the HIATUS @ 新木場スタジオコースト

「『A World Of Pandemonium Tour 2011-2012』ファイナル! 最終日にようこそ!」とこの上なく爽快な表情でフロアに呼びかける細美武士に、うおおおおおっと魂の大歓声で応える満場のオーディエンス。昨年11月にリリースした3rdアルバム『A World Of Pandemonium』を引っ提げ、11月24日・千葉Lookを皮切りに全国をサーキットしてきたthe HIATUSのツアー=『A World Of Pandemonium Tour 2011-2012』。追加公演2本(4/1:韓国・ソウルV-Hall、4/8:沖縄ナムラホール)を残してはいるものの、約3ヵ月で34本目というツアーの集大成的公演ということもあって、開演前から新木場スタジオコーストのフロアに渦巻く熱気は尋常ではなかった。が、ステージ上のウエノコウジ/堀江博久/細美武士/柏倉隆史/masasucksの5人が放つサウンドは、そのキッズの期待感と情熱を丸ごと抱き締めてロックの遥か「その先」へと連れていこうとするような、圧倒的なスケール感と強度に満ちていた。

※ なお、本稿ではセットリストは割愛させていただきますが、以下のレポートには楽曲についての記載がありますので、上記公演に参加される方は終演後にご覧いただければ幸いです。

 細美&masasucksのアコースティック・ギターが描く繊細なフレーズのタペストリーが、やがて壮大な音の地平となって聴く者すべての視界を純化させる“Deerhounds”。柏倉&ウエノが刻む3拍子系のスリリングなビートが、アコギの凛とした響きと相俟って胸に迫る“The Tower and The Snake”。エモーションをそのままグルーヴ感に直結させるのではなく、ロックをはじめ既存のスタイルに囚われることもなく、人間の感情も思考も精緻に編み上げられた楽曲というアートフォームの中にプログラムした上で提示すること。それによって、音楽を通してより人間の深淵に迫ること……the HIATUSの5人による『A World Of Pandemonium』という名の熾烈なトライアルが、全国ツアーを通して格段に鍛え上げられ磨き抜かれたアンサンブルを通して、僕らの頭と身体でくっきりと像を結んで、心を揺さぶってくる。『A World Of Pandemonium』の自由闊達で冒険的なサウンドが、どこか誇らしさにも似た感激を僕らの中に巻き起こしていくのがわかるし、そのたおやかで強靭なビートの1つ1つが、スタジオコーストのフロアに大きなジャンプのうねりを巻き起こしていく。驚くべきは、“The Flare”“Twisted Maple Trees”といった1st『Trash We’d Love』の楽曲も、“The Ivy”“Insomnia”など2nd『ANOMALY』の楽曲も、随所に盛り込まれた新たなアレンジのアイデアとともに、「今」のthe HIATUSならではの伸びやかさと剛性をもって響いてくることだ。

 そして何より、細美が全身で体現する壮絶なダイナミズム! 短期間で全国30本以上のツアーを駆け抜けてきた疲労感など微塵も感じさせないどころか、序盤から最後まで会場丸ごと歓喜のメーター振り切らせてしまうほどの絶唱ぶり。というか、「歌」とか「演奏」とかを越えた、細美の人間力そのもののような、言葉や演奏の隙間からエネルギーがほとばしってくる凄味が、この日のステージでは特に際立っていた。で、そのエネルギーが、むせ返るくらいの会場の熱狂ぶりを呼び、そんなフロアを見渡して時折「いい感じじゃねえか!」とか「はっはっは! すげえなあ!」とか笑顔とともに呼びかけると、それに応えてさらにオーディエンスの歓喜が沸点超えの次元へと高まっていくーーという魂の無限ループが、この日のスタジオコーストには確かにあった。「ちょうど1年前、『Bittersweet / Hatching Mayflies』っていうEP録ってる時に地震があって。それから長かったし、がむしゃらだったし。それはみんなも同じだったと思うんだけど……」と、震災以降の1年を振り返りつつ、話の照準を「今、ここ」へ合わせていく細美。「ここ1週間さ、いろいろドラマがあったんだよ。昨日・今日は本当に、中止にするかすごい話し合って。もし『全治1ヵ月です。4月に延期しました』ってなってもさ……お前らならわかるだろ? それまで生きてられる保証なんてまったくないんだよ。俺たちは今ここで命燃やすぜ。付き合ってくれ!」。そんな言葉に応えるように沸き上がる、フロア一丸の渾身の大歓声! 虚飾なき細美の1つ1つの言葉が、個々の楽曲と共振し合うメッセージとなって、ダイレクトに心のど真ん中に飛び込んでくる。最高だ。

 細美の奏でるシンセとmasasucksのアコギ&ウエノのアコースティック・ベースが鮮やかな色彩感をもって広がった“Flyleaf”。堀江のピアノと2つのアコギの音が絡み合って、清流から大河へと注ぐような景色を展開してみせた“Shimmer”。「俺、今すごく喉の調子いいんだけど、裏声だけ出ねえんだ。手伝ってくんねえか? それ以外は最高の歌歌うから!」という細美のコールに応えて、“Bittersweet / Hatching Mayflies”を高々と歌い上げるオーディエンスーーthe HIATUSとファンとの共闘関係とも言えるコミュニケーションを象徴するこのシーンは、全編クライマックス状態のこの日のアクトの中でも特に印象的な場面として胸に残った。

アンコールまで含め全20曲・約1時間40分。音楽への愛情と衝動と探究心を極限まで轟かせながら、そのアートとして/コミュニケーションとしての可能性を大きく押し広げてみせたアグレッシブなアクト。「ありがとう! いやあ、ツアーやってよかった!」という言葉からも、曲が進むごとに満足の色を増していた細美の表情からも、彼自身の中で何か大きな扉が開いた手応えがあったであろうことが窺えた。2012年のthe HIATUSの、音楽の「これから」を強く指し示す、金字塔的なライブだった。(高橋智樹)
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