『dip tribute -9faces- RELEASE PARTY』 @ 渋谷クラブクアトロ

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バンドのすべてのパフォーマンスが終わったときに時計を見たら、開演時間から実に3時間半近くも過ぎていてびっくりしたのだが、まだまだ演奏に触れていたかったし、この空間に浸っていたかった。6月にリリースされた『dip tribute 〜9faces〜』の収録曲の数々が、参加アーティストたちの手で再現されてしまうという豪華企画ライヴ。dipナンバーの数々はいつでもヒリヒリとした痛みとギター・ロックの飽くなきロマンを抱え込みながら、そんな楽曲達へと世代を超えて注がれる深い愛情によって、渋谷クラブクアトロが親密で温かなムードに包まれるという、夢のようなひとときであった。

『dip tribute -9faces- RELEASE PARTY』 @ 渋谷クラブクアトロ
初っ端から、池畑潤二(元ザ・ルースターズ/現ROCK’N’ROLL GYPSIES etc.のドラマー)とdipのギタリスト/ヴォーカリストであるヤマジカズヒデのセッションに度肝を抜かれる。元々こういうバンドをやっていたと言わんばかりの、ソリッドに纏まった2マン・バンドのコンビネーションだ。池畑の鬼神のような8ビートに焚き付けられ、ヤマジの巧みなギター・ワークも瞬く間に熱を帯びる。トリビュート盤では花田裕之・井上富雄、そして池畑という編成で“SLUDGE”をカヴァーしていたのだが、今回のステージではdipの07年作品『feu fellet』から“Am5-2”と“melmo”が披露される。ドラムスもギターも、エモーションの塊のように叩き付けられるのに、一方で音の端々まで完全に統制されているという、にわかには信じ難いようなフィーリングがある。更に大きな歓声を巻き起こすのは、映画『爆裂都市 BURST CITY』からバトルロッカーズ名義の“セル・ナンバー8”カヴァー。そして百々和宏と石塚“ベラ”伯広も参加してこの顔ぶれでザ・ストゥージズ“T.V. Eye”をカヴァーと、ものの30分も経たぬうちにとんでもないことになった。凄いものを観てしまった。

転換中には、この日のDJを務めていた小野島大氏が司会進行を果たす形で、たった今熱演を繰り広げたヤマジと、木下理樹によるトーク・セッションも行われる。翌9/1から始まるART-SCHOOLのツアーを控えた理樹は、「でも今日はdipのために全力を注ぎ込む」と繰り返しながら、「18か19のときに『TIME ACID NO CRY AIR』を聴いて、引き篭もりでもいいんだって思った」と語り、一方、トリビュート盤で理樹がカヴァーした“NO MAN BREAK”を指してヤマジは「良かった。引き篭もりアンセムだ(笑)」と理解を伝える。

『dip tribute -9faces- RELEASE PARTY』 @ 渋谷クラブクアトロ
転換後のステージにはTHE NOVEMBERSが登場。自身の最新アルバム『To(melt into)』からは“瓦礫の上で”や“彼岸で散る青”でナイーヴかつ美しい爆発力を見せつけ、また冒頭に配置された新曲がdipトリビュートにも相応しく思えるような、玄妙なコード進行を持つ佳曲であった。小林祐介(Vo./G.)は「今日出る人の中ではたぶん最年少なんですけど、みんな歴代のヒーローばっかりで。戦隊モノで言うとレッドばっかりで。さっきヤマジさんが、NOVEMBERS好きって言ってくれたでしょ。僕、裏で膝がガクガクしてて。キュン死にしそう」とdip愛を露にする。“human flow”のカヴァーは、まさにdipの思想を彼らなりに解釈して発展させたような名カヴァーだ。

THE NOVEMBERSがdipのロマンと思想を継承する若手バンドのスタンスだったとすると、あたかも戦友という立ち位置からパーティの弾薬庫としての役割を買って出たのはMO’SOME TONEBENDERだった。暗転したままのステージ上でダークなサイケデリアをこねくり回すフェティッシュな“KNOW”でスタートし、水野雅昭をドラマーに加えた4ピース編成で“Punks is already dead”、“ラジカルポエジスト”と重量級パンク・ナンバーを乱射。そのままの勢いで百々は「トリビュート盤に入れた、まさか1曲目にされるとは思っていなかった……適当にやったけん(笑)……曲ばやります」と“TIME ACID NO CRY AIR”に繋いでしまう。武井のベースがのたうちまわる、凶悪なまでにグルーヴィーなプレイ。むしろ、だからこそ1曲目になったのではないか。ラストはフロアタムを持ち出して打ち鳴らす藤田と共に“BIG-S”で野蛮なトランス感の中へと飛び込んでゆく。真に手がつけられないモーサム。最高だ。

