曽我部恵一BAND@渋谷クラブクアトロ

ニュー・アルバム『曽我部恵一BAND』のリリース・ツアー、全35本のファイナル。オープニング・ゲストで、ROSE RECORDSからアルバム『ear』をリリースしているアーティスト、尾崎友直がまず登場。アルバムは「ラップというより語りに近いヒップホップ」みたいな感じだったけど、この日のライヴは、トラックなしの語り1曲と、ギターを鳴らし続ける(そう、「弾く」んじゃなくて「鳴らす」でした)1曲、計2曲でした。
そして、喝采を浴びてステージを下りた彼と入れ替わりで、曽我部恵一BANDが登場。ライヴは、アンコールまで合わせて全27曲、2時間半弱。セットリストは、これツアー・ファイナルだからネタバレ気にしないでいい、という意味では書いちゃっていい気もするが、いつもツアーが終わるとROSE RECORDSのサイト内の曽我部恵一「LIVEブログ」のコーナーにセットリストがアップされるのが定例化しているので、そっちよりも先にアップしちゃうのはちょっとナニかなと。
というわけで、今これをアップする、7月2日(月)18:00の段階ではまだあがっていませんが、じきにアップされると思うので、そちらをご参照ください。アドレスはここです。http://d.hatena.ne.jp/live-sokabe/

ライヴの全体の流れをざっくり言うと、前半は『曽我部恵一BAND』の曲が中心でたまに旧曲が混じり、後半はその逆、つまり過去の曲が中心でたまに『曽我部恵一BAND』の曲が混じる、という構成。『曽我部恵一BAND』の1曲目である“ソング・フォー・シェルター”でスタートし、2曲目“兵士の歌”で曽我部はバンジョーに、ギター上野智文はマンドリンに持ち替える。4曲目“ロックンロール”では、曽我部、間奏でティンパレスを叩きまくる。ちゃんとMCをやったのはアンコールで出てきた時のみ。それ以外は1,2回、曲のイントロっぽくギターをつま弾きながら語りのような歌のようなものを聴かせたくらい。つまり、しゃべりもせず、楽器交換やチューニング以外では間を空けることもなく、もうとにかく、次から次へと、ひたすらどんどん曲をやっていく、そういうライヴだった。

ニュー・アルバム『曽我部恵一BAND』が出るまでの曽我部恵一BANDは、前々作『キラキラ!』と前作『ハピネス!』の期間で作り上げた、アッパーでパーティーなモードのライヴをやっていた。曲順とか構成も含めて、同じノリで何年もにわたってやっていたので、『ハピネス!』のツアーが終わった頃には、もう完全にスタイルができあがっていたというか、練り上げられていた。で、それ以降、曽我部がサニーデイー・サービスをやったり、ソロをやったりしている時期になっても、フェスとかイベントとかで曽我部恵一BANDのライヴはちょこちょこあって、そうするとそのままのモードで出てくることになるわけで、よってこっちも「次の曲で曽我部が『オーケー、スイートベイビー、トモ!』って上野くん(ギター)を紹介して、彼が“海の向こうで”を歌うな」とか、「次は曽我部の『真夜中に目が覚める』という語りで始まって“telephone love”だな」とか、読めてしまう。というような期間が、かなり長く続いていたわけです。
なので、このアルバムとこのツアーから、新しい曽我部恵一BANDになっていることを期待していたんだけど、確かに新しいモードに入っていた。って、アルバム自体がそうなんだからあたりまえだけど、でも、明らかに、前とは違うスイッチが入っている。旧曲も、アレンジを大きく変えていたりはしないが、バンドの、ステージの上における存在のしかたからして、違う感じ。唯一、力まかせにどかどかばかすか叩きまくるオータコージ(ドラム)は前と大きく変わっていないが、背を丸め他のメンバーを凝視しながらその瞬間瞬間の最も正しいタイム感を測りながらベースを弾く大塚謙一郎も、がんがんアガってる時間よりもどこか遠くを見ながら、まさに虚空を見つめながらギターを弾いている時間のほうが増えた上野智文も、前とは違う。そして、曽我部。ご存知のように、もう体形からして違う。今年の頭にライヴ観たら別人のように痩せていてびっくりしたが、そのフォルムのまま。元々、太ったり痩せたりが激しい人だけど、僕が初めて会った1994年から現在までふり返っても、ここまで痩せている曽我部、初めてだと思う。
で、その、なんか修行僧みたいになった出で立ちで、もう、ものすごい声で歌う。どこまでもとんでいく、はてしなくのびていく声。何かをぶっ壊すようなパワーなんだけど、壊すのが目的じゃなくてその先のどこかへつきぬけていこうとしているような、まさにブレイクスルーという言葉どおりの歌。で、その歌についていくのでもなく、並走するのでもなく、はぐれるわけでもなく、なんていうんだろう、その同じ瞬間に同じ場所に存在できる方法を探りながら鳴っているようなバンド・サウンド。このライヴ、そういうものに感じた、僕は。だから、楽しかったしかっこよかったけど、すごい緊張感だし、すごくシリアスな時間だった。

アンコールでは、曽我部、今回のツアー、ステージの低いハコでばかりライヴやってきて、今日のこのクアトロはステージ高くてみんながよく見えていいんだけど、なんか上から目線で偉そうで落ち着かないので、アンコールはそっちでやります、ということを告げ、自分は再度バンジョー、上野くんはマンドリンを持ってフロアに降りて、まんなかまで行く。で、360度ぐるっとお客さんに囲まれて(前の方のみなさんはしゃがんだ状態で)、マイク・PAなしの生声&生音で“mellow mind”を歌い、しめくくる。という、大変に感動的なエンディングでした。でしたが、「ああ、よかったよかった」っていうだけではないずっしりとした何かが、残ったライヴでもありました。(兵庫慎司)
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