フジファブリック @ 渋谷クラブクアトロ

 暗転した舞台に、山内総一郎が、金澤ダイスケが、加藤慎一が、そしてサポート・ドラム:BoBoが登場、4人でミステリアスなジャムを展開……と思ったら、そこから気合い一閃、アップビートの“TAIFU”“夜明けのBEAT”“スワン”連射で、満場のオーディエンスがクアトロの底が抜けるんじゃないかってくらいに踊り跳ね歌いまくる! 翌日の追加公演=リキッドルーム恵比寿も含めれば全国24公演に及ぶ全国ツアー『徒然流線TOUR2012』のファイナル=渋谷クラブクアトロ公演は、この1年で格段にタフに鍛え上がった3人体制のフジファブリックのーーそれこそもはや「新生」という但し書きも不要なくらいのーー「今」の充実感と、「音楽そのものが喜びである」という命題を100%体現する3人のポジティビティを、その楽曲と演奏を通して、ありったけの誠実さでもって提示するものだった。「東京に帰ってきたぜ! よろしく!」となぜかワイルド口調で呼びかける山内に、「よろしくぅ!」と応援団のように合いの手を入れる金澤&加藤、といった微笑ましい場面が会場の温度を上げるまでもなく、開演早々から天井から滴がしたたり熱気が吹き荒れる、祝祭感そのもののようなライブだった。

 8月に『ROCK IN JAPAN FES. 2011』で現体制のライブを初披露。3人で作り上げた最新アルバム『STAR』のリリースが9月。そして、全国7公演のツアー『ホシデサルトパレード2011』が11~12月……2009年12月の志村正彦の急逝という事実を受け止め、制作中だったアルバム『MUSIC』を完成させた後、「解散」でも「別バンド」でもなく「フジファブリックの『その先』」の道を進むことを選んだ山内/金澤/加藤にとって、2011年という時間はまさに、自分自身の音楽家としてのアイデンティティをイチから再構築するぐらいにヘヴィで重要な時間だったはずだ。しかし、3人でさらに前進することを選んだその決意が、彼ら自身の音楽に無尽蔵のパワーと、この上なくプレシャスなヴァイブを与えた……そして。新体制2度目のツアーのファイナルであるこの日、クアトロのフロアに満ちていたのは、09年末のあの日の悲しみを会場一丸となって改めて噛み締める空気感でもなければ、悲しい過去に蓋をして無理矢理アッパーになって踊り狂う、といった空元気でもない。僕らはこうやって新しい音楽を作って進んできた、だからみんなも一緒に行こうよーーというバンドからの自然な呼びかけに、オーディエンスが自然と応え、気がつけば巨大な歓喜の輪が広がっている……という、至って前向きな躍動感だった。

 金澤のピアノが疾走感をリードした“スワン”、山内の鋭利なリフが空気を切り裂く“Splash!!”、パワフルなオルガンとオリエンタルなギターが希望の先を指し示す“理想型”……といった最新アルバム『STAR』の楽曲はもちろん、『モテキ』シリーズとともに日本全国を席巻した“夜明けのBEAT”、「ツアー回ってる間にこんなになっちゃって……何分やってた?」と自分たちでも話していた通り、ダークでサイケなインプロ・ジャム・パートが加わって10分以上の大曲と化した“Mirror”など『MUSIC』の曲、さらに“虹”“Surfer King”といったこれまでのフジファブ・アンセムも盛り込んだところに、加藤による謎掛けMCコーナー、その名も「加トーク」(「Q:スイカとかけて、競りの会場と解く。そのココロは?」「A:叩いて買います!」で拍手喝采を巻き起こしていた)があったり、「前に出たい! 僕ももっと渋谷を味わいたい!」と金澤ダイスケがキーボード・ブースを出てショルダーキーボード構えてステージ前面に立つ場面(中学時代に開発したという「シューベルト“魔王”弾き語り」を披露してました)があったり……という、サービス精神とコミュニケーション欲求の塊のような盛り沢山な内容で、ほぼ19時ジャストに始まったライブは、全16曲の本編が終わる頃には21時をとうに回っていた。何より、山内がリード・ヴォーカルをとり、3人で極彩色のコーラスを重ね楽器のフレーズを重ねながら、あたかも3人が全員フォワードの如く前へ先へと挑んでいく今のフジファブリックの音の、どこまでも伸びやかな開放感と多幸感! 「音を重ね、奏でることの意味」を再確認する日々を経た彼らだからこそ、そのコードやハモリの1つ1つが心地好い弾力に満ちているし、力強い。

 そして……そうした彼らの前進モードともっとも明確にフォーカスが合っていたのが、TVアニメ『つり球』オープニング・テーマという機会を得てフジファブリックのポップ感がいっそう軽快に咲き乱れた“徒然モノクローム”であり、この日は金澤のショルキーさばきが光った“流線型”であり、エレクトロ・ファンタジーとでも言うべき音像で鳴らした小沢健二のカバー“ぼくらが旅に出る理由”ーーつまり、今回のツアーのタイトルにも謳われているシングル『徒然モノクローム/流線型』に収録されている3曲だった。アルバム『STAR』の充実感を後にして、彼らはもっとずっと高い場所を目指して、さらなる音楽探究の旅に出ようとしている。そのことが実にリアルに窺えて、ステージ上では終始朗らかだった3人をこれまで以上に頼もしく思ったし、嬉しく思った。“流線型”から“Surfer King”“TEENAGER”“STAR”へ流れ込んでフロアをシンガロングとダンスの嵐へと叩き込み、最後のキメと同時に山内がバスドラから飛び降りて大団円!……というところで体制崩して思わずキメ損ねて会場一丸の苦笑失笑を誘った場面も、すべてが無上の高揚感へとつながっていく。

 「いやー、熱いぜ渋谷! 汗が出尽くしたかのような……」「ありがとうございます! ライブって楽しいなあ!」と演奏が途切れるたびにフロアに語りかけ、「この体制でみなさんの前に立てて、ツアーができるのが、本当に嬉しいです。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします!」と、音楽とともに生きる「今」の想いをアンコールのMCでもストレートに語っていた山内。「ガンガン攻めて行って、新しい音楽をどんどん作っていきます! 付いてきてもらっても……いいんじゃないかと思います。やるよ! 本当に」。アンコール“星降る夜になったら”“銀河”で再びフロアを揺らし、客電が点いても鳴り止まない手拍子に、たまらず3人+BoBoが三度目のオン・ステージ! 正真正銘最後の曲は『STAR』収録のロック・バラード“ECHO”だった。《離れていたって届くように 今ありったけの想いをのせて君に 君に捧ぐよ》という最後のフレーズが、ひときわ熱く、胸に残った。(高橋智樹)


[SET LIST]
01.TAIFU
02.夜明けのBEAT
03.スワン
04.NAGISAにて
05.Splash!!
06.徒然モノクローム
07.理想型
08.パレード
09.ぼくらが旅に出る理由(小沢健二カバー)
10.Mirror
11.虹
12.会いに
13.流線型
14.Surfer King
15.TEENAGER
16.STAR

Encore1
17.星降る夜になったら
18.銀河

Encore2
19.ECHO
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