そしていよいよヤマジ、ナガタヤスシ(Ba.)、ナカニシノリユキ(Dr.)の3人が揃ってdipのパフォーマンスへ。さらりと普段着を着こなすように、“GARDEN”や“DELAY”といったスリリングでキャッチーな高品位ギター・ロック・ナンバーが溢れ出すさまには、思わず溜め息が漏れる。『13 TOWERS』『13 FLOWERS』の連作ミニ・アルバムは、1作のコンパイルとして4枚のアルバムと共にリマスター再発された。ヤマジのドライヴ感溢れるギター・リフで駆け抜ける新曲を披露すると、「(前回の)ワンマンでやらなかったやつ、やるわ」と“MY SLEEP STAYS OVER YOU”へ。かつてdip入門が『love to sleep』だった筆者も嬉しい。

『dip tribute -9faces- RELEASE PARTY』 @ 渋谷クラブクアトロ
『dip tribute -9faces- RELEASE PARTY』 @ 渋谷クラブクアトロ
『dip tribute -9faces- RELEASE PARTY』 @ 渋谷クラブクアトロ
さてヤマジ、本日のギターのチューニングを紹介した後(そんなに変えるのかという部分もさすがだが)、フロアに背を向けて何やらゴソゴソ。ぱっとこちらを向くと、その顔には見覚えのあるゴーグルが。フロアに笑いが広がる。「……TOISU……じゃあ、こんな感じの人たちとやろうと思います」と呼び込まれるのはPOLYSICSのハヤシ&フミだ。タンバリンを叩きながらフミが歌う“SUPER LOVERS IN THE SUN”である。ゴーグルやTOISUコールのサーヴィスといい、楽曲の演奏といい、妙にdipの方が進んでポリ色の中に染まっているのが可笑しい。続いては山盛りのエフェクターが運び込まれ、te’のhiroがギター・サウンドの暴風圏を生み出してしまう“IT'S LATE”だ。21世紀型のギター侍といった印象で、hiroはめちゃくちゃかっこ良かった。「いいね! これがポスト・ロックだよ」とヤマジ。

『dip tribute -9faces- RELEASE PARTY』 @ 渋谷クラブクアトロ
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先刻のトーク・セッションでも触れられていたように、木下理樹は“NO MAN BREAK”をヤマジのハーモニーと共に歌う。これはやはり、誰よりも理樹自身が感慨深かったのではないだろうか。ちょっと穿ち過ぎかも知れないけれど、ロック生活者としての喜びを噛み締めているようにも見えた。辿り着いた本編ラストは、近藤智洋が歌う“13階段の荒野”。素晴らしいケミストリーが起こっていた。まるで新しい4ピース・バンドのようで、dipのサウンドを身に纏いマイク・スタンドを振り回す近藤は、スター性を振りまくロックのフロントマンそのものという嵌り方であった。

『dip tribute -9faces- RELEASE PARTY』 @ 渋谷クラブクアトロ
アンコールに応えて再登場したヤマジとナガタが定位置に着くのだが、ここでナカニシに代わってドラム・セットの中に収まるのはキュウちゃん(クハラカズユキ)! ということは……ヴォーカルにはハットと花柄ジャケットのチバユウスケも登場だ! この両者については参加者告知もされていなかったので、嬉しいサプライズである。TOKIE姐さんは残念ながら不参加だが、“Faster, Faster”を完全に自分の歌にしてしまうチバの声であった。最後に再びナカニシを迎え、dipが“SLUDGE”を決めてクールにフィニッシュする。

豪華で、愛に溢れ、数多くの楽曲に触れることが出来た素晴らしい一夜だった。ただ、文頭でも触れたように、それでもまだ物足りなさを感じる。あの曲もこの曲も聴きたい。dipのキャリアには洋の東西も世代も越えて、それこそビートルズも13thフロア・エレヴェーターズもストゥージズもティーンエイジ・ファンクラブもレディオヘッドも見渡せるようなロックの裾野が広がり、また、一途な冒険心に裏打ちされた才能によって今も日本のロックを更新し続けている。dipは12/7に、渋谷WWWで年内最後のワンマンを行うという告知もされていたので、ぜひとも多くの人に、彼らのロックの深みに触れて欲しいと願う。(小池宏和)

SET LIST

■池畑潤二×ヤマジカズヒデ
1: Am5-2
2: melmo
3: セル・ナンバー8
4: T.V. Eye

■THE NOVEMBERS
1: 新曲
2: 瓦礫の上で
3: dysphoria
4: 彼岸で散る青
5: human flow

■MO'SOME TONEBENDER
1: KNOW
2: no evil
3: Punks is already dead
4: ラジカルポエジスト
5: Cat park
6: TIME ACID NO CRY AIR
7: BIG-S

■dip
1: GARDEN
2: DELAY
3: DT(新曲)
4: MY SLEEP STAYS OVER YOU
5: SUPER LOVERS IN THE SUN (POLYSICS/ハヤシ、フミ)
6: IT'S LATE (te'/hiro)
7: NO MAN BREAK (木下理樹)
8: 13階段の荒野 (近藤智洋)

encore
1: Faster, Faster (チバユウスケ、クハラカズユキ)
2: SLUDGE
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