mudy on the 昨晩(ゲスト:アルカラ) @ 新代田FEVER

「新メンバー、滝善充! うるさいでしょ?(笑)。でも……爽快です!」というフルサワヒロカズの言葉通り、ただでさえ3本のギターがダイナミックに炸裂するmudy on the 昨晩のアンサンブルが、9mm Parabellum Bullet・滝善充の爆音と一丸となって描き出す圧倒的なカオス! 滝をプロデューサーに迎えて完成&6月6日にリリースしたミニアルバム『Zyacalanda』を引っ提げて、東京・大阪・名古屋を回るツアー『もしもしツアーズ~対話編~』。音源制作のプロデュースのみならず、あえてギター3人のmudyにさらにギタリスト・滝が期間限定加入、そのまま『もしもしツアーズ~対話編~』を4本ギターの6人編成で回る……というニュースですでに数多の「!」と「?」を巻き起こしてきた彼らだが、そのツアー初日:新代田FEVERのフロアには、6人の轟音のヴォリューム以上に、稀代のインストゥルメンタル・ロック・スペクタクル=mudy on the 昨晩だからこそ描き出せるスリルと快楽が轟々と渦巻いていた。以下、曲目も含めレポートしていきたい。

 大阪:KING BROTHERS、名古屋:cinema staffとそれぞれ対バン相手を迎えて行われる『もしもしツアーズ~対話編~』、ここ新代田FEVERでのゲストは「ロック界の奇行師」アルカラ。“癇癪玉のお宮ちゃん”で壮絶に軋みを上げるコードワーク、“チクショー”でブレーキ壊れた大暴走を見せるビート感……といったディテール以上に、赤黒くとぐろを巻くロックという名の魔物に魅入られたとしか思えないような凄味と妖気が、田原和憲&稲村太佑のギター・ストロークの1つ1つ、下上貴弘&疋田武史のリズムの1音1音から滲み出してくる。そして何より稲村。魂の摩擦音のようなハスキーなハイトーン・ヴォイス&極限エモーショナルなメロディの力で、聴く者すべての危機感と焦燥感を煽り立てて踊り狂わせながら背徳の世界へと叩き込んでいく、まさに戦慄の歌。7月25日リリース予定のアルバム『ドラマ』から“いびつな愛”も盛り込みつつ、アルカラの「異世界としてのロック」の側面を最大限に増幅したようなアクトを展開してみせていた。

 そんな狂騒感と緊迫感が、MCになると一転。「ギター3本のバンドとの対バンなのに、今日ヴォーカル1人……オンリーロンリー……」「滝くんは出会った頃は肌つるっつるやったのに、今はもう髭ぼうぼう」といった話をジャブ程度にかましつつ、『もしもしツアーズ~対話編~』のタイトルにちなんで自身のiPhone4Sの話へと流れ込む稲村。Siriを使って「mudy on the 昨晩」と話しかけてみたら「ムーディな女 昨晩」と聴き取られたとか、続けて「WEB検索いたしましょうか?」と言われたのでそのまま検索してみたら出てきたのが「昨晩から後頭部に違和感がある女の歌 ムーディ勝山」だったとかいう話も含めていちいちフロアを沸かせ、アウェイだろうが何だろうが構わずがんがんアルカラ時空に引きずり込んでいく。“シェイクスパイ”の途中で「あのミラーボールは回せるんでしょうか?」と稲村が天井のミラーボールを指差せば、FEVERはたちまち光飛び交う暗黒ダンスホールへと突入! 目に映るすべてを真っ白に染め上げるような灼熱のハード・バラード“秘密基地”、そしてひときわソリッド&ダイナミックな“ミライノオト”を畳み掛け、「次はシャ乱Qです。どうぞよろしく!」(稲村)の言葉を残して意気揚々とステージを去っていった。

