『キューン20イヤーズ&デイズ』チャットモンチー/NICO Touches the Walls @ LIQUIDROOM ebisu

キューンミュージックの設立20周年&社名変更を記念して、20夜にわたってレーベル所属アーティストが軒並み登場するイベント企画『キューン20イヤーズ&デイズ』。16夜目の本日は、チャットモンチーとNICO Touches the Wallsの対バン。ここまで真心ブラザーズとゴスペラーズとか、RHYMESTERとねごととか、ユニコーンとTOTALFATなど、個性豊かな顔ぶれをジャンルレスに擁するレーベル色を象徴するような異種格闘技戦が繰り広げられてきた当イベントの中でも、ともにシーンを牽引するギター・ロック・バンドであり、世代も近い今夜の2組の顔合わせは、わりとしっくりくるもの。が、蓋を開けてみれば「がっちり対バンするのは今夜がはじめて」(チャット・アッコ談)というのも納得の、新鮮な楽しさに満ちた一夜になった。

■NICO Touches the Walls

全公演でオープニングを飾っている、レーベル所属アーティストによる祝福コメント映像が流された後、ムーディーな昭和歌謡のSEに乗って登場したメンバー。「行けるか、東京―!」という光村(G/Vo)の絶叫からライブの口火を切ったのは、いきなりのキラー・アンセム“バイシクル”!! まっしぐらに駆け抜ける煌びやかなバンドサウンドに導かれ、フロアの拳が突き上がる。続いて「キューンミュージック20周年おめでとうございます! 次の曲は、僕らとキューンが出会うきっかけになった曲です」と鳴らされたのは“image training”。静かに脈打つオルタナ・サウンドの上で、焦燥感たっぷりのヴォーカルが伸びていく。さらに宇宙の果てへ飛び抜けていくような壮大なサウンドスケープが描かれた“夜の果て”、「もっと来いよ!」「騒げー!」というアジテートでフロアを暴力的に踊らせた“バニーガールとダニーボーイ”と、1stアルバムの楽曲を連打。バラエティに富んだ世界観が演奏力で表現されていく度に、フロアの熱狂と濃密な空気感が高まっていた。

そして「はじめてやる曲です」と紹介された次の曲が最高だった。リバーブがかったリフと重たいビートが絡み合うイントロを経て、スウィンギンなメロディが放たれた前半。そこに光村の艶っぽいヴォーカルが重なって、むせ返るような色香が場内に立ち込めていく。さらに後半では、それまでスローなテンポを刻んでいたアンサンブルが一気に加速。襲い掛かるような歌とメロディ、そして黒くうねるファンク・ビートがダイナミックに咲き乱れ、オーディエンスの腰を容赦なしにくねらせていく……と、まさにNICO的ダーク・サイドの本領発揮とでも言えるような背徳的で肉感的なダンス空間が見事に築かれていたのだ。ちなみにこの曲は、本日の登場SEにも使われていた昭和歌謡“ラッパと娘”のカバー。レトロな風合いを持った原曲とはだいぶ印象が違っていたけれど、その大胆なアレンジこそNICOの妙。「同じ曲だと気づかなかった人もいると思うけど、俺たちがやるとこうなります」と不敵に告げる光村の姿に、思わずニンマリしてしまった。

「CDが売れなくて難しい時代と言われていますけど、そういう時代に生まれてきてしまったんだから、しょうがねえじゃんと俺は思うわけですよ。だから本当にかっこいいと思う曲を作ってキューンの皆さんと共に頑張っていきたいと思うんで。これからもNICO Touches the Wallsとキューンミュージックを末永くよろくお願いいたします!」という光村の宣誓に温かな拍手が送られる。そして、「そんな俺たちの次なるアンセム!」と投下されたのは、5月16日にリリースを控えた新曲“夏の大三角形”。恋する君への想いを胸に眩い光の中へと駆け上っていくようなバンドサウンドは、リリースを重ねる毎にエモーションを剥き出しにしてきたNICOの「今」を高らかに祝福するような楽曲だ。さらに“THE BUNGY”“手をたたけ”と畳み掛けてフィニッシュ。“THE BUNGY”では「倒れている人がいる。一回ストップ!」と演奏を中断するシーンがあったものの、“手をたたけ”ではメンバー全員の熱唱とフロアのハンドクラップで大きな一体感を築いてライブは大団円を迎えた。

