レキシ@LIQUIDROOM ebisu

レキシ@LIQUIDROOM ebisu - pics by 橋本塁(SOUND SHOOER)pics by 橋本塁(SOUND SHOOER)
レキシ@LIQUIDROOM ebisu
イベント出演などは絶え間なく入っているものの、がっちりワンマンやるのは1年ぶりの……というか、ちゃんとしたワンマン自体、これがまだ2回目じゃないか? の、レキシ@リキッドルーム。東京と大阪の2本で、「レキシでも金」(正しい表記は金をマルで囲んだものです)というタイトルが付いています。当初は「谷でも金、レキシでも金」というタイトルにしようと思い、だからアーティスト写真も柔道着&金メダルで撮ったんだけど(公式サイトに載ってます)、「谷さんに怒られるかも」という声が出て「谷でも金」を削ったので、よくわからないことになってしまった。と、ご本人、MCでおっしゃってました。
というわけで、6日に大阪もあるので、「レポ、あんまネタバレするとまずいですよね」「そうですねえ、でも何曲か曲名を書くぐらいなら」というやりとりを、事前に事務所の社長としたのですが、とりあえず、観終わって、私、頭を抱えました。
どこからどこまでがネタバレなんだ、これ。

曲目とかはともかく(ほんとは「ともかく」じゃないけど)、池ちゃんの、あの、悪ノリと勢いとその場の思いつきと脱線につぐ脱線による長い長い長い長いMC……MCだけじゃないな、ふるまいとか行動とか全部含めて、もうはてしなく延々と続いていく、そしてオーディエンスをエンドレスで「血を吐くほど笑う」状態に陥れていく、一連の「ぐだぐだ」なあれ。あれ、アドリブみたいに見えるし、大半はそうなんだろうけど、そうじゃないものもあるのですね。ご本人が「『MCでこれ言おう』って思いつくと携帯にメモってるのよ。でも、ケータイ忘れてきた、何の意味もない!」と、前半に言っていたので。
というわけで。前もって用意してるやつはもちろん、この場でアドリブで言ったりやったりしたやつも、ウケたら大阪でも使うかもしれないわけで、そしてほぼすべて大ウケしていたわけで、それをここで逐一書いてしまうというのは、芸人が言うことを先にテロップで出してしまうダメーなネタ番組みたいなことになってしまうのではないかと。

それから。もうひとつ難しいのは、こういう池ちゃんのしゃべりやアドリブ、観てるともう死ぬほどおもしろいし爆笑するんだけど、「でもそれ、文字化しても……」というものであること。あれ、池ちゃんは、すべて、その場の空気とか雰囲気とか流れとかをすべて把握した上で、絶妙のタイミングでくり出しているものなのであって(そのへん、すごいセンスと才能だよなあといつも思う)、だから死ぬほどおもしろいのであって、あとで文字にしたものを見ても、一体何がおもしろかったのかわからないことが多いのです。
一応、私、観ながらメモをとっていたのですが、今それを見直すと、こんなことが殴り書きしてあります。

「池ちゃん、渡に振る時だけ猪木のマネで『元気ですかー!』」
「そこに長嶋の『セコムしてますかー!』も混じる」
「ラスカル飼いたい」
「突然薬師丸ひろ子」
「ビートたけしの『冗談じゃないよ』からWINK、そして志村けんへ」
「BOSEに“ブギーバック”をむちゃぶり」
「やついくんかわいそすぎ」
「高岡早紀から沢口靖子へ」

ね。わけがわからないでしょ。ただ、わけがわかるように具体的に説明しても、たぶん、おもしろくないと思う。という意味では、すさまじく一期一会な、まさにライヴな場なのだ、とも言えます、レキシのステージって。
とりあえず、私が最も象徴的だなあと思ったMCでの発言ふたつ、これでした。前者はゲストのMC四天王ことBOSE、後者は池ちゃん。
「これ、すっごい難しい現場!」
「(フロアを見ながら)いい顔してるぜ! 困惑して、いい顔してるぜ!」

ちなみに。本人、1曲目(が終わった時点で15分くらい経ってました)と2曲目の間に、「言うても今日、12~13曲ぐらいしかやんないから。先に言っとく! 12~13曲、アンコール込み!」と宣言。本当にそのとおりでした。始まったの19:15くらいで、終わったの、22:05。13曲で2時間50分。10分以上延々とやる曲がいくつかあるのと、ここまで何度も書いているように、しゃべりが異常に長いからですが、レキシのワンマンにおいては、普通です。むしろ、3時間を超えなかった分、今日はあっさりしていた方だ、という、通の方の声もききました。

と、具体的なことを何ひとつ書かないままここまで来ましたが、このまま終わるとあまりにもナンなので、書いていい範囲でいくつか。

まず、バンドメンバー。レキシのメンバーって流動的で、大きく言うと、イベントで短時間だったりする時のアコースティックっぽい少人数編成バージョンと、がっちりやる時のバンド・バージョンがあって、そのバンド・バージョンの方もドラムやギターが複数いて、日によって入れ替わる(単にスケジュールの問題だと思います)、というふうになっているのですが、この東京・大阪は、バンド・バージョンで、以下のメンバーでした。
あ、名前、いちいち「レキシネーム」が付けられています。ファンはご存知でしょうが、念のため。