 そして……フルサワヒロカズ/桐山良太/森ワティフォ/朴木祐貴/伊藤浩平の5人に9mm・滝善充を加えた6人編成のmudy on the 昨晩がオン・ステージ! 1曲目の新作タイトル曲“Zyacalanda”から、緻密に構築されたアンサンブルごと激情の彼方へ押し流すようにフロアに吹き荒れる、6人渾身の轟音! 決して広くないステージに6人分の機材が所狭しと積まれているため、飛び跳ねたりステージを走り回ったりアンプによじ昇ったり、というアクションはいつもより若干抑えめの(あくまで若干だが)ギター勢3人に対し、残されたスペースを最大限に全身で謳歌するかのようにギターをぶん回しながら弾きまくる滝P。インスト・ディスコ“エゴ・ダンス”といい、悲壮なまでにエモーショナルな旋律を噴き上げながら満場のクラップを巻き起こした“moody pavilion”といい、切れ味鋭い5拍子ビートで聴く者の琴線を掻き乱す“Hard/”といい、どれもmudyそのものの音でありながら、これまで観てきたmudyのライブとは明らかに違う爆発力と推進力を兼ね備えたサウンドスケープが展開されている。オーディエンスの高揚感を絶頂へと突き上げ踊り回らせるパワーだって破格だ。

 フロアから飛ぶ「楽しすぎ!」の声に、うんうんとうなずく滝。「うるさいでしょ?」と繰り返し言うフルサワももちろん満面の笑顔。「6月6日に『Zyacalanda』というミニアルバムが出ました! その時はプロデューサーだったはずなんですけど……(笑)」と滝の顔を見つつ、フルサワが語る。「今回、音楽的に新しいことやってるかっつったら微妙なんですけど、音の出口というか、『こういうやり方があるんだな』っていうことがわかったので、(一緒に)やってよかったと思います!」……この日のステージでの、滝の加入によるこの爆発力増加も、「普通乗用車に滝というジェットエンジンを積んだ」的なエクストリームな改造によるものではなかった。むしろ、もともとマッハで走るポテンシャルを持っていたmudyという車に乗り込んだ滝が「ほらこうすればマッハのスピードが出るんだよ」と一段深くゴンとアクセルを踏み込んでみせたあげたらこうなった……的な感じとでも表現すれば、「この日のmudy」の感じに多少は近いかもしれない。飛び道具的なフレーズを追加したりするわけではないが、もともとあったmudyの楽曲のダイナミクスや色彩感をMAXに増幅するために必要な要素を、「プロデューサー:滝」が客観的な視点から付け加えつつ、自ら加えたパートを今度は「プレイヤー:滝」が全身全霊傾けて楽しみまくる、という構図。それによって、時にツイン・リード的なハモリを聴かせたり、時に複雑怪奇に入り組んだアルペジオの密林を描き出したり、時に全員一丸ノイズ爆裂大会に突入したり……という場面の数々が、よりいっそう鮮烈な感激をもって胸に迫ってくる。

 フロア丸ごとジャンプ&クラップへと導いた“marm”“ユアイへ”。ゆったりしたタイム感の中で荘厳なロック・オーケストラを編み上げた“夜が入ってくる”“終末”。ロックの「意味性」から解放されたインスト・ロックの自由度を武器に、ポスト・ロックもダンス・ロックもハードコアも踏み越えた音を撃ち放つmudy on the 昨晩。シーンにおける立ち位置や状況などは度外視して、自分たちの衝動を無限大ブーストしたのが『Zyacalanda』だったし、この日のアクトもそういうものだった。「何やってもmudyだっていう。歌がないのに、こんなに人が集まってくるんですから、関係ないんですよ。それを体現していけたらと思います」(フルサワ)……“PERSON! PERSON!!”“PANIC ATTACK”“YOUTH”の本編ラスト3連射の、極彩色の波動砲のようなサウンドには、mudyの「その先」を真っ直ぐ照らし出す目映さと、シーンに風穴こじ開ける突破力が確かにあった。フロアに飛び込むワティフォ。オーディエンスに挑みかかるようにギターを弾き倒すフルサワ。天井に届きそうなくらいの勢いでモニター上に立ち上がる滝……狂騒と書いて祝祭と読む、最高の一夜だった。それにしてもこの6人編成、「期間限定加入」なのは実にもったいない。またどこかでやってほしい。切に願う。(高橋智樹)
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