EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ

 EMIミュージック・ジャパンが創立50周年を記念して2010年11月に初開催した「レーベル主催型のフェス形式のロック・イベント」こと『EMI ROCKS』。今回でまだ2回目の開催とは思えないほどに、このイベントの意図と意義が早くもロック・ファンに認知されているのは、「EMI ROCKS Forever!」(雅-MIYAVI-)、「メジャー・レーベルがこんなにいい場所だとは知りませんでした。EMIに本当に感謝してます!」(the telephones・石毛)、「EMIは永久に不滅です!」(ストレイテナー・ホリエ)、「EMIは日本でいちばんロック・バンドのことを考えてくれて、ロック・バンドのことを愛してくれるレーベルです!」(ACIDMAN・オオキ)と出演アーティスト=所属アーティストがMCで絶賛していたからだけではもちろんなく、何よりその音とステージによって、ロックという音楽が2012年に放つエネルギーを最高の形で実証し得る場だからに他ならない。ということを、集まったオーディエンスの熱気がリアルに物語っていた。ステージの合間には各時代と密接にリンクしてきたEMIアーティストたちのアーカイブが巨大ヴィジョンに映し出され、ロックの「歴史」と「今」と「これから」がクロスした『EMI ROCKS 2012』。その各アクトの模様を、以下ダイジェストでレポートしていきたい。


■Riceball
01.宇宙の果てまで手を繋いで
02.人形のヤツ
03.アイラブユー

 この日に先立って開催されたオーディション「REVOLUTION ROCK」で見事優勝、「EMI ROCKS」オープニング・アクト出演権を勝ち取ったのは、高校1年生女子4人組=Riceball。その佇まいと音が醸し出すポップ感を、Vo・G=北澤佑扶の華奢な身体と想いのすべてを振り絞ったようなヴォーカリゼーションでもってロックの彼方へ蹴っ飛ばしていくような、潔いくらいに清冽なアクト。なお、この日のステージ以降バンド名を「the peggies」と改名することをMCで発表。


■Base Ball Bear
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - Base Ball BearBase Ball Bear
01.夕方ジェネレーション
02.祭りのあと
03.short hair
04.十字架 You and I
05.新呼吸
06.CRAZY FOR YOUの季節

 “夕方ジェネレーション”の鮮烈な音と「最後までEMI ROCKしていっていただけたらと思います!」という小出の言葉とともに最高の幕開けを告げたBase Ball Bear。ギター・ロックの切れ味とか爽快感とかよりも、1音1音に想いをこめて撃ち放っていくようなダイナミズムで聴く者すべてを巻き込んでいくような力強さに改めて驚いた。“十字架You and I”ではもはやお馴染みの「ダンス湯浅将平」も披露し「知らない人も『ショウヘイ!』って言うだけで運気が上がるおまじないですから!」(小出)と朝から会場をピークポイントへ導いた直後、静寂の中で“新呼吸”を紡ぎ始め、そのまま真っ白にスパークする音の地平を描き出してみせた場面は、あまりにも美しかった。


■赤い公園
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - 赤い公園赤い公園
01.のぞき穴
02.今更
03.塊
04.透明
05.ふやける

 「貫禄」「熱気」「快楽」など各方向で、観た人はそれぞれ今日のベスト・アクトを決めていることと思うが、「驚愕」面での個人的ベスト・アクトは間違いなく彼女たち、赤い公園。SEの中島みゆき“地上の星”に合わせて前衛舞踏的なダンスを見せたと思ったら、“のぞき穴”のアヴァンギャルドで赤黒い音塊でアリーナを一気に支配してみせる。「昨日は泣きそうなほど緊張したけど、楽しいでーす! これで彼氏がいたら最高なんだけどな」(Vo・Key:佐藤千明)というライブハウスまんまなノリのMCで大会場を共犯関係に巻き込むパワーも含め、もういきなりアリーナ・クラスの音と迫力。最後のヘヴィ・バラード“ふやける”の絶唱を観て、今すぐにでもこの会場でワンマン観たい!と思った人は少なくないはずだ。


■The SALOVERS
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - The SALOVERSThe SALOVERS
01.フランシスコサンセット
02.SAD GIRL
03.ディタラトゥエンティ
04.サリンジャー
05.愛しておくれ(新曲)

