このザ・マッカビーズの結成は2004年、2007年のデビュー・アルバム『カラー・イット・イン』以来コンスタントにリリースを続け、そのいずれもが本国UKでは安定したヒット作になっている、昨今の英国においては稀な「健やか成長タイプ」の若手バンドだ。デビュー当時はブロック・パーティーのサポートをこなすなどUKアート・ロック高踏派の新人と目されてきた彼らだけど、セカンドの『ウォール・オブ・アームズ』の大成功によってよりメジャーな、それこそ英国の今後のシーンを背負うバンドへと転じつつある存在だ。
今回の来日は今年頭にリリースされたサード・アルバム『ギヴン・トゥ・ザ・ワイルド』(これまた全英初登場4位と大健闘)を引っ提げてのツアーとなる。ただ、上記のようなマッカビーズの本国での評価とセールスは、残念ながらいまだここ日本では理解されきっていないというのが現実で、この日の渋谷Duo Music Exchangeも満員とはいかなかった。でも、少なくとも今回のツアーでマッカビーズのパフォーマンスを観た人達は、「地味で良質な文系ロック・バンド」なるマッカビーズの定型がブチ破られる瞬間を目撃できたはずだ。
マッカビーズのライヴは6人編成のトリプル・ギター、時にトリプル・ヴォーカルにもなるという重層感がパフォーマンスの肝になってくる。ちなみにヴォーカル&ギターのオーランド・ウィークスを挟む体勢で佇むツイン・ギターのヒューゴとフェリックス、そしてキーボードのウィルは三兄弟で、ヒューゴとフェリックスは髪型まで含めて見た目そっくり、彼らがオーランドを中心にして横並びになると、線対称な画を見るようでちょっと面白いことになっている。
1曲目は最新アルバム『ギヴン・トゥ・ザ・ワイルド』からの“チャイルド”。湖面に石を投げ込んで生まれる波形をじっと見守るような、静謐と緊張感の中からじっくりと立ち上がっていくタイプのスターターだが、この“チャイルド”がいきなり凄過ぎて思わず口があんぐりとなってしまった。この曲にはマッカビーズのライヴ・バンドとしてのポテンシャルが早くも全部盛り込まれていたと言ってもいい。究極のミニマリズムからリミッターが解除された瞬間に一気に複雑多彩なリフを掛け合わせ始めるトリプル・ギター。そのギターのカオスを導きながらスムーズな転調を促すバカテクなリズム隊。そして、基本レイヤーに次ぐレイヤーで厚みを増していく演奏の中で、高速弾きのギター・ソロまできっちり放り込んでくるロックのカタルシス。技術力と表現力に加えて構成力と余裕の遊び心まであるという、UKバンドとしては本当に珍しいマルチタスク・タイプのライヴ・パフォーマンスなのだ。
続く“フィール・トゥ・フォロー”も凄い。“チャイルド”で示されたマッカビーズの基本スペックがいきなり応用編に突入するかのように、一気にエモーショナルに走り出す演奏。しかもエモーショナルに走っても彼らは時に「静止」して見えるほどの美しい瞬間が存在するのも凄い。あまりにも飄々と演奏しているので一見ナードなイメージの彼らだが、良く見ればヒューゴやフェリックスの上腕筋は常にビキッと力が入っていて、無茶苦茶パワフルかつファストなギター捌きをさらっとやってのけていることがわかる。
マッカビーズの曲は主にポスト・パンク風のリズム主体のナンバー、プログレとサイケを足して二で割ったような壮大な陶酔系ナンバー、そしてアーケイド・ファイア以降のインディ・ロックの世界的潮流のひとつであるパストラルでポップなフォーク調の主に3種類に分けられる。そのどれもが昨今のインディ・ロックの定型ではあるのだけど、その全てをすべからくパーフェクトに演奏しうるプレイヤビリティを持ったバンドというのはなかなか存在しないだろう。
「ドウモアリガトウ、ミンナ、タノシイ?」とオーランド、そして始まった“グリマー”以降は“X-RAY”他初期のナンバーも入り乱れ、上記の3種のエッセンスが入れ替わり立ち替わり顔を出すめまぐるしい展開となった。そして本編ラストの“ペリカン”では、その3種のエッセンスが1曲の中で完全にひとつになる様をライヴ=生で目撃できるという贅沢な瞬間になった。
今回のライヴを観た人はぜひ、マッカビーズという凄いバンドがいることを友達に教えてあげてください。トゥー・ドア・シネマ・クラブやフォールズが好きな人達にも、ぜひ出会って欲しいバンドです。(粉川しの)
1. Child
2. Feel To Follow
3. Wall of Arms
4. No Kind Words/Bag of Bones Part A
5. Ayla
6. Lego
7. Glimmer
8. Went Away
9. William Powers
10. First Love
11. X-Ray
12. Can You Give It?
13. Forever I've Known
14. Toothpaste Kisses
15. Love You Better
16. Pelican
encore
17. Go
18. Precious Time
19. Grew up at Midnight