ベース:ヒロ出島改めマジ出島(と、メンバー紹介の時に告げられてました。山口寛雄)
ギター:健介さん格さん(奥田健介/NONA REEVES)
ピアノ&コーラス:元気出せ!遣唐使(渡和久/風味堂)
ドラム:蹴鞠chang(玉田豊夢)

で、ヴォーカルと時々キーボードが、レキシの親方様=池田貴史。
プラス、ゲストあり。

足軽先生(いとうせいこう)
シャカッチ(は、なぜかいつも本名はクレジットされていない。書いちゃいけないのかな。「忍者」って設定だから名前は伏せるってことなのかな。まあ、以前に親方様と一緒にバンドをやっていた方です)
MC四天王(BOSE/スチャダラパー)
MC末裔(ANI/スチャダラパー)
and more

この「and more」、やついいちろうくんでした。東京のみの出演だそうです。アーティスト・ネームは「Deyonna(仮)」でした。という段階で、お詳しい方はどういう役回りで出てくるのかわかると思いますが、要は、レキシのアルバムにおけるDeyonna=椎名林檎なわけで、出る前に池ちゃん、「今日は出ますよ」とか「男ばっかりなんでそろそろ女子も」とか、さんざんあおってフロアをわーわーわかせたところで、椎名林檎の代わりにヤワラちゃんの扮装でやついくん登場、というオチだったのでした。池ちゃん。こんなにも「ゲストを出づらい状況に追い込んでから出させる男」、初めて見ました、私。しかも、このパターン、これが初めてじゃないし。やついくん、会場に来たら何の説明もなく柔道着と金メダルを渡されたそうです。で、しょうがないので、出番まで楽屋で、YouTubeで田村亮子の試合を見まくって、動きを必死にコピーしたそうです。

で、ゲスト、それぞれがそれぞれの参加する曲をやったあと、後半、ステージに全員勢揃いする一幕があったのですが、その時などはシャカッチさん、MCのあまりの長さに、途中から「ただニヤニヤしながら観てる人」になってました。BOSEさんは、最初に“そうだレキシーランド行こう”をやるために登場した時、「(この曲を人前で)1回もやったことない。だってやるつもりで作ってないもん」とぼやきつつも、(人のライヴなのに)仕切って進行しようとするも、そのたびに池ちゃん&ANIにはてしなく阻まれ、しまいには「もうやらない! 歌わない! ほんとにしゃべりだけで帰るからな!」とキレておられました。

あと、曲目。“Goodbyちょんまげ”“きらきら武士” “LOVEレキシ”あたりの定番曲はしっかりやりました。“Let’s忍者”“ペリーダンシング” “そうだレキシーランド行こう”“狩りから稲作へ”あたりのゲストありきの曲も、もちろんやりました。あと、シャカッチさんのコーナーでは、曲中にちょっとしたサプライズがありましたが、これ、大阪でもやるかもしれないので伏せておきます。お楽しみに。
あと、新曲も1曲やりました! どファンクでもどソウルでもない、ちょっと意外な曲調でした。これも、お楽しみに。

というわけで。そんなふうに「おもしろきゃいいのか?」「いいんです!」という思想に貫かれているのがレキシのライヴだ、というのは、まずありますよね。で、そういうものなんだけど、演奏は異様にすばらしい、というかすばらしい演奏をできるミュージシャンしか呼ばれない、というのも周知の事実です。あと、「レキシ」というコンセプトそのもののユニークさも、周囲に十二分に認められている、と言っていいと思うし、ゲストの活かし方も、それとからんだ時の自分の活かし方も、やたら優れている、という評価もあります。
ただし。池ちゃんのヴォーカルそのものについては、あんまり語られていない気がする。すばらしいのです。特に、生で聴くと。元々ヴォーカリストではないわけで、技術的な面で言うと、たとえばシャカッチさんには遠く及ばなかったりするんだろうけど、なんというか、メロディと声のハマリ具合が、えらく魅力的で、ほんと、聴かせる、この人の歌。ファンクとかソウルとかの定番のマナーに沿った歌なんだけど、そういうレコードを何百枚何千枚と聴きこんできて、それによってモノマネじゃなくて自分のものとして完全に身体化されている。そして、自分の血となり肉となっているその膨大なインプットの中から、この曲のこのタイミングではどの部分をどう出せば最も人に届くか、が、本能的にわかっている。そういう歌だ、これ。
在日ファンクにおけるハマケンみたいなJB方面じゃなくて、しっとりと美しいメロディを聴かせる方向のソウルやファンクの系統で、でも歌謡曲っぽい方向には行かないで、こんなにいい歌を歌えるヴォーカリストって、日本になかなかいないのではないか。“きらきら武士”の「♪あなたは武士~」のところのメロと声の響きなんて、もう最高だと思う。

あと、なんでそもそも、池田貴史はソロをやるにあたり「レキシ」というコンセプトを必要としたのか、ということについても、いつか書きたい気がします。しますが、まあ、超簡単に言うと、レキシ、始まったのはもうずいぶん前だけど、今のような形になって、今のような曲と歌詞(特に歌詞)を書いて歌うようになった理由のひとつに、永積タカシと中村一義というふたりの天才を一緒にバンドをやった、というのがあるのではないか、と僕は思っています。(兵庫慎司)
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