古舘のアカペラから“フランシスコサンセット”の強烈な8ビートに雪崩れ込んだ瞬間の爆発力! 鋭利で性急なビートとともに噴き上がる“SAD GIRL”のエモーショナルなロックンロール・サウンド! 衝動の表現としてのロックンロールをダイレクトに突きつけるThe SALOVERS。会場で先行発売されていた22日発売のシングル曲“ディタラトゥエンティ”の、冒頭の歌詞でハッとしたりギョッとしたりした心をかっさらってロックの彼方で解き放つような楽曲世界が、彼ら4人からの音の挑戦状として熱く響く。「今日はEMIのイベントということで、数多くいる上の方々に、下克上したいと思います!」というMCとともに新曲“愛してほしい”をハンドマイクで絶唱する古舘の姿が、びりびりと胸を震わせる。


■清竜人
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - 清竜人清竜人
01.新曲
02.新曲
03.新曲

 この日、会場全体に巨大な「?」と「!」を生んだのが清竜人。繊細でオーガニックな楽曲でもって人の心の奥深くを優しくまさぐりながらもじもじとMCしていたこれまでの姿とは一変、3曲全編トラックものをベースにしてダンサーや俳優とともにバキバキと歌い踊る。「ミュージカル・テイスト」ではなく、完璧ミュージカル。清竜人本人も、曲ごとに学生服姿だったり、ド派手なシャツのチンピラ姿だったり、片想いの恋に悶えるヘソ出しシャツ&銀の短パン姿の内気なポップ・スター(ご丁寧にヘソに星のマーク描いてあった)だったり……と、各曲のカラフルな世界を文字通り全身で体現していく。これは「2年の構想期間を経て表現される新世界」を凝縮した5月9日発売のアルバム『MUSIC』の、まだほんの一部らしい。


■雅-MIYAVI-
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - 雅-MIYAVI-.雅-MIYAVI-.
01.WHAT'S MY NAME?
02.SURVIVE
03.新曲(w/ H ZETT M)
04.STRONG(w/ KREVA)
05.FUTURISTIC LOVE

 大きな舞台には雅-MIYAVI-とドラマー=BoBoのたった2人。去年もそうだったが、エレアコ1本でリフからソロからシーケンスまでカバーし、ギターのみならずベースの音域まで踏み込み……という雅-MIYAVI-のプレイは、このさいたまスーパーアリーナのサイズで観るとやはり破格だ。彼が展開する音の異種格闘技「SAMURAI SESSIONS WORLD SERIES」の新たな剣客=H ZETT Mとスリリングなロック・バトルを展開した後、「KREVAさんにも『くればいいのに』ってメールしたんですけど……くればいいのに!」と呼びかけると、なんと「SAMURAI SESSIONS〜」第一弾の相手:KREVAが登場! 本邦初公開・生“STRONG”のライム×ギターの音の斬り合いで会場を震わせる図はまさに圧巻!


■the telephones
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - the telephonesthe telephones
01.I Hate DISCOOOOOOO!!!
02.sick rocks
03.D.E.N.W.A
04.Yeah Yeah Yeah
05.Urban Disco
06.HABANERO
07.Monkey Discooooooo

 「みなさん昼からすげー踊ろーぜー! アー・ユー・ディスコー!」「もっとダンスフロアになろうぜー!」と会場を煽り倒す石毛の絶叫が格段に逞しく響くのは、昨年まさにこの会場でワンマン・ライブを成功させるまでに至った爆裂エンターテイナーとしての確信ゆえだろう。“D.E.N.W.A”のロック過積載ぶりも、“HABANERO”のハイパー・シンセ攻撃も、爽快なくらい会場をでっかく踊らせ揺らしていく。「EMIって意味わかる? E:Everyday、M:Master、I:愛してる! EMIがいちばん音楽を愛してるってことだ!」と叫び上げるノブを「……みんな、腑に落ちないのはよくわかる!」といじりつつ「腑に落ちるように叫ぼうぜ! We are DISCO!」とオーディエンスをアゲていく石毛、というMCの流れまで最高。


■James Iha
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - James IhaJames Iha
01.Be Strong Now
02.Speed Of Love
03.Make Believe
04.Appetite
05.Gemini

