チャットモンチー×七尾旅人(オープニング・アクト:ラックライフ)@ 赤坂BLITZ

チャットモンチー×七尾旅人(オープニング・アクト:ラックライフ)@ 赤坂BLITZ
「僕は四国の出身なんですよ。四国は不毛の地で。だからチャットモンチーはもの凄く苦労して上り詰めたんだろうなっていうのが、体感としてわかる。内心、応援していたんです」。姿を見せると同時に冗談混じりに会場内を和ませてしまっていた七尾旅人が、ポロリとそんな言葉を吐き出す。対バン形式としては初となる、その名も『チャットと旅人』。旅人のMCは、なるほどそんな共通点もあったのかと思わせてくれた。めくるめくポップ・ミュージックの魔法の一夜を、レポートしたい。

この夜、まずオープニング・アクトとして登場したのは、大阪出身の若き4ピース・バンド、ラックライフだった。「今日は、チャットとラックと旅人だって聞いてきたんですけど、違いますか!?」と不敵ながら憎めないキャラクターのPON(Vo.)が語り、生存本能がメロディと率直なメッセージをドライヴさせてしまうかのような歌が、次々に繰り出されてゆく。この日、無料配布されていた3曲入りのCDを紹介する段になって、LOVE大石(Dr.)の気持ちが昂り過ぎたMCは途中でPONに阻止されてしまっていたけれど、4人が小手先ではなく全身でソウルを伝え、オーディエンスの眼差しを釘付けにしてしまうステージであった。あと、オーソドックスな4ピース編成の出演者がラックライフだけだったというのも面白い。7/25には彼らのニュー・アルバム『キミノコト』がリリースされる。

さて七尾旅人。麦わら帽+作務衣姿を見せては「チャットのファンばかりのところに、どのツラ下げて出て行こうかと思ったよ。でもいいんだ、おれ今日、機嫌がいいから。ん? 呑みに行くか!」と語り、今回のステージを共にするジャズ・フルート奏者=太田朱美を「今、一番お気に入りの演奏家です。天才」と紹介。文頭のMCに繋ぐ。オープニング・ナンバーは『ヘヴンリィ・パンク:アダージョ』ディスク1の冒頭を飾っていた“息をのんで”だ。余りにも個性的にして美しいギター・フレーズが響き、フルートの音色が纏わり付いて、たった2人の演奏とは思えないような音楽の宇宙が広がってゆく。「次は、“星に願いを”におれが勝手に日本語詞をつけて、台無しにしたヴァージョンです」と軽妙な語りを挟み、自らの歌声の響きを最大限に利用した、自由闊達なテンポ感で旅人の歌がまた溢れ出す。開放的なヴァイブレーションによって人々を巻き込んでゆくこのライヴのスタイルは、彼がキャリアの中で手探りしながら掴み取ってきたものだ。言葉としては意味を成さない、ただし音楽的には雄弁な旅人一流のスキャットも添えられてゆく。

8/8にリリース予定となっている新作『リトルメロディ』から、“サーカスナイト”も披露された。《ここは楽園じゃない》(筆者聴き取り)と前置きしながら、それでも途方もなくロマンチックな想いが伝う、そんなラヴ・ソングだ。ふいに、楽曲をブツ切りに中断してしまう旅人。「急に気が変わった。30秒だけトラック出そう」と手元の機材からリズム・トラックを繰り出すのである。一瞬だけ呆気に取られていた太田朱美だったが、即座に対応。彼女のフルートはメロディを奏でるというよりも、豊かな音響のリフレインを効果音のようにたなびかせるようなスタイルだ。2人して何でもないことのように、音楽的コミュニケーション力の高さを見せつけてくれる。あとになって旅人は、「何をやるか伝えてなくて、今日の入り時間すら伝えてなくて、全部ぶっつけでやってるから。天才でしょ?」と語っていた。確かに天才だと思うけど、それ以前に扱いがひどくないか。

