グリーン・デイ @ SHIBUYA-AX

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グリーン・デイ @ SHIBUYA-AX
グリーン・デイ @ SHIBUYA-AX
ヘッドライナーとして8年ぶりにサマーソニックに帰ってくるグリーン・デイ。しかし、一足先の単独公演としてフジロック開催中に発表されたのが、このSHIBUYA-AXでの公演だった。前回の『21世紀のブレイクダウン』リリース時も、赤坂BLITZでの単独公演というのがあったが、グリーン・デイをAXで観られるということで、当然、チケットは一瞬で完売。開演ギリギリに会場に着いたのだが、それでも会場の外には「チケットを譲ってください」の紙を持った人、多数。

ホールに入ると、ザ・ダムドの“Stab Your Back”や“Feel The Pain”、クラッシュの“Police & Thieves”がかかっている。グリーン・デイのライヴではお馴染みだが、おそらくこのあたりの選曲はバンドの意向によるもの。ステージ・スタッフが姿を現すだけで客席からは何度も手拍子が巻き起こり、意味不明の雄叫びが上がり、ステージ・スタッフによる客席の記念撮影が始まると、多くの手が上がる。期待感は尋常じゃない。でも、この期待感を常に受け止めてきたのが、グリーン・デイというバンドだったりする。そして、19時30分、客電が落ちる――。ここからは具体的な曲名に触れて、レポートしていきます。

トレを先頭にメンバーが走って入ってくる。ビリー・ジョーはゆっくりとした足取りでステージに姿を現す。そして、いきなり1曲目に演奏されたのは“Welcom To Paradise”。このオープニングで盛り上がらない訳がない。バンドのサウンドは、いつものグリーン・デイの較べると、ちょっとラフ。どんな時も完璧なサウンドでライヴをやってくれるバンドだけに不思議だったのだが、次第にその意味が明らかになってくる。ビリーは早くも鼓舞するように「トキオ!」とオーディエンスに向かって呼びかける。オープニング・ナンバーを駆け抜けた所で、高々と腕を上げるビリー。今のシーンに最も必要なバンドが新作を引っさげて帰ってきた、そんな感慨が訪れる。そして「アリガトウ」という一言から、2曲目は新作『ウノ!』収録の“Nuclear Family”。グリーン・デイらしいエネルギッシュなリフと疾走感、そしてそこに花を添えるマイクのコーラスというザッツ・グリーン・デイとでも言うべき楽曲。まるで初期の彼らを観ているようなストレートさがある。ほとんどの人が初めて聴いた楽曲だと思うのだけど、最後のコーラスでは巨大なシンガロングが巻き起こっていた。こんなことをできてしまうのがグリーン・デイというバンドなのだ。

グリーン・デイ @ SHIBUYA-AX
3曲目は、これまた新作からの“Stay The Nights”。それこそチープ・トリックあたりを思い出すオーセンティックなメロディを持った曲なのだけど、今のグリーン・デイがそれをやるとハマる。というか、むちゃくちゃカッコいい。お得意のコール&レスポンスもバッチリ。「今日は新作の曲をやるぞ。準備はできてる?」とMCでも語っていたビリーだが、新作の曲なのに、初めて聴いた気がしないというか、グルーヴが、ライヴの芯の部分がこれぞグリーン・デイというものになっている。4曲目は、これまた新曲で“Stop When the Red Lights Flash”。グランジのヘヴィーさをそのままに超高速にしてしまったような初期のエネルギーを感じさせる楽曲だ。

5曲目は、新作『ウノ!』から“Carpe Diem”。ビリー節というか、多くのシンコペーションと非常にエモーショナルなメロディが、実にグリーン・デイらしい曲だ。間奏では一面ハンドクラップが広がる。この頃にはステージのサウンドも出来上がってきて、トレのドラムがバシバシと響いてきて気持ちいい。けれど、次に演奏された“オー・ラヴ”もそうだったが、ここ2作の作り込んできたサウンドとは違って、駆け出しのロック・バンドがライヴハウスでやっているような、剥き出しのサウンドなのだ。まるで、それはグリーン・デイのキャリアを遡るようでもあるし、“オー・ラヴ”のようにAC/DCとクイーンを合体させてしまったようなミドル・バラードを聴いていると、それこそロックの起源へと遡っているようにも聴こえる。

