DOPING PANDA @ TOKYO DOME CITY HALL

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DOPING PANDA @ TOKYO DOME CITY HALL
頼むから、最後までロックスターのままでいてくれ。きっと多くのドーパメイニアたちが、そんな思いを胸に会場に足を運んだことだろう。1月28日、DOPING PANDAはオフィシャルHP上で、今回のステージをもって解散することを発表していた。解散を決めたロック・バンドが最後のステージへと向かうモチベーションというのは、一体どのようなものなのだろう。結論から言えば、その場所には感謝と愛情が溢れ、もちろん感傷からは逃げ切ることが出来ないが何度もそれを興奮が追い抜き、そして後悔は微塵も残されないという、見事なラスト・スタンドに他ならなかった。

今回はニコニコ生放送で配信されていたこともあり、現場に駆けつけた人だけではなく多くの人々がステージを見届けたことだろう。加えて、既にニュースでも報じられているとおり、公演の模様はDVD化され6/13にリリースされる。「間もなく開演致します」の影アナの後には惜しみない拍手と歓声が贈られ、それぞれに覚悟を決めて積極的にドーパンに向き合おうとするメイニアたちの様子が伺えていた。開演予定時刻から10分ほどが過ぎて、待ち切れんとばかりに誰からともなく手拍子が巻き起こった頃、ほぼ同時に場内が暗転し、ファンキーなオープニングSEと共に3人が姿を見せる。Hayato(Dr./Cho.)は、ドラム・セットの向こうで高く両の腕を掲げるのだった。

3人がステージ中央にギュッと寄り集まり、“Introck”のロッキンなイントロを鳴り響かせる。それをOIコールで追うオーディエンス。さっそく小刻みに変化するコンビネーションを見せつけ、続いては捩れるようにテクニカルなフレーズへと飛び込んでゆく“Blind Falcon”だ。この序盤に難易度高いが大丈夫か、とスリルを感じさせながらも、Yutaka Furukawa(Vo./G.)の ファルセット・ヴォイスが映える。同期サウンドと共に転がる“nothin'”の最中には、「We are DOPING PANDA!!」と声を上げるFurukawa。オーディエンスのコーラスに何かを感じ入るようにして、彼は会場内を見渡しながらステージ上を練り歩くのだった。

「愛してるぜおまえら! 今日は最後までついてこいよ! 俺たちが最高のロックを見せてやるから!!」という、終わりの始まりを告げるかのようなビッグ・マウスが放たれ、甘酸っぱいモータウン・ビートのラヴ・ソングに間の手が弾ける“It's my life”、そしてアッパーなのにひたすら狂おしい“Crazy”で最初のピークを迎えてゆく。「何も言いたいことなんかねえよ本当に! ありがとうしかないよ今日は。熱くならないようにしようと思ったんだ。熱くなると歌も演奏もイマイチになっちゃってね。楽しんでってくれ!」とFurukawa。そう、ステージの構築に没入しているようでありながら、彼はどこかで気持ちを押し殺しているように見えていた。その理由がこのとき分かった。

なんとここからは、インディーズ時代の楽曲をリリース順に披露するというブロックへと向かう。“Just say good-bye”からパンキッシュなナンバーを矢継ぎ早に繰り出し、なんでそれを思いつくかな、というドーパンらしいソング・ライティングの片鱗を次々にフラッシュバックさせながらも、この性急さの裏にはやはり感傷を押しとどめようとする意志が働いている気もする。ドーパンは、Furukawaは、「ロックスターである」という立場によってオーディエンスとの距離感を明確にしたアーティストだった。それに付き従うにせよツッコむにせよ、或いは煽るにせよ、距離感が明確である限りメイニアはメイニアでいることが出来る。ただし、スターであることと感傷はどうしても相容れない。ドーパンはドーパンである限り、音楽以外の場所で感傷的になることができないのだ。だからFurukawaは、結局、解散ライヴ本番に至っても感傷の置き所に困ってしまっているのだろう。そんな気がした。

“Mr.Superman”でクリスピーなコンビネーションを決め、顔を見合わせてニヤリと笑い合う3人。Hayatoは汗を拭きながら、晴れやかな笑顔でピース・サインを繰り出している。そしてそんなHayatoとタロティ=Taro Houjou(B./Cho.)がファンキーな絡み合いを見せる中、Furukawaは「楽しんでるか? すげえとこまで連れてってやるよ。なんつったって俺ら、DOPING PANDAだから」と言い放つのだった。リズム隊の2人を信じ切るように、奔放に踊り狂う“We won't stop”のカッティングが心地良い。次第次第に、ドーパンのバンド・マジックが感傷を塗り替えてゆく。練り上げられたダンス・ロック“Majestic Trancer”、そして必殺のディズニー・ナンバー“Go the Distance”と、極めてポジティヴな熱を放たれてゆくのだった。