“どんどん季節は流れて”“Rollin' Rollin'”の連打には、それまでじっと聴き入っていたオーディエンスもさすがに歓声を上げ、旅人の合図でコーラスを重ねてゆく。そして今回の対バン企画ならではのスペシャルな1曲となったのが、チャットモンチー“風吹けば恋”のカヴァーだ。ヴォーカルにエフェクトを噛ませ、サイケデリックなギターとともに披露される、余りにも七尾旅人な解釈の“風吹けば恋”。最後に、「高知にいた頃の夏祭りを思い出させる、未発表の曲なんですけど」と旅人ひとりでプレイされたナンバーは、穏やかな語り口なのにグニャリと時空をねじ曲げて生々しい郷愁にタッチしてしまう。まるで矢野顕子のピアノ弾き語りに匹敵するようなパフォーマンスであった。
チャットモンチー×七尾旅人(オープニング・アクト:ラックライフ)@ 赤坂BLITZ
チャットモンチー×七尾旅人(オープニング・アクト:ラックライフ)@ 赤坂BLITZ
さて後攻のチャットモンチー。いきなり、橋本絵莉子による歪んだ音色のピアノ弾き語りで綴られるエモーショナルなラヴ・ソングに、福岡晃子の煽り立てるような激しいドラム・プレイが加わってゆく未発表曲を叩き付けてしまう。《イェー、オッオッオー♪》の賑々しいコーラスが耳に残るようだ。続いてえっちゃんがギター、あっこちゃんがドラムを叩きながら右手で鍵盤を弾く“テルマエ・ロマン”がダイナミックに転がり、更には、えっちゃんがギター・リフのループを作りながらプレイされる7/4リリースのニュー・シングル曲“きらきらひかれ”(プロデュースはアジカンのゴッチ)へ。タメの効いたビートと共に、デュオとして生まれ変わって以降もの凄い勢いで楽曲を生み出し続けるチャットの現在地が描き出されるのだった。しかもこれが、単なる2人の暴走ではなくて、会場内に大きな一体感を生み出すパフォーマンスになっているのである。

挨拶に応じてオーディエンスから「髪型かわいい!」の声が飛ぶも、「普通なんで本当にやめてください」と珍しく語気が強まるえっちゃん。あっこちゃんの弁によれば、えっちゃんが髪を切るのは1年に1度だけなのだそうだ。MC後にプレイされるのは“東京ハチミツオーケストラ”である。本来なら、3ピース時代の楽曲がデュオでどう届けられるのか注目すべきなのだけど、もはや新展開が急激すぎて、往年のナンバーに触れると妙に安心感すら覚えてしまったりする。大振りなサウンドの中にユニークな言葉を詰め込んでフックを生み出してゆく未発表曲も披露され、そして6/27(つまりこのレポートのアップ当日)にリリースされる『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2012』に提供した新曲“Yes or No or Love”までが繰り出される。えっちゃんはベースをプレイしながら歌う。この曲もゴッチのプロデュースである。それにしても今回のセット・リスト、ほとんどニュー・アルバムのツアーみたいな様相を示している。
チャットモンチー×七尾旅人(オープニング・アクト:ラックライフ)@ 赤坂BLITZ
「MVを撮影してくれた監督と、出演してくれた女優さんが結婚したんですよ、凄くないですか? 今日、来てくれてるはずなんで」というあっこちゃんのMCにどよめきが起こり、ここで2人に贈られるようにして披露されたのは“春夏秋”。あっこちゃんがベース+足元でキック+手首に巻き付けた鈴を鳴らし、えっちゃんはギターを弾きながら足元の機材でクラップ音というかクラッシュ音というか、そんなビートを加える。「いよいよ雑技団みたいになってきた(笑)そのうち踊りながら演奏するかも知らんな。今日チャット、アホやったって後でつぶやいておいてください」とあっこちゃん。いやしかし、同じくこの雑技団フォーメーションで“ハイビスカスは冬に咲く”もプレイされたのだが、この曲を3ピース時代に初めて聴いたときに抱いた「音楽の教科書に載せろ」という思いが、更に強まるような素晴らしい演奏であった。

再びドラム・セットの中に収まり、手首の鈴を外しながらボソリと「家に戻ってきた気がする」と呟くあっこちゃんである。ここ、重要なので強調しておきます。今、ドラム・セットを「家」と呼びましたよこの人。すげえ。そしてえっちゃんは、先に言いかけていた「(牛の)レバ刺し販売が禁止されるのをついさっき知った」という話の続きで、「慌てて駆け込んだ方が危ないんじゃないかと思います」とズバリ一言。こちらも名言。本編の最後にはソリッドなロック・チューンを2発“ハテナ”と“満月に吠えろ”だ。“〜吠えろ”であっこちゃんはドラムを叩きながらフリ付きのダンスを見せ、えっちゃんはギターがあるのに2コーラス目をハンド・マイクで歌っていた。なんと自由なロック・バンドなのだろう。かっこ良すぎて涙が出てきた。

アンコールでは、「そろそろ、四国パワーを見せつけたいと思います」とチャットが七尾旅人を呼び込む。旅人は「今、おーって歓声とブーイングが混ざってなかった? 見てろよおまえら、あとで一人ずつツイッター炎上させてやるからな。別アカウントで。アーティストが炎上させるって、聞いたことないでしょ? 逆はあっても」と冗談めかしつつ、豪華共演による“Rollin' Rollin”だ。えっちゃんがベースを弾きながら最初にリード・ヴォーカルを務め、あっこちゃんがシンセとドラムをプレイしながらやけのはらパートのラップも繰り出す。旅人がここぞと歌い上げる《baby coming back》のソウルフルなフレーズも最高だ。《赤坂に運ばれて/チャットモンチーに運ばれて♪》と気の利いた即興も加えられながら、ポップ・ミュージックの果てしない自由に触れるような一夜は幕を閉じた。(小池宏和)
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