鶴 @ 新宿BLAZE

鶴 @ 新宿BLAZE
長い間バンド・メンバーのトレード・マークでもあったアフロ・ヘアをこの3月に卒業し、4月には心機一転の新作『我がまま』を発表。5月にスタートした全国ツアー『我がまま 〜我は行く、さらばアフロよ〜』の第1弾スケジュールでは一応の節目となる、東京・新宿公演をレポートしたい。とはいえツアーは9月に再開され、金沢・長野・神戸・松山・大分など各地での公演が決定しているほか、番外編としてアコースティック・ツアーの予定も組まれている。怒濤の快進撃を展開中の新生・鶴なのである。

大盛況の新宿BLAZEに姿を見せた3人のメンバーは、神田雄一朗(ウキウキベース)がロッカー然とした長髪で、秋野温(うたギター)と笠井快樹(テンパリドラム)はアーティスト写真で確認していたよりも更に爽やかになってしまったのではないかというヘアスタイル。3人が3人「キモシャツ」と自称していたレトロな柄シャツ姿も封印し、笠井に至ってはすっかり夏モードの涼しげな短パン姿である。イメージ・チェンジどころか「脱皮・変身」ぐらいのインパクトをもたらしながら、『我がまま』に収められていた、音を鳴らす必然を堂々描き出すロック・ナンバー“スピーカー”によってパフォーマンスがスタートする。恒例の“こんばんは鶴です”も繰り出し、「あ、見た目は変わったけど、間違いなく鶴だ」という鉄板の安定感で手応えを残してくれていた。

そしてここから、秋野のパワフル&ソウルフルな歌声と3ピースの演奏力で歌詞通りに上昇気流を巻き起こしてしまうような“フライハイ”を挟み込み、『我がまま』の楽曲群が次々にプレイされるブロックへと突入してゆく。『我がまま』というアルバム・タイトルに直結するようなメッセージ・ソング“愛の言葉”を繰り出しては、「約8年間のアフロ生活を経て、新しいアルバムを出して、ツアーに出てあっという間にこの日に辿り着いてしまいました……鶴です!!」と殊更に強調して言い放つ秋野。「これまでは毎日アフロが第一だったというか(笑)、すごく身軽になって。国民の生活が第一ね。確かに長いんだけど、繰り返し言ってみるとむしろキャッチーかもっていう。一郎ね……え? 知り合い!? 良かったあ、変なこと言わなくて」。神田が「びびってんじゃねーよ、こちとらロック・バンドだよ!」と脱線したところにも即座にツッコむ見事な呼吸を見せてくれる。間違いなく、鶴である。

「繋がり」のあり方を、まっすぐに伸びる歌声と豊かな詩情によって描写してゆく熱いロック・ナンバー“点と線”、そして“糸”。秋野のたっぷりと間を使って響かせるアカペラによってスタートするライヴ用アレンジの美曲“夜に太陽”と、切々とした歌が次第に迫力を増してゆく“歪”は、アルバム同様に鶴の表現世界に奥行きをもたらすエモーショナルなハイライト・ナンバーとしてステージの中盤を形成して行った。

鶴 @ 新宿BLAZE
ファンキーなこと極まりないダンス・チューンと、熱く切ない歌を届けてくれる3連アフロ。我々は気持ちのどこかで、鶴のそんな揺るぎない個性に安心し、同時に油断していなかっただろうか。もしかすると、力強い演奏も、真っすぐな歌も、アフロなんだから当たり前ぐらいに思っていなかっただろうか。「みんなでダンディになりたいと思う!」とオーディエンスを煽動してハンド・クラップとサイド・ステップを、更にはグッと肩を入れる動きまでもあっさりと真似させる、乗せ上手な秋野。笠井のドラム・ソロが盛り込まれ、神田のドライヴ感溢れるスラップも加わってゆく。日常がちょっとだけ、だが確実にうきうきし始めるこの感覚が、鶴だ。でも、爽やかな風貌になったからこそ改めて思う。やっぱり凄いぞ、聴く者の心を真っすぐに捉えるこのバンドのサウンド、そして言葉選びと歌声は。

“アイタリナイ”でフロアに大きなコーラスの輪が広がると、「このツアーの後半ぐらいから、白シャツ着始めたんだこの人(秋野)。いや、おれはかっこいいじゃんって思ってるよ? でも中にタンクトップとか着ないからさ、CKBが、左はポケットがあるから特に右チク(うちく)が、透けて見えるでしょ。これ、みんなとしてはどうなの!?」と神田。訊きたくて仕方が無かったという感じだ。秋野は「そんなこと訊いたら白シャツ着にくくなるじゃん!」と喚いていたが、幸いにも概ね好評なようだ。とても似合っていると思う。秋野自身としてもいろいろ思うところがあったらしく、前日に厚手の白シャツを探し回っていたらしい。

エモーショナルなコーラスがハーモニーを奏でる「新しい鶴の古い歌」“手紙”の後には、ストリングス風の同期サウンドが絡められたドラマティックなナンバー“どこまでも青空”や、ハンド・クラップが自然発生して転がり出す“夜を越えて”が決まる。すでに開演から1時間半が経過しているとは思えないほどあっという間に辿り着いてしまった本編ラストは、「不安と期待を抱えて始まったツアー、最初は珍しいものを見るようだった皆さんも、いいんじゃない?って感じになって、今日もまさにそういう雰囲気で良かったです」「これからも鶴を持ち歩いて、連れて行ってください。ワイワイする準備は出来てるかい?」とパワフルなキラー・ディスコ・チューン“踊れないtoフィーバー”へ。見事フレッシュで華やかな、それでいて胸に迫る楽曲の数々を届けてくれたショウであった。

鶴 @ 新宿BLAZE
アンコールでは、笠井が「今日、ぜんぜん喋ってないでしょ。CKBの話をしていたときも、2人はこっちに背中向けてるからさ、喋ろうと思っても、このポジションやりにくい! むしろ、みんなが俺に話しかけてよ!」と心機一転をいいことに、何を今更、な話をのたまっている。そして「これ、いい歌だなあ」と秋野が言葉を漏らした、エンジン性能の違いを見せつける爽快なホット・ロッド・ロックンロール“恋のガソリン”から、オープニングの“スピーカー”とは逆にエンディングにこそ相応しい“手のなる方へ”でアンコールもフィニッシュだ。

なお、この日のステージでは、年末年始にかけて名古屋、東京、大阪でそれぞれ2デイズの、セット・リストの異なるステージ『鶴TOUR 2012 「我がまま 〜被り曲なしの2日間〜」』が開催されることも発表された。アフロ時代の名曲たちも、新作曲だけど今回プレイされなかった曲(個人的には“ジパング”が聴きたかった)も、いろいろ再発見がありそうな気の利いた企画。ぜひオフィシャルHPで引き続きチェックを。また、鶴は8/3(金)、ROCK IN JAPAN FES. 2012のSOUND OF FORESTに出演予定なので、こちらもお楽しみに。(小池宏和)


SET LIST

01: スピーカー
02: ダイナマイツ勘違い
03: こんばんは鶴です
04: フライハイ
05: 愛の言葉
06: 点と線
07: 糸
08: 夜に太陽
09: 歪
10: ダンディー・ダンディー・ダンスィング
11: アイタリナイ
12: 手紙
13: どこまでも青空
14: 夜を越えて
15: 踊れないtoフィーバー

encore
01: 恋のガソリン
02: 手のなる方へ
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