BIGMAMA @ Zepp Tokyo

BIGMAMA @ Zepp Tokyo - pics by azusa takadapics by azusa takada
 「今日はツアー・ファイナルです。今日がツアー・ファイナルです……『大切なことは2回言うといい』と教わりました(笑)。今日は母の日じゃん? 俺さ、1年に1回『バンド名変えません?』ってバンドに持ち込むぐらいバンド名に愛着がないんだけど(笑)。今日はとにかくバンドにとって特別な日でさ、僕らにとっても特別な日でさ。今日ここに来てくれた人たちに対して俺らは、ありとあらゆる手を使って、今できる全部を出し尽くして帰ります!」という金井政人(Vo・G)の叫びに、母の日のZepp Tokyo満場のオーディエンスからうおおおおっと沸き上がる大歓声!……ロックとヴァイオリンの接点から無限のダイナミクスを生み出し、メロコア/エモ/ヘヴィ・ロック/クラシックなど貪欲に消化し表現世界を広げながらロック・シーンを絶賛席巻中の精鋭5人組=BIGMAMA。今年1月にリリースされた最新アルバム『君がまたブラウスのボタンを留めるまで』を引っ提げて、2月2日・千葉LOOKから全国をサーキットしてきたツアー『母がまた母の日を終えるまで』も、5月19日のツアー番外編・沖縄公演および延期となった仙台公演の振替日程(6月2日)を除けばこの日がツアー・ファイナル。「モッシュ、ダイブ、肩車、その他いろいろありますが、くれぐれも(1)ケガをしない (2)ケガをさせない (3)周りのお客さんに迷惑をかけない (4)母に迷惑をかけない……以上をお守りいただくようお願いいたします。母に最大級の愛情と感謝を籠めて、ケガなく最後までお楽しみください!」という開演前の陰アナが鳴り響いた時点で、まさに母の日当日の開催となったBIGMAMA初のZepp Tokyoワンマン公演は轟々と歓喜渦巻く狂騒空間と化していた。そして……。

 ブラウスやスーツなど色とりどりの巨大な服が背後にディスプレイされ、片隅にはカーネーションが飾られたステージに5人が登場。アルバム『君がまたブラウスのボタンを留めるまで』同様、“beautiful lie, beautiful smile”の雄大なサウンドスケープから“#DIV/0!”の性急なビートへ流れ込んでスタート! やっと探し当てた財宝を奪い合って1人また1人と姿を消し、最後の1人になった人間は孤独に苛まれ自ら終わりを選ぶ……というディープな世界観を展開する“#DIV/0!”が、でっかいクラップとシンガロングの渦を巻き起こし、クラウドサーファーが次から次へとステージを目指していく。「今日は僕らにとって特別の日です。最高の夜にしましょう」(金井)というコールから、柿沼広也のハード・エッジなギターと東出真緒のヴァイオリンがドヴォルザーク“交響曲第9番『新世界より』”の旋律を高らかに奏でる“荒狂曲"シンセカイ””、さらに“Paper-craft”の荘厳なまでにエモーショナルな音像へ……と次々に楽曲を畳み掛け、熱気に熱気を塗り重ねながら圧巻の狂騒感を描き出していく。そんなフロアを感慨深げに眺めながら「なんかもう、今日のために生まれてきた気がします!」「序盤から感極まって何も言えねえや!」と語る金井の言葉が、フロアの温度をさらに上げていく。「世の中だいたいお金で回ってると思ってるんですけど、今だけは信じられる。こんなクサいことも言えるんだ。『みなさん、愛で地球を回しませんか?』」と呼びかけながら《今日から地球は愛で回るよ》と歌う“Lovescape”でZeppを揺らし、「みなさん、パーティーの準備はよろしいですか?」と“Zoo at 2 a.m.”へ突入!……というところまで、体感時間でほんの一瞬だった。