Hayatoとタロティが一時ステージを離れると、ここでFurukawaスター・ギターの独壇場の一幕へ。オリジナリティ溢れるブルージーなリフ、そして華麗極まりないライトハンド奏法のアドリブと弾きまくる。本人もすごく楽しそうだし、ソロなのにドーパンの一幕として成立している。そして今度はスペイシーな空間系リフを響かせたところでリズム隊が加わり、“Don't stop your melodies”に繋いでいった。視界一杯にバウンスする人、人、人。Furukawaが語り出す。

DOPING PANDA @ TOKYO DOME CITY HALL
「思い出とかじゃないと思うんだけどね。タロティとは97年に、Hayatoとは99年に始めたけど、年数じゃないね。まあその……終わることもあるんだな、って思いましたよ。終わると思って始めるもんじゃないんだ、バンドマンってのは。始めるときに終わること考えてるのは、(元)ビークルのヒダカさんぐらいだから(笑)。こうしてMCの裏で鳴ってるタロティのベースが、相変わらず耳障りだなっていうね。タロティ、笑ってるけど余裕ないから。それも含めてDOPING PANDAだってことですよ。無限大ナントカみたいなのはね、本来、楽しむしかないですよ。一回、解散とか忘れてフラットになろう! こういうこと言うと余計に切なくなるんだけど(笑)、楽しもう!」

感傷をタロティへの愛と悪意にすり替えてみたり、いろいろFurukawaも大変である。しかしHayatoの力強さとユーモラスなアイデアが盛り込まれたドラム・ソロを含める“YA YA”の後、無数のレーザーが場内を駆け抜け、「無限大ダンスタイム」の電子ヴォイスが聴こえると、まるで会場ごと持ち上げてしまうようなドーパン流の歓喜と興奮が始まった。“The Fire”、“I'll be there”、“crazy one more time”という必殺ナンバーの連打。言葉尻では折り合いのつかない思いに、ドーパンのキャリアそのものが勝利してしまったような光景だった。Furukawaは“Hi-Fi”の最中、「愛してるぜメイニア!」と率直な声を飛ばし、伝われとばかりにギターを掻き毟る。

そして一面のスウェイに彩られた“Transient Happiness”では、オーディエンスひとりひとりの表情を確認するようにしながら「どう考えてもまだ終わりたくないんだぜ! もっとくれよ!」と叫び、あの開脚ジャンプを見せながらのギター・プレイを披露した。あとになって思い返せば、これで見納めか、というところなのだけれど、実際に目の当たりにしているときにはただ高揚するばかり。音楽の力というのは凄い。感傷ではなくカッコ良さに泣けてしまうようなクライマックス。紛れもなくロックスターの姿だった。《今だってそう そしてこれからだってそう/奇跡をあげるから僕に触ってて》のフレーズがたなびく“the miracle”の後、続けてアップテンポな“MIRACLE”が駆け抜け、ここで本編は幕を閉じた。

アンコールに応じて登場したのは、アコギを抱えたFurukawaひとり。「実はさっきちょっと感極まって、俺あんま悪い奴じゃないんだなって思った」と語り出す。「解散します。スタジオを出るって決断があって、他の2人も、深くは察してないけど同じ気持ちだと思う。なぜかと言うと仲いいから。ただ、(オフィシャルHP、解散についての)あの文面にはひとつだけ嘘があって、俺まだ一人でスタジオにいます。一人で借りてます。いや拍手とかじゃないんだけど、嘘をつくのは嫌だったから」。クソ真面目に報告するFurukawaであった。

結果的にドーパン最後のアルバムとなった『Yellow Funk』について、今回の本編セット・リストには含められなかったがとても大切な作品なのだという話をした後、同作から“the anthem”を繊細かつ美しい弾き語りで披露する。いつも冒険的だった彼のソング・ライティングが、ここまでの高みに達したのだということが一発で伝わるようだ。ドーパンの作曲やアレンジは、楽をしない道の積み重ねであった。そのことが良くも悪くも作品のセールスやライヴの動員を直接揺さぶっただろうし、プレイヤーとしてのメンバーを追い込んでいったはずだ。でも、このときの“the anthem”は、Furukawaの弾き語りなのに、ドーパンのキャリアの重みが濃縮されている手応えがあった。「メンバーもすげえいい曲だって言ってたんだよ。これだけでメシ何杯もいけんだろ。え? おかわり?」と自画自賛も納得だ。更には彼のコード進行の集大成ということで、“Moralist”へ。Furukawa流トロピカリズモにじっ、と聴き入るオーディエンスである。さてここで、タロティとHayatoが再登場する。