7曲目も新作『ウノ!』から“Angel Blue”。レコーディング中も散発的にライヴを行なって、新曲を試してきたグリーン・デイだが、この曲はライヴでも演奏されるのが初めてだったはず。楽曲は、超王道のメロディック・パンク・ナンバー。客席から渡された被り物を被って、演奏が始まった8曲目は“Kill The DJ”。続いては“Let Yourself Go”。気づいてみれば、冒頭の“Welcome To Paradise”を除いて、ここまで8曲連続新曲という展開。ライヴというより新作発表会という様相で、数年に1度しか来日しないグリーン・デイのようなバンドの場合、考えられないセットリストだと思うのだが、客席もそれを受け入れているというか、テンションがゆるむことがない。完璧にグリーン・デイのライヴとして成立してしまっている。むしろ、初期のイノセンスを取り戻したような、ストレートな新作の楽曲群を聴いていると、グリーン・デイというバンドの本質がどんどん露わになっていくような感じなのだ。最初はラフに聴こえていたサウンドも、むしろライヴバンドとしての破格の実力に焦点を当てたものだということが分かってくる。

グリーン・デイ @ SHIBUYA-AX
とはいっても、グリーン・デイである。数々のアンセムを持つ彼らだけに、新作発表会は一旦ストップして、ここからはお馴染みの楽曲が次々と演奏されていく。 “Longview”に、“Holiday”に、“Nice Guys Finish Last”。曲順はその場で決めているようで、ビリーが取り替えたギターを見て、サポート・ギターのジェイソンが慌ててギターを交換するなんていう場面もあった。その場のオーディエンスとの呼吸で、変幻自在にセットリストを変えていく。なので、新曲の“Troublemaker”を挟んで、前作『21世紀のカウントダウン』から“Murder City”に突入したのだけど、突然2コーラスを歌ったところでビリーが演奏を止め、トレと目配せして“Hitchin’ A Ride”に雪崩れ込むなんていう大技も披露。強張っていたトレの表情を見るに、どこまで決まっていたかは定かでないが、見事に決めてしまうあたりはさすが。そして、“Brain Stew”に続いて、“St. Jimmy”“Give Me Novacaine”“Letter Bomb”という『アメリカン・イディオット』からの3連発。なかでも、“Letter Bomb”は名盤『アメリカン・イディオット』の中でも隠れた名曲だっただけに嬉しい。おそらく日本で演奏されたのは初めてではないか。本編ラストは、再び新曲から“Stray Night”“99 Revolutions”で締め。最後の“99 Revolutions”が素晴らしい曲で、まるでクラッシュのように鎧を外した、生身のロック・ソングで本編は終了した。

アンコールは、ここまで新曲が多かっただけに演奏した曲目を見てもらえれば、どれだけ場内のテンションがとんでもないことになったかは分かってもらえるのではないか。“She”“Basket Case”“Going To Pasalacqua”“American Idiot”“Minority”“Lady Cobra”。どんなに小さな会場のライヴであっても、まだ足りない、まだ足りないというように、ビリーは楽曲を加えていった。そして、やっぱり新曲でライヴを終えたのも、この日のライヴならではだったように思う。

グリーン・デイ @ SHIBUYA-AX
今回、なぜグリーン・デイが3部作という形で新作をリリースするのか、それはアルバムが発表されるにつれて自ずと分かっていくのかもしれない。ただ、今日のライヴを観て思ったのは、アルバムのためのアルバムではなく、もちろんツアーのためのアルバムでもなく、アルバムのためのツアーでもなく、ツアーのためのツアーでもなく、そうしたことが全く意味をなさなくなった現在の音楽業界を取り巻く状況の中で、ロック・バンドとして生きていくこと、それを全うする意志に立ち返ったグリーン・デイの姿があったことだ。だから、前作のツアーとも違うし、『アメリカン・イディオット』のツアーとも違う。言ってみれば、レコードをリリースする前、バークレーのライヴハウスでやっていた頃の彼らが、そのままスタジアム・バンドになってしまった光景を見るような、そんな気分にさせられたのだ。

おそらくサマーソニックはここまで新曲の多いセットリストにはならないんじゃないかと思う。ただ、3部作を携えたグリーン・デイのモードは変わらない。つまり、世界最高峰の、現役のロック・バンドがスタジアムでライヴハウスのように演奏する姿が見られるんじゃないか。ぜひ多くの人に見てほしいと思う。今日のライヴを観て、かつてインタヴューした時に、ロックンロールとは最終的に何だと思いますか?という質問に、ビリーが「生き延びること」と答えてくれたのをあらためて思い出した。(古川琢也)


1. Welcome to Paradise
2. Nuclear Family
3. Stay the Night
4. Stop When the Red Lights Flash
5. Carpe Diem
6. Oh Love
7. Angel Blue
8. Kill The DJ
9. Let Yourself Go
10. Longview
11. Holiday
12. Nice Guys Finish Last
13. Troublemaker
14. Murder City
15. Hitchin' A Ride
16. Brain Stew
17. St. Jimmy
18. Give Me Novacaine
19. Letterbomb
20. Stray Heart
21. 99 Revolutions
encore
22. She
23. Basket Case
24. Going To Pasalaqua
25. American Idiot
26. Minority
27. Lady Cobra
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