 「EMI ROCKS」初の海外アクト、exスマッシング・パンプキンズのジェームス・イハ。ヴィジョンに映し出されたACIDMANオオキ/LEO今井/テナー・ホリエ/the telephonesの4人/高橋幸宏からリスペクトのコメントにも象徴される幅広い愛されっぷりは、そのままこの日彼を待ち受ける静かな熱気につながっている。実に14年ぶりとなるソロ2ndアルバム『Look To The Sky』のワールド・プレミア・ライブとしてアルバムから4曲+1stから“Be Strong Now”をアコースティックで披露。淡々と、それでいて確実にポップの核心を照らし出すような楽曲。静謐の中にメランコリックとセンチメンタルが濃密に滲ませるサウンドスケープ。ラスト“Gemini”のファルセットが描く恍惚の世界……至高の時間だった。


■東京事変
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - 東京事変東京事変
01.新しい文明開化
02.今夜はから騒ぎ
03.sa_i_ta
04.能動的三分間
05.空が鳴っている
06.閃光少女
07.群青日和
08.キラーチューン

 この圧倒的に華麗でドラマチックなロック・アクトが、解散まであと10日? 嘘でしょ?という寂寞感が押し寄せてきたのは全8曲のアクトが終わった後であって、“新しい文明開化”でいきなり沸点超えの熱狂を生み出して会場を揺らしてから、そのまま歓喜の超高気圧状態でアリーナを包んだまま終了。最新EP曲“今夜はから騒ぎ”“sa_i_ta”からデビュー曲“群青日和”まで事変史を高純度凝縮したアクト。解散については何も触れなかったが、“能動的三分間”でヴィジョンに浮かんだ《我々は使命を果たしたと思う/しかし始まったものは終わる》《我々が死んだら電源を入れて/君の再生装置で蘇らせてくれ》という英語部分の訳詞が、何より潔いメッセージとして胸を射た。ラスト“キラーチューン”で一面はためくフラッグを見て「美しいねー!」と叫ぶ椎名林檎。最高に感動的な瞬間の宝庫だった。


■DJ:片平実
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - 片平実片平実
 この日唯一のDJアクトとして登場した片平実(Getting Better)。「EMIの曲」「今日『EMI ROCKS』に出演してないアーティストの曲」ということで、RADWIMPS“いいんですか?”からCOMPLEX“BE MY BABY”、布袋寅泰“バンビーナ”などを連射し、BOØWY“NO. NEW YORK”で「ニューヨーク!」「ニッポン!」「EMI!」とでっかいコール&レスポンスを巻き起こす。さらに、今春発売のMIX CDに収録される初のオリジナル曲(作詞作曲:片平実、トラック制作は石毛輝&ホリエアツシ!)“ガラス”を、ヴォーカルにex.OCEANLANE・武居創を迎えて披露。シューゲイザー&エレクトロな音像と透徹したメロディが、広大な空間を凛としたヴァイブで満たしていった。


■ストレイテナー
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - ストレイテナーストレイテナー
01.A LONG WAY TO NOWHERE
02.DISCOGRAPHY
03.VANISH
04.イノセント
05.羊の群れは丘を登る
06.Melodic Storm
07.BERSERKER TUNE

 『EMI ROCKS 2012』もストレイテナーから怒濤の終盤へ。ツアーで楽曲を血肉化しきったせいもあるのだろうが、“VANISH”“羊の群れは丘を登る”といった『STRAIGHTENER』のハイブリッドでダイナミックな楽曲世界が、さいたまスーパーアリーナのサイズですら収まりきらない広がりを持って響いてくるのが嬉しかった。“イノセント”の秘めやかな音像。格段にタフさと輝度を増した“Melodic Storm”の迫力……高度に音楽的に研ぎ澄まされたサウンド越しに、これまでとはまるで異なるロック像とロマンの形をでっかく打ち立てていくストレイテナーの「今」そのもののようなアクト。最後は「さいたまスーパーアリーナの、バーサーカーに捧ぐ!」というシンペイの絶叫とともに炸裂させた“BERSERKER TUNE”で完全燃焼!


