Hermann H. & The Pacemakers @ LIQUIDROOM ebisu

ステージを覆う黒幕が開き、舞台に現れて軽やかに両手を挙げる溝田志穂の姿に、よくもまあここまで入ったってくらいに超満員のリキッドルームからあふれ出す歓喜の雄叫び! そして「ロックンロール・シティー、東京のみなさん! Hermann H. & The Pacemakersです! 帰ってきました!」という岡本洋平のコールが、その炎のエモーションにさらに油を注ぎまくっていく……Jackson vibeのレコーディングに参加(08年)したのを除けば、2005年の活動休止以来実に約7年間にわたって沈黙を守ってきたHermann H. & The Pacemakers(ヘルマンエイチアンドザペースメーカーズ)が、「今年はいろんなことがありました。みんな、来年はホントにホントにいい年にしましょう! あまりに小さ過ぎるかも知れませんが、僕らにも出来ることやらせてください」という岡本からのメッセージをオフィシャル・サイトに掲載したのは昨年12月のこと。ヘルマン、一夜限りの復活公演ーー00年代前半に日本のロックを聴きまくっていた方なら、“エアコン・キングダム”のような超陽性ナンバーだろうが“言葉の果てに雨が降る”みたいなシリアスな楽曲だろうが、1曲ぐらいは胸の奥深くに引っかかっているだろうし、今回の復活劇に少なからず心揺さぶられたことだろう。かく言う自分もそうだった。

ロックンロールもスカもパンクもメタルも隙間だらけのバンド・サウンドの中にざっくばらんに配置して複雑骨折ビートとともに時速300kmの凸凹大爆走を軽やかにキメてみせる、稀代のロック愉快犯バンド=ヘルマン。焦燥と衝動とセンチメントがこんがらがった青春性そのもののメロディで聴く者すべての心をざわつかせてしまうバンド=ヘルマン。00年代インディー・ロックのひとつの象徴として時代に爪痕を残してきた彼らの、奇跡の再結集。ただし、「なるべくオリジナルメンバーに近い形で、と出来る限りのことはしましたが 今回その願いは叶いませんでした。少なからず期待していてくれた方、本当にゴメン。。。」と岡本も書いていた通り、オフィシャル・サイトで再結成を表明したメンバーはメイン・ソングライターの岡本洋平(Vo・G)、そして溝田志穂(Key)、若井悠樹(Wolf)の3人。石井康則(B)&菊池真人(Dr)、そしてもう1人のソングライターでもあった平床政治(G/03年に脱退)に代わり、ドラム:マシータ、ベース:TOMOTOMO club(THE BEACHES)、ギター:山下壮(LUNKHEAD)の3人をサポートに迎えた6人編成での復活ステージとなった。

そんな記念すべき一夜の対バン相手として、先攻で登場したのはストレイテナー! 全10曲・45分のセットの多くを“Little Miss Weekend”“VANISH”“Man-like Creatures”など、OJこと大山純加入後の「4人テナー」のソリッド&ハイブリッドなサウンドで固めつつも、1曲目にいきなり“SPEEDGUN”を持ってきたのは、ヘルマンと同じ時代を過ごしてきた同世代バンドならではのリスペクトかもしれない。音楽的方向性は対極と言ってもいいくらいに違うのも、リキッドくらいなら余裕でがっつり揺らしまくるはずの超硬質でダイナミックなテナーの音が、今か今かとヘルマンを待ち受けるオーディエンスの熱気とリアクション的にはすれ違い気味なのも、テナーの4人は最初から織り込み済みだったようだ。「インディーの頃からイベントで対バンしたりとかしていて……あんましゃべったことはないんですけど(笑)。インディー盤の『HEAVY FITNESS』とか『INPUT!』とか、今でも愛聴盤です」というホリエアツシの言葉を受けて、「最初はほんとに、普通にツイッターで『あー、ヘルマン聴きたい!』ってつぶやいてただけで。『昔