SHAKALABBITS @ 新木場スタジオコースト

SHAKALABBITS @ 新木場スタジオコースト
SHAKALABBITS @ 新木場スタジオコースト
SHAKALABBITS @ 新木場スタジオコースト
吹っ切れた、そう簡単に書いてしまうことが憚れるほどに多くの想いが溢れては重なる、それゆえに巨大な歓喜に到達したステージであった。SHAKALABBITSの新作『Condenser Baby』を携えた全国ツアー、事実上のファイナルとなる東京・新木場スタジオコースト公演である。とはいえ6/16には沖縄での追加公演が控えているので、そちらに参加予定の方は以下、ライヴレポートの閲覧にご注意ください。

序盤のMCでまずは「ただいま!」と声を上げ、さっそく、「TAKE-Cの実弟になります。栃木県日光市からやってきました、ベースマン・YOSUKE!!」と新加入メンバーをにこやかに紹介するUKI。そして「新木場のみなさん、元気ですかー!?」と、良く通る野太い声で紹介に応じるYOSUKEである。彼が初めてSHAKALABBITSのステージに立った昨年のCOUNTDOWN JAPANのときにも思ったけれど、ベース奏者としてのみならず、加入していきなりバンド活動の起爆剤として機能してしまっているかのような彼の佇まいは実に頼もしい。

遡って、昨年12月頭の、少なくとも傍目には唐突な前ベーシスト=KINGの脱退劇は衝撃的だった。オフィシャルHPに掲載された3人のメンバーたちのコメントが余りにも赤裸々で感情的だったことも含めてだが、そこには3人のひたむきな活動姿勢と長年にわたる葛藤が、露骨なまでに横たわっていた。TAKE-Cの実弟であるYOSUKEの加入というのも、これまた傍目にはドラマティック過ぎる急展開であったかも知れない。生まれ変わって突き進むことを決断したSHAKALABBITSと、それに向き合うファンは、どのように歩調を合わせるのか。或いは、歩調を合わせることが可能なのか。何よりも気掛かりだったのはその点についてだ。

『Condenser Baby』の最新モードを、ソリッドなロック・サウンドと練り込まれたアレンジで叩き付けてゆくステージ序盤。UKIのガーリーな節回しがクリスピーに弾け、まるで彼女のヴォーカリゼーションがバンド・グルーヴの一翼を担うようにして、シングル曲“mademoiselle non non”も届けられる。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのそれを彷彿とさせるような、体当たりの経験値から描き出されるエモーショナルなメロディのストーリーテリング“River’s Edge”、そこから「一緒に歌ってくれる?」とオーディエンスに歌詞を預ける“head-scissors”への流れは最高だ。地鳴りのように沸き上がる歓声に、UKIは耳をそばだてているのか、はたまた頭を抱えているのか、そんな素振りを見せている。

「(初日の)恵比寿で、《よろしく》と《ありがとう》を伝えに行くって言ったんだけど、各地のみんながそれに応えてくれて、SHAKALABBITSを抱きしめてくれて。本当に幸せなバンドだと思いました。あまり口には出したくないけど、でも本当に、解散しなくて良かったです。みんなが私たちを繋ぎ止めてくれました。これからも私たちのグルーヴで、もっとみんなを踊らせて、笑顔にしたいと思います」。UKIはよく、グルーヴという言葉を口にする。そこには、自分たちが生み出した音楽、そこに込められた経験と感情、意志すべてを包括する意味が、込められているように感じる。

暗がりの中でYOSUKEのベース・イントロが不穏な音響を導く“MutRon”、そしてキャッチーな響きの中に膨大な情報量のアレンジが込められた“IT'S OUR SECRET”。一曲ごとに高揚感を煽りたてる、ライヴ仕様のイントロが練り上げてあることも、今現在のSHAKALABBITSのミュージシャンシップの高さを伺わせていた。UKIの囁くような歌い出しからスタートする“G☆S☆G”も然りである。ただ鉄板の代表曲をプレイするということだけには、決して依存していない。

“Vamos A La Marcha”から“YOU and ME”をメドレー気味に放つ一幕では、UKIはショルダー・キーボードを、TAKE-Cはボンゴを、そしてドラム・セットから飛び出したMAHがUKI所有のザック・ワイルド・モデルのフライングVを奏でるという自由奔放なフォーメーションも披露してくれて楽しい。いや、楽しいだけではなくて、豊かに音楽性の射程を広げた新作の世界観が描き出されていた。背景のスクリーンには美しく楽しいアニメーション映像。トロピカルなグルーヴがサイケデリックなロック・サウンドへと移ろう“A Magical Hand Story”のアイデアも秀逸だ。

