになる。AKLO、L-VOKAL、KREVAで“マカー”。SHINGO☆西成とKREVAで“ハヒヘホ”。MCU & LITTLEとKREVAで“挑め”。DABO、ANARCHY、KREVAで“I REP”。どの曲も当然それぞれ異なる色、魅力を持ちながら、共通してヒップホップという文化が持つ肩の力の抜けた楽しさやパーティ性という幸福な一面をどこまでも分かりやすくプレゼンしてくれた。この間、わずか約30分である。今日という日が特別なことになることを確信するには充分すぎる幕開けだった。

 メインステージが暗転すると、アリーナ最後方にライトが移り、そこに小さなステージが設置されていることに気が付く。するとそこにSONOMIが登場し、この場所がセカンドステージとして使われることをやっと理解した。そのくらい、客席に近く、同目線に置かれたステージだったのだ。このレポートではメインステージでのアクトを主として書いていくのでまとめて書いてしまうと、ここではSONOMI、AKLO、サイプレス上野、KEN THE390、そして最後の最後アンコールではKREVAがサプライズで登場し、それぞれ(舞台装置が最小限のため)生身のパフォーマンスを見せてくれた。今回のような固定席の会場でメインステージから遠い席の人も近くでライヴを見られるという点、またセットチェンジの待ち時間がないという点で、このステージ配置には非常に感心した。KREVAの、過剰ともいえるサービス精神を決して暴走させず、正しく受け手に届け、確実に喜ばせる知性が端的に表れた演出だったと思う。

KREVA「908FESTIVAL」@さいたまスーパーアリーナ
 今日最もパフォーマンスの力にやられたのが、MIYAVI-雅-のステージでのバトル。まずは単独(ドラムには普段の相棒BOBOに代わり、KREVA bandから白根佳尚が)で演奏した“WHAT’S MY NAME ?”で、唯一ロック畑からの参加でありながら、「誰がどう見ても凄いとしか思えない」ギターテクにより実はロックからさえはみ出したオンリー・ワンの音楽家であるがゆえ、逆にどんな場に行っても収まってしまうという冗談のような事実をフロアに再確認させる。そして2曲目“DAY 1”でKREVAが登場し、満を持して発されたのが“STRONG”。「MIYAVI vs KREVA」名義で発表された楽曲だが、まさに日本でナンバー1のMCと世界的にオンリー・ワンのギタリストの超絶技巧を駆使した丁々発止のやり取りに、全身の細胞がざわめく様な興奮を覚えた。曲の終盤、自分の前の席にいた2人組の女性客が、片方は号泣、片方は爆笑というえらいことになっていたが、あの場に渦巻いていたのは確かに、そういう理屈ではどうにもならない反応が容易に起き得る異常なエネルギーだったのである。

KREVA「908FESTIVAL」@さいたまスーパーアリーナ
 その後も音楽劇『最高はひとつじゃない』ダイジェストの上映から雪崩込んだMummy-Dとの“中盤戦”、フォーマル、シック、アダルトといった言葉が似合うような、主張を抑えあくまでラップを活かすことに主眼を置いたバンド演奏が光ったKREVA band(Key:柿崎洋一郎、Ba:岡雄三、Gt:近田潔人、Dr:白根佳尚)との共演と、息つく暇もないタイムテーブル進行の後、ついにこのフェスのトリとして、1MCとしてのKREVAが登場する。これだけ絢爛豪華な共演が続いての一番シンプル(KREVAと熊井吾郎の2人)なステージでありながら、ここにきてフロアのヴォルテージはピークに達する。KREVAもそれに対し“OH YEAH”、“Have a nice day”、“成功”とアッパーなアンセムの連打で応え、主役が誰かを改めて自らはっきりさせる。その上で、再び登場したAKLO、KEN THE390との“No More Mr. NiceGuy”から、本日開催の神戸コレクションからなんとかスケジュールを調整して駆け付けた(!)というSpecial Guest(登場まで明かされていなかった)三浦大知との“くればいいのに”~“蜃気楼”~“Your Love”と、なんとも嬉しい共演まで見せてくれた。その後、最新シングル“Na Na Na”(フロアからは3日前にリリースされた曲とは思えない特大のコーラスが!)、“KILA KILA”と続き、本編最後に選ばれたのは“基準”。この曲のリリックが、ある意味でこの908FESTIVALを最も分かりやすく表しているのかもしれない。つまり≪俺は俺のファンと それ以外も まぁ 引き受ける≫決意ゆえのこのスケールであり、そんなヒップホップ・シーンを超えた範囲まで影響し得るスケールへ広げたイベントを≪今日からはこれが基準≫とするために限界までクオリティを高めたのだ。しかも、そんなとんでもない課題を達成しながら、ファンを置き去りにするどころか、細心の心配りに裏打ちされた大胆な演出の数々により1人残らず満足させてしまうのである。ポップ・フィールドで闘う音楽家としても、1人の表現者としても、全くケチのつけようがないじゃないか。今後KREVAはきっと「最高」をこれ以上にアップデートしていくのだろうが、この2012年9月8日においては、一点の欠落もない完璧なイベントであったことを断言したいと思う。(長瀬昇)

KREVA「908FESTIVAL」@さいたまスーパーアリーナ
KREVA「908FESTIVAL」@さいたまスーパーアリーナ
【セットリスト】(時系列順)

・KREVA(メインステージ)
1.PROPS feat. KEN THE 390, LB, HI-SO, KLOOZ,サイプレス上野
2.マカー feat. GB-mix feat. AKLO, L-VOKAL (BETTER HALVES)
3.ハヒヘホ feat. SHINGO☆西成
4.挑め feat. MCU & LITTLE
5.I REP feat. DABO, ANARCHY

・SONOMI(セカンドステージ)
1.SUMMER
2.何とかなる

・MIYAVI-雅-(メインステージ)
1.WHAT’S MY NAME?
2.DAY 1 with KREVA
3.STRONG (vs KREVA)

・AKLO(セカンドステージ)
1.RED PILL
2.YOUR LANE

・音楽劇ダイジェスト映像(メインステージ)
1.中盤戦 feat. Mummy-D

・サイプレス上野(セカンドステージ)
1.よっしゃっしゃす〆~サ上とロ吉~バウンス祭り~ちゅうぶらりん
2.HIP HOP体操~MUSIC EXPRESS

・KREVA band(メインステージ)
1.パーティはIZUKO?
2.瞬間speechless
3.音色
4.ビコーズ
5.ひとりじゃないのよ feat. SONOMI
6.NO NO NO feat. SONOMI

・KEN THE 390(セカンドステージ)
1.DREAM BOY
2.Free Style
3.Lego!! Feat. KLOOZ

・KREVA(メインステージ)
1.OH YEAH
2.Have a nice day!
3.成功
4.No More Mr. NiceGuy feat. KEN THE390, AKLO
5.くればいいのに feat. 三浦大知
6.蜃気楼 feat. 三浦大知
7.Your Love (三浦大知 feat. KREVA)
8.Na Na Na
9.KILA KILA
10. 基準
EN 1. C’mon. lets go
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