N'夙川BOYS @ 代官山UNIT ゲスト:おとぎ話・撃鉄

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N'夙川BOYS @ 代官山UNIT ゲスト:おとぎ話・撃鉄
N'夙川BOYS @ 代官山UNIT ゲスト:おとぎ話・撃鉄
一般発売開始1分後にはチケットがソールド・アウトしたという今夜のイベント「N'夙川BOYS presents『ロックンロール三国志?っと!』」。「三国志という世界の中でロックンロールで対決」するという一風変わったコンセプトのもと、ゲストにおとぎ話と撃鉄を迎えて代官山UNITでライヴが行われた。

会場には通常のステージに加え、フロア右手に小型ステージが設けられ、左手には大きなスクリーンが吊られている。客電が落ちると、中国風の赤い提灯に彩られた正面ステージにN'夙川BOYSが、右ステージにおとぎ話が、そしてスクリーン上には撃鉄が、それぞれ「夙」、「お」、「撃」とプリントされた戦旗を持って登場。「せーの」というN'夙川BOYSマーヤの掛け声に合わせて3組がそれぞれのステージで同時に音を鳴らし、簡単なバンド紹介の後、「まずは夙川BOYS!」とマーヤが叫んで“Planet Magic”で幕を開ける。

曲が終わると間髪置かずにおとぎ話が“ネオンBOYS”を始め、続いて撃鉄が“犬”に入る。なるほど、各バンドが全曲をまとめて演奏するのではなく、1曲ずつ順番に演奏していくというのが『ロックンロール三国志?っと!』のルールであるようだ。なお、スクリーンに映し出されている撃鉄は実際には右手ステージの脇にある小さな控室のような空間でカメラに向かって演奏している。オーディエンスも1曲ごとに正面を向き、右を向き、左を向く。

N'夙川BOYS“Freedom”で始まった2巡目では、豹柄のタイツとマントだけを身にまとった撃鉄の天野(Vo)が自分たちの曲の途中で小部屋から出てきておとぎ話のステージの柵によじ登り、「ちょっと待て! 何で俺たちだけこんなステージなんだ」と他の2組に訴える。「何しに来た」とか「年下なんだから」とか「おいマーヤ!
本名は小山さん!」とかバンド間で細かい掛け合いがあった後、なぜか「騎馬戦で勝ったバンドがセンター・ステージで2曲演奏できる」という結論に。各バンドのドラマーたちがゴムボートに乗って観客の頭上でクラウドサーフしながら行った騎馬戦の結果、おとぎ話がセンター・ステージ、N'夙川BOYSが右手ステージに移動し、負けた撃鉄は再び小部屋へ。セット・チェンジの間にはN'夙川BOYSが簡単な機材で“シャンソン”と“フランクフライト”を演奏する。

ベースレス3ピースのN'夙川BOYS、表情豊かに恋人たちのストーリーを歌い上げるおとぎ話、ノーウェイヴ・ムーヴメントを思い起こさせる衝動的なプレイスタイルの撃鉄という3バンドの組み合わせは音楽的にはまったく調和していないけれど、むしろそれが「対決」の構図を際立たせていてバランスよく感じられる。演奏も単に順々に繰り返すだけでなく、曲の途中で別のステージで聴き手に回っているバンドに絡んでいったり(おとぎ話)、演奏中のバンドのステージに乱入したり(N'夙川BOYS)、進行を無視して自分たちの曲を続けたり(撃鉄)というこのセッティングならではの相互作用も面白い。

「これはあなたたちに捧げる曲です。分かってるわよね? Candy…」とチャイニーズっぽく2つ結びの髪型にしたリンダの掛け声に「People!」と客席が応えて始まったのは、もちろん“Candy
People”。その後、2度目の騎馬戦で勝った撃鉄のステージでヴォーカル3人が大縄跳びをしたり、N'夙川BOYSの“Theシーン”では会場の後方でシンノスケが弾くギターに合わせてマーヤとリンダが曲の大半をダイヴしたまま歌ったりとライヴは終盤になるにつれ混沌としてくるが、あるいは混沌としてきたからこそなのかもしれないけれど、おとぎ話の有馬が「30年生きてきて12年バンドやって、今日のイベントが一番だと思う」と語ったように、何か特別なものの感じられる本編だった。

赤、青、黄色とメンバーごとに色分けした衣装や派手なメイク、三国志という容れ物を借りた今回のパフォーマンスなど、N'夙川BOYSのライヴには演劇的な要素がそこかしこにちりばめられ、虚構と現実の境界線は曖昧になっている。そのステージで歌われるのはありふれた日常の見え方を一変させる夢や理想や恋についての歌であり、ここでもやはり現実と虚構は重なり合って、夜がイルミネーションを輝かせ、イルミネーションが夜を彩るように、光と闇が互いを映し出し高め合うひとつの新しい世界を作り上げている。この二重の虚構を彼らは「魔法」(“Planet Magic”)と呼び、「ロックンロール」と呼ぶ。
その意味でN'夙川BOYSは公民権運動やベトナム戦争やドラッグや性の解放や政治的プロテストを背景に持つ60年代半ば以降の「ロック」から、ひたすら「魔法」のみを歌い続けた50年代の揺籃期的「ロックンロール」を厳密に区別する。「夙川BOYS!」という魔法の言葉に始まって「サンキュー!」というその解除に終わるまでの束の間の時間においては、「おどけ」や笑いさえもがロックンロールの持つ原初的な求心力に回収され、魔法の力を帯びている。

一度引かれた幕が開いて始まったアンコールでは、正面のステージに全バンドが勢揃いして、ギター×5、ベース×2、ドラム×3という大編成で“物語はちと?不安定”を演奏。11人全員がダイヴしてフィナーレを迎え、ステージ前で肩を組んで挨拶する。その後いったんはBGMが流れ始めるも、「これを聴かずに帰れるか!」と再び現れたN'夙川BOYSの3人が始めたのは、バンドを結成して一番初めに作ったという“死神DANCE”。人が踊ることを求めずにはいられないのは、誰もが死神に魅入られているからなのだと明かしてみせるこの曲で、私たちは魔法の成り立ちの秘密を知り、それぞれの現実へと戻っていく。しかしその現実は、開演前のものとはどこか違って見える。いまや私たちは現実を高めていくための新しい世界に至る鍵を自ら手にしたのであり、そこでは死神さえもが光を映し出すためのただの闇にすぎないのだ。(高久聡明)
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