溝渕 文 @ 下北沢GARDEN

溝渕 文 @ 下北沢GARDEN
溝渕 文 @ 下北沢GARDEN
ライヴハウスの企画イベント「SONORA」に出演した彼女。3者が出演する中の2番手、30分の持ち時間という枠だったが、ここ1年間にひたすらライヴの現場で新アイデアと実践を重ねてきた成果が見事に開花していたステージだった。表情豊かになった歌声はもちろん、ちょとした立ち振舞いやテンポの変化など、「ライヴの作り方」についてあらゆる面で積極的になっている彼女だが、この日も意表をついた展開まで飛び出すなど、ライヴに賭ける意欲をふんだん且つ思い切りよく発揮していた姿が胸に残った。

予定時刻の20時となって本人を含むバンドが上手から登場。サックスなど3管を含む8人がステージ上にずらりと並ぶ様子はそれだけで華やかさもたっぷりだが、まずはバンド全員による重心の低いジャジ―&ファンキーな冒頭の音出し一発で、それまでのライヴハウスの空気を一変させてしまう強気な展開でライヴはスタート。何より、彼女がマイクを右手に持った状態で1曲目のイントロも始まる前からフェイク・ヴォーカルで叫び始めるや、その声量とエモーショナルな情感で場の色をみるみる変質させていくからすごい。彼女をフォローアップするバンド陣もその瞬間を楽しむようにさらにサウンドを長く引っ張り始め、すると彼女も比例するように声をソウルフルに豹変させていく。曲が始まる前から、いきなりここまで場内をトランスさせられる人というのもそんなに多くは無いぞ、と早速先制パンチを食らった気分である。

溝渕 文 @ 下北沢GARDEN
溝渕 文 @ 下北沢GARDEN
曲は、昨今のライヴでのオープニングとして定着している“here”からスタート。タイトル通り、今自分はここにいる、と歌いかける冒頭に相応しいナンバーだ。しかしながら、1曲目とはいえ決して勢いで押し倒すのではなく、腰の据わったビートに乗せて一言一言噛みしめるように「ここよ」と歌いかけるのが彼女。まずはオーディエンスに対し一対一の真剣勝負を挑むようなシリアスさでライヴをスタートさせてくる。

そんな調子で1曲目を歌い切るも、2曲目からは場内を温めるように「こんばんは、溝渕 文です。最後まで楽しんでいただけるよう頑張ります」という手短な挨拶とともに、すぐさま軽快な“key”に繋げ、ライヴらしいモードに場内を誘導していく。リズムに一層の「跳ね」が加わったこの曲は、1曲目が深夜~夜明けの独白っぽいイメージなら、こちらは朝~1日の始まりをイメージしやすいフレッシュな楽曲。バンドと一体となってスピードを上げていきながら、身体をリズミカルに揺らし始める姿も最早堂に入ったもので、セカンドラインのリズムに変貌する間奏では、ちょっとしたステップを踏みながらのダンスまで披露してくる。すると自然と生まれる手拍子も客席へじっくりと伝わっていくいい風景も出現。ファンキーなソロをとるサックスの傍らで、他のホーン2人がジャンプを見せる茶目っ気も心憎く、ステージに良い華を添えていく。

「私は、香川で曲作りを行っていて、1ヶ月に1回、こうして東京でライヴをやらせていただいています。普段は飼っている猫に向かって歌っていて、その猫さえ途中でどこかに行ってしまうことも多いんですが(笑)…今日は、晴れの舞台です。よろしくお願いいたします」と、素直な喜びに満ちた挨拶も手短に、続いてはマイクスタンドを用意。ブライトなギターのゆっくりとしたアルぺジオから始まる“今日は夢も見ないで眠った”というラブソングを披露したのだが、こちらはじっくりと歌い込むスローナンバーで「肩と肩が触れ合った~冷たい」と言い放つ少しく際どい歌詞で、ここではちょっとスリリングな空気を持ちこむ不敵なシーンも。しかしながら、思わせぶりなムードから次の曲“結晶”のワウの効いたギターの不穏なイントロに持ち込み、歌い出すや一気にエネルギーを高めていく強引さもすでに彼女の歌声あってこその豪快技で、もはや自由自在に場の色を作っていく手際もまた頼もしい。そんな表情で、一層高くそして張った声で「生きることは怖くない」と歌い上げ、ただ単に歌がうまいという以上に、歌わなければならない人だけが持つ凛々しい存在感を発揮していく時間に突入していく。

溝渕 文 @ 下北沢GARDEN
溝渕 文 @ 下北沢GARDEN
そんな起伏に富んだメニューで持ち時間はあっという間に過ぎ去ってしまい、彼女も「残すところ2曲となりました」と、まだまだやってみたいことはあるのに…となかなか残念そうな表情。それでもきっぱりとした口調で「ギターを弾いて歌います」と語り、赤いサンバーストのデザインも可愛らしげなエレキギターを手にする。これは彼女にとって初の試み。そんな佇まいから、最後の2曲へと入っていった彼女。まず“マリー”は彼女自身の弾く静かなアルペジオに乗って切迫した愛情が語られるも、バンドの演奏が入るや「君といられることの大切さ」が一層エモーショナルに叫ばれるラヴソング。ギターを弾きながら歌う姿を見るのは僕は初めてだが、マイクスタンドの前で一心不乱にリズム・ギターをかき鳴らし、その勢いと同化するように勢いを増して行く姿は今までに無かった熱っぽさを醸し出しているだけでなく、続く最終曲“坂本橋”の持つストレートなギター・ロックへのリレーを無理なく演出していく巧みなもの。ラストに歌われる「戻れない橋の真ん中に立っている自分」を客観視しながら、それでも溢れ出る何かがあるのなら臆することなくそれを解き放っていこうとする歌詞も、そんな演出もあってか、今日は声色も一層冴え渡る。歌うことへの決意表明を彼女なりの言葉で語る台詞部分も、この日はとりわけ明確にして声も高らかだったのが胸に染みた。

短い時間ながら多くのアイデアと思い入れを託したライヴを、爽快なまでの笑顔で締め括っていった彼女。8月5日(日)の「ROCK IN JAPAN FES.2012」3日目には、昼のWING TENTに登場するので、居合わせている方には急成長中の姿を体験してみることをお勧めします。(小池清彦)

溝渕 文 @ 下北沢GARDEN
セットリスト
1 here
2 key
3 今日は夢も見ないで眠った
4 結晶
5 マリー
6 坂本橋
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