BIGMAMA @ Zepp Tokyo
 世界の矛盾や違和感を寓話化したような歌詞を、極限ダイナミック&エモーショナルな金井/柿沼/東出/リアド偉武(Dr)/安井英人(B)/のアンサンブルとともに解き放っていくことで、鮮烈なロックの世界絵図を構築してきたBIGMAMA。しかし、『君がまたブラウスのボタンを留めるまで』はそこから一転、金井政人が極めてパーソナルな、そしてシビアな自分の内なる葛藤や想いと向き合い、それをバンド全員で共有するーーというまったく別の方法論で生まれた作品だった。だからこそ、たとえば“週末思想”前に「今日もたぶんどっかで誰かが電車に飛び込んでんだって。勝手にしてくれって、なるべく人に迷惑をかけないようにって思ってしまうんだけど……でもさ、俺は一周回って、これ以上大切なものを失いたくないんだ。ここにいるみんなだけには絶対に死んでほしくないんだ。ズルしたって何だっていいし、ヘラヘラ笑っててもいいからさ、生きてようよ!」と切々と語ったりした通り、金井が曲解説的に語りかける言葉も、すべてが楽曲と一体になった真摯なメッセージとなって響いてくる。

 本編終盤、「アルバムの話をしていいかな?」と『君がまたブラウスのボタンを留めるまで』について話し始める金井に、さっきまで熱狂の極致にあったオーディエンスが身動きも忘れて聴き入っていく。「去年さ、日本がすごく悲しい、大変な時期に、ミュージシャンが愛とか希望とか平和とかをどんどん歌にしてて。俺はそれをちょっと半歩出遅れて眺めてたんだ。でも……自分がいざ何か作りたい、形にしたいって思った時、僕もそうだったんだ。何十万とか何百万の人の心を癒すような曲を作りたい!と思って作ったら、全然カッコよくなくてさ(笑)。なんでだろう?って思ったら……俺の頭の中でずっと、1人の女の子が泣いてたんだ。救えなかった女の子がいてさ。そのたった1人を救えないまま、何十万人を救おうとする歌なんてさ、まず俺に響かねえわって。何年も前の話だけど、ひとつ約束をしたんだ。その子が明日を選ぶので精一杯な時に、俺は『また君が人を信じることができるように、いつかそんな曲を作るよ』って。その約束を守れないまま、俺は逃げ出してしまったんだ。このタイミングでそのことに気づいて……その約束を果たすことが、僕がいちばん音楽に対してできる第一歩でした。その積み重ねでできあがったアルバムでした」……その虚飾なき言葉に、力強い拍手と歓声が沸き上がる。凛とした高揚感とともに響き渡る《I'm Standing on the Scaffold》(僕は絞首台に立っている)のフレーズに思わず戦慄が走り、肌を刺すような“かくれんぼ”のサウンドスケープがZepp Tokyoをさらに狂騒の彼方へと導いていく。鍛え上げ磨き上げられたロックのアンサンブルに、「想い」の力がロック以上の輝きを与えていく。最高のスペクタクルだ。