「4日前に久しぶりに会って、3日間、音を合わせたんだけど、俺ほんと1日目はどうしようかと思ったよ。タロティに至っては三十数曲中、三十数曲まちがえてるからね。それで平気なの。ラオウみたいな顔してるの。でも凄いのは、2日目、3日目で合ってくるんだ。スタッフもびっくりしてた。やっぱ十数年やってきただけあるな、バンドなんだなって思った」。確かにヒヤリとする場面も見られたけれど、ドーパンはやはり凄いバンドだということを再認識させるには充分なライヴであった。DVDには、ミスしたところもそのまま、なるべく全部入れると語るFurukawaであった。そして、何か吹っ切れたように爽快感と共に進む3人のアンコール。“Candy House”ではタロティも笑顔で跳ねる。「ここで一端ハケようかと思ったんだけど、いるか!」とメンバーそれぞれの挨拶が始まった。

タロティ:「今まで皆さんのおかげで生き延びることが出来ました。残念に思ってくれる人もいると思うし、僕も残念な気持ちはあるんですけど、まあしょうがないです。ありがとうございました」。しょうがない、かよ!とFurukawaが噛み付くのだがタロティ、「いやもう、ありがとう、しかないです」

Hayato:「やっぱドーパン最高じゃない? プロとしてやっちゃいけないミスとかあったけど、今までで最高のライヴになったと思います。解散を決めてからは、一度も後悔していません! そんないい加減な気持ちで決めてません。一生懸命、決めました!」

Furukawa:「(インディーズ・デビューから振り返りつつ)バンド仲間も、木下理樹以外は感謝してるんで(笑)。今朝メールが来て、短く『焼き付けるぜ』って(笑)。さっき感極まりそうになったけど、彼の名前と顔を思い出したらスッと引きました。ありがとう理樹! それから、コア・ファンって呼ぶのは好きじゃなくて、うちにはメイニアっていう呼び方があって良かったなって思うんだけど、本当にメイニアに恵まれていました。ここがゴールになっちゃったことはごめん。でも、いつかみんなが分かってくれる日が来ると思います」

それぞれに笑い声や暖かい拍手を受けながら、“Uncoverd”からのダブル・アンコールへと向かう。「DOPING PANDA!!」のコール&レスポンスを巻き起こす“GAME”、極め付きには、この日それぞれ2度目となる目映さと狂おしさの“Crazy”、そしてメンバーとメイニアのコールを交えた“MIRACLE”だ。Furukawaによる「We are DOPING PANDA!!」の掛け声とハイ・ジャンプでフィニッシュすると、Hayatoは前線のオーディエンスにスティックだけではなくスネアやシンバルまでもプレゼントしてしまい、ダイヴを敢行する。Furukawaもエフェクターを進呈。かっこいい。周囲を見渡せば、涙でぐちゃぐちゃになっているメイニアばかりである。

感傷があり、それを振り切ろうとするやきもきした思いがあり、まるで北風と太陽の話のように、一瞬で場面を塗り替えてしまうキャリアに裏付けられた歓喜と熱狂があり、笑いがあり、馬鹿正直な告白があり、愛と感謝に満ち溢れた175分。このときの光景と思いは、あの3人のそれぞれの道の中で、メイニアたちの人生の中で、確かな力を残してゆくだろう。それは、終わってしまった恋愛がすべて無意味だったと言えるのか、果たされなかった約束に価値は無かったと本当に言い切れるのか、という意味において。(小池宏和)


セット・リスト

01: Introck
02: Blind Falcon
03: nothin'
04: Lost & Found
05: It's my life
06: Crazy
07: Just say good-bye
08: Mayonnaise on my toast
09: Fine by me
10: Start me up
11: Mr.Superman
12: We won't stop
13: Majestic Trancer
14: Go the Distance
15: Gt. solo16: Don't stop your melodies
17: Lovers Soca
18: YA YA ~Dr & Bass solo~ YA YA
19: The Fire
20: I'll be there
21: crazy one more time
22: Hi-Fi
23: Transient Happiness
24: beautiful survivor
25: beat addiction
26: the miracle
27: MIRACLE

encore
01: the anthem (弾き語り)
02: Moralist (弾き語り)
03: Stairs
04: Everything under the sun
05: Candy House

encore-2
01: Uncoverd
02: GAME
03: Crazy (2回目)
04: MIRACLE (2回目)
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