■チャットモンチー
ステージを覆う幕の向こう側から“やさしさ”のピアノのイントロが鳴り響き、スタートしたアクト。幕が開くと目に飛び込んできたのは、ステージ前方左側でキーボードを奏でるアッコと、右側のスタンドマイクの前に立つエリコ。まるで内緒話を交わすように、繊細なピアノの旋律と歌声を放ち合うふたりの姿を受けて、フロアの緊張感がみるみる高まっていく。左後方のドラムセットにアッコが移動したところで、次に披露されたのは2曲の未発表曲。1曲目はアッコが打ち鳴らすスロー・ビートの上で、エリコがブルース・ハープを吹いたりバスドラやシンバルを衝動的に叩いたりながら、「チョコレートケーキが好きだ」と歌う楽曲。2曲目はドシャメシャなジャングル・ビートに乗って、鋭利なギター・リフが青白くスパークする楽曲。そのどちらにも壮絶すぎるほどの切迫感が宿っていて、驚愕した。デビュー当初からチャットモンチーが変わらず描き続けてきた孤独の色。それがギター&ドラムという超ミニマムな編成になったことで、より色濃くなった印象。そんな、今のチャットにしか描けないシリアスで凄みあるエネルギーがこの2曲には溢れていたのだ。

それでいて、「一応20周年おめでとうございます。NICO観てたら『キューンと出会ったときの歌……』とか言っていたので、一応言ってみました」(エリコ)とか、「NICOは偉いなあ。キューンとの出会いとか、うちら何も考えておらんかった」(アッコ)とかいう惚けたMCでフロアを爆笑の渦に巻き込むところは、さすがチャット。“テルマエ・ロマン”“満月に吠えろ”という直近ナンバーの連打では、ポジティブなエネルギーに溢れたバンドサウンドを軽やかに走らせて、ライブ序盤のピンと張りつめた空気を一掃してくれた。そして「少し懐かしい曲をやります」(アッコ)と“さよならGood bye”へ。ここでの見所は、なんと言ってもアッコのドラミングだろう。スピーディーに叩き出されるシンバル音、アタック感の強いタム音、どれもダイナミックでアグレッシヴ。ドラムセットが横向きに設置されておりアッコの全身を横から見られたせいもあって、その躍動感がダイレクトに伝わってくる。こうやって新たなカタチ披露される過去曲により今までにない興奮が生まれることは、新生チャットモンチーを象徴する上で、何よりも喜ばしいことだ。

そしてライブは終盤へ。雲の上を散歩するような軽やかな浮遊感に満ちた“夢みたいだ”、ソリッドなリフとブルース・ハープが吹き荒れる疾走チューン“ハテナ”と、5月2日にリリースを控えた新曲を経て、本編ラストを飾ったのは“東京ハチミツオーケストラ”。じんわりと温かいメロディとバンドサウンド、そして満場のシンガロングとハンドクラップでフロアを満たして華やかなクライマックスを迎えた。

アンコールは、2バンドによるスペシャル・セッション。揃いのキューンTシャツに着替え、一夜限りの「ニコットモンチー」として再登場した6人が披露したのは、電気グルーヴの“Shangri-La”!! NICOのメンバーが紡ぐグルーヴィーなバンドサウンドの上で、光村とエリコが交互にヴォーカルを執り、アッコがタンバリンを打つ。さらにチャットの同名曲“シャングリラ”のフレーズを挟み込みつつ、フロアに喝采と横揺れを生み出して華やかなフィナーレを迎えた。
アニバーサリー企画ならではのお祭りムードと、2バンドの魅力に改めて出会える充実感を伴った、至福の2時間。当イベントは残すところあと4日間。4月30日の電気グルーヴ/ギターウルフの千秋楽まで、ここリキッドルームにて熱いアクトがまだまだ続く!(齋藤美穂)


セットリスト

NICO Touches the Walls
1.バイシクル
2.image training
3.夜の果て
4.バニーガールとダニーボーイ
5.ラッパと娘
6.夏の大三角形
7.THE BUNGY
8.手をたたけ

チャットモンチー
1.やさしさ
2.未発表曲
3.未発表曲
4.テルマエ・ロマン
5.満月に吠えろ
6.さよならGood bye
7.夢みたいだ
8.ハテナ
9.東京ハチミツオーケストラ

アンコール
Shangri-La
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