“SPICE!”の直後、UKIは「さっき、ハーモニカのEを妖精さんが持って行っちゃったんだよ〜……おまえか!」と笑いを誘いながら、この日の公演終了後に渋谷でオールナイトのアフター・パーティが行われることや、15周年目にして初めてファンクラブが設けられること、そして今秋、これまた初の試みとしてミニ・アルバムをリリースすることなどを告知。「ツアーの合間におもしろい曲がたくさん出来て、やったことないことやろうぜっつって」。今の活動の充実ぶりを説明するような話だ。

“ダズリングスープ”では、「長男!」「次男坊!」というUKIの合図で、TAKE-Cの小気味好いギター・カッティングとYOSUKEのスラップ・ショットがデッド・ヒートを繰り広げる。「毎回思うけど、みんなが笑っていてくれると嬉しいよ。泣いたり、しかめっ面になったりして成長するっていうのはあるけど、やっぱりその先で、みんなに笑っていて欲しいよ」と語るUKI。またもやオーディエンスに歌詞を預け、フロアの至る所に肩車が立つ“MONSTER TREE”では、しかしいざ自らが歌うとなれば、ひときわ力のこもったソウルフルな歌声を響かせるのだった。「時間経つの超早い、っていう話を、今4人でしてた(笑)。もう22曲もやったんだ。詐欺じゃん! でも、進めましょう、時間を!」と本編クライマックスは堂々の“「ポビーとディンガン」”、そして、たった今パフォーマンスが始まったかのような高速回転ヴォーカルが弾ける“I’m a Dreamer”。本当に、あっという間の2時間であった。

SHAKALABBITS @ 新木場スタジオコースト
SHAKALABBITS @ 新木場スタジオコースト
SHAKALABBITSコールでアンコールを催促するオーディエンスに応え、まずはMAHが「お前たちにドラムスをお見舞いする!」と熱いソロを敢行。そして既にオフィシャルHPでもニュースとして掲げられているが、12/31に川崎クラブチッタで久々のカウントダウン・ライヴが行われることも告知された。ちなみに、12/31はYOSUKEの誕生日でもあるとのこと。ステージ本編の余りの充実ぶりに、アンコール5曲の中で“Pivot”がプレイされたときには「そう言えばまだやってなかったっけ」と間抜けなことを思ってしまった。

「昨日、風呂に入りながらいろいろ考えてたんですけど、いざみんなと向き合ったら吹っ飛びました。とりあえず今回は、演奏中にパッと横向くと、弟がいるんですよ!」と感無量な様子のTAKE-C。「SHAKALABBITSに入って一番嬉しかったのは、名前を呼んで貰えたことです。それがどれだけ力になるか、分かるか!? 一生SHAKALABBITSやります! この2人(UKIとMAH)も俺の家族です!」と熱い想いを語って勝手に照れているYOSUKE。「創作をやってると、これカッコイイのかな、って思うときもあるんですよ。そんなときYOSUKEは、これカッコイイよ、って言ってくれるんです。この子はいい子です。間違いがありません。ありがとね」とメイン・ソングライターの立場からYOSUKE加入の意味の大きさを語るMAH。そしてUKIは「今を生きています。一緒に歩いてください」と告げ、4人は最後の“Soda”に向かっていった。

一人の人間の考え方や言動には、その人の歩んできた人生すべてが反映されている。だから、人の考え方や言動を変えるのは難しい。自分自身が変わることと同じだけ難しい。膨大な時間と密度のコミュニケーションが必要とされ、それでも話は平行線を辿るかもしれない。ただ、優れたロックは、数分間のうちに多くの経験を、感情を、意志を、つまり人生の一部を人々と分かち合うことが出来るコミュニケーション・ツールだ。想像も及ばないほどの苦悩の末にひとつの決断を下して再び歩み出したSHAKALABBITSは、素晴らしいステージを見せてくれた。そのステージで交わされたコミュニケーションのもとに、彼らの決断は理解され、肯定されていた。「今のSHAKALABBITSが好き!」という女子オーディエンスの率直な声には、どれだけ多くの経験が、感情が、意志が、込められていたことだろう。(小池宏和)
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