BIGMAMA @ Zepp Tokyo
 「ツアー回ったら、ほんと自分の人生みたいにいろんなことがあって。わりと人生のどん底を味わったよ」と金井。ここRO69でもお伝えした通り、3月23日・TOKYO DOME CITY HALLでの特別公演『母がまた座席指定のライブを終えるまで』では金井の喉の不調によって本来の力を出し切れないまま終了、さらに直後の仙台公演もキャンセルすることになった。「TOKYO DOME CITY HALLで喉が潰れた時、『どうかこのチンコを喉チンコにしてくれ!』って思ったよ。でも、どんなに自分のことを嫌いでも、自分の作った曲だけは好きだったんだ。で、それを一緒に作ってくれるメンバーも好きなんだ。で、それを好きで集まってくれるみんなのことがすげえ好きだっていうことが、改めてこのツアーで気がついたんだ! 誰が何と言おうと、今日はBIGMAMAのベスト・ライブなんだ!」という言葉で熱い歓声を巻き起こしながら、「……ベスト・ライブって言ってみたけどさ、俺きっと来週の沖縄では『ベスト・ライブです!』って言ってると思う(笑)」と自ら水を差して爆笑を誘う金井。「でも、今日が今までの僕らのベスト・ライブなんだ!と思って現状楽しんでやってます。それはみんなも一緒で。『今日最高だったね!』って言ってほしいけど、明日は明日で最高なところを見つけてニコニコしててほしいんだ。だから……タイムマシンは要らないよ、って思うわけよ」。それに続くナンバーはもちろん“I Don't Need a Time Machine”! 疾走するビート、晴れやかなサウンドの中、メロディをフロアの大合唱に委ねる金井。至福の一夜を全身で楽しんでいるオーディエンスの一体感がさらに強まり、そのまま『君がまた~』の“秘密”へ雪崩れ込んでさらなるカオスを生み出していく。本編最後は金井曰く「約束の歌」である“until the blouse is buttoned up”。「このツアーでいちばんでかい声聴かしてください!」という呼びかけに応えて、Zeppの天井を貫く勢いで響き渡るシンガロング。輪になって踊り回る人、笑顔で肩を組んで喜びを分かち合う人……至上の風景を残して、本編は幕を閉じた。

 “until the blouse is buttoned up”のメロディを歌い上げてアンコールを求めるオーディエンスに応え、ほどなく5人が再び登場。「今日、母の日で、我々BIGMAMAじゃないですか? 会場限定とメールオーダーで、特別に母の日スペシャル・シングルを用意しました!」と、アルバムからシングル・カットされた“母に贈る歌”について語る金井。「“母に贈る歌”を作った時、うちの母ちゃんがいろいろあって落ち込んでたんだ。『母を喜ばせるひと言を考えよう!』と思って考えて……『またあなたの子供に生まれたいよ』って言ってあげたらいちばん喜ぶかな?って思ったけど、恥ずかしいから言えなくてさ。そういう歌を作ってこっそりプレゼントしてあげたら嬉しがるかな?って」。《本当は照れ臭いけど》と言いながら母への真っ直ぐな感謝を歌う“母に贈る歌”が、紛れもなく「今、ここ」の感動的なアンセムとして響いていた。「今日をもっと特別な日にしたかったからさ、初披露の新しい曲を用意してきた!」とひときわ清冽で伸びやかな曲をパワフルに体現する5人の熱演が、あっという間にフロアの「オイ! オイ!」コールを巻き起こしてみせたのはさすがだ。

 最後の“Neverland”まで約2時間。「すげえ前にBUMP OF CHICKENのZepp Tokyoを観に来て。確か俺のバージンを奪ったのはZepp Tokyoだったんだ(笑)。そこでツアー・ファイナルを迎えてることが未だに信じ難いし。いきなり後ろから『ドッキリでした!』って言われても、わりと受け止める自信はある!」と金井はMCで話していたが、もはやZepp完全掌握どころか「その先」のスケールの音と訴求力を自ら実証してみせた、堂々のロック・アクトだった。終演後、「よかったら持って帰ってください!」と金井が呼びかけていた通り、ツアー・ファイナルに寄せられたカーネーションはじめ祝いの花を手に汗だくの笑顔で会場を後にしていく観客の姿が、いつまでも胸に残った。(高橋智樹)


BIGMAMA @ Zepp Tokyo
[SET LIST]

01.beautiful lie, beautiful smile
02.#DIV/0!
03.GhostWriter
04.最後の一口
05.荒狂曲"シンセカイ"
06.Paper-craft
07.Gum Eraser
08.Lucy
09.Lovescape
10.Zoo at 2 a.m.
11."Thank You" is "Fxxk You"
12.走れエロス
13.the cookie crumbles
14.アリギリス
15.週末思想
16.I'm Standing on the Scaffold
17.かくれんぼ
18.I Don't Need a Time Machine
19.秘密
20.until the blouse is buttoned up

Encore
21.母に贈る歌
22.ダイヤモンドリング
23.新曲
24.Neverland
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