■ACIDMAN
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - ACIDMANACIDMAN
01.world symphony
02.ストロマトライト
03.赤橙
04.リピート
05.ALMA
06.ある証明

 “world symphony”の、爆音コードとエモーショナルなメロディが軋みを上げるギリギリのせめぎ合い。ギターのディレイとタイトなビートが真摯な疾走感を生む“ストロマトライト”。00年代ロック・アンセムとしての存在感を会場一丸となって分かち合った“赤橙”……ステージに人生の神秘と宇宙の驚異を丸ごと持ち込んだような、ACIDMANの誠実な音楽世界そのままの名演。特に、熱気あふれるアリーナを宇宙の静寂へ導いた“リピート”から“ALMA”の深遠な音世界への流れは、思わず息を呑むほどの凄絶な美しさに満ちていた。反原発・脱原発を表明し、「みんなが声出して言えないなら、俺が声出して言うから」と宣言するオオキの姿と歌声が、強く胸に残った。4月14日にはツアーのセミ・ファイナルとしてここさいたまスーパーアリーナで行うワンマン・ライブへの何よりの「予告編」だった。


■9mm Parabellum Bullet
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - 9mm Parabellum Bullet9mm Parabellum Bullet
01.The World
02.Black Market Blues
03.Termination
04.カモメ
05.The Revolutionary
06.Living Dying Message
07.Talking Machine
08.新しい光

 この1日のセミ・ファイナル、そして吉井和哉とともにヘッドライナーを飾るという大役を担って登場した9mm Parabellum Bullet。ひときわ派手に暴れ転げ回りながら轟音を放射する滝も、滝と一緒になってハジけまくる和彦も、ビートとスリルの限界を更新し続けるかみじょうのドラムも、オーディエンスの熱気のギアをがんがんアゲ倒していくだけのエネルギーに満ちていたが、この日は1曲目“The World”から卓郎の歌の表現力(というか妖気)が冴えまくっていた。“Termination”で沸き上がったシンガロングも、“Living Dying Message”で割れんばかりに巻き起こったクラップも、この日の4人の演奏が「音」としてはもちろん「歌」として胸に刺さっていた証拠だろう。大空間に響く“カモメ”の泣きのソロ。“新しい光”での会場一丸大合唱。9mmの破格のパワーの結晶のような時間だった。


■吉井和哉×9mm Parabellum Bullet
EMI ROCKS 2012 @ さいたまスーパーアリーナ - 吉井和哉×9mm Parabellum Bullet吉井和哉×9mm Parabellum Bullet
01.CALL ME
02.メドレー:SPARK〜B・BLUE〜ONLY YOU〜DREAMIN'
03.Discommunication

 そして、今回の『EMI ROCKS 2012』の目玉:吉井和哉×9mm Parabellum Bullet共演! 吉井と滝が、卓郎&滝がハモる“CALL ME”が生み出す艶とエッジ感! 吉井・卓郎・滝のトリプル・ヴォーカルで“Discommunication”を歌い上げる巨砲の如き迫力!……も最高だったが、“SPARK”(イントロで一瞬だけ滝は“TVのシンガー”弾いてた)の後で「EMIといえば、伝説のロック・バンド! リスペクト!」という吉井のコールから滝がHOTEI柄のギターに持ち替えーーまさかの“B・BLUE”“ONLY YOU”“DREAMIN'”のBOØWYメドレー! 途中で「再結成しろー!」と吉井が叫んでいたのには笑った。両者異常なまでのハマりぶりを見せた後、舞台の両袖を行き来して歓声に応える吉井。「9mm Parabellum Bullet!」「吉井和哉!」とお互いを讃え合うコールに、熱い拍手喝采が止まらなかった。

 この『EMI ROCKS』には、東京事変などアリーナ・クラスのアーティストのスケール感を存分に体験できるという側面と同時に、さいたまスーパーアリーナの巨大なステージを経験することで「新しい可能性を引っ張り上げる」という場でもあるはずだが、DJ:片平実含め計14組ものアクトが展開されたこの日のステージで「引っ張り上げる」という意味合いを明確に感じたのは、オープニング・アクトとして登場したRiceballぐらいだったと言っていい。それだけ各アーティストとも、この場を自らの最高のアピールの場として捉え、渾身の熱演でもって大会場の観客に挑んでいた、ということだ。そして、それぞれの表現でロックの/音楽の「今」と「その先」を提示した各アーティストの充実感が、トリの吉井&9mmだけでなく東京事変など出演アーティストが結集してビートルズ“ALL YOU NEED IS LOVE”を歌い上げたグランド・フィナーレの場面からも滲んでいた。最後に吉井は「第3回をお楽しみに!」と意気揚々と呼びかけていたし、ヴィジョンに最後に浮かんだメッセージは「See You Again」だった。メジャー・レーベルだからこそロックの魅力をリアルに発信し得る場所として、近い将来行われるであろう「第3回」を今から心待ちにしている。(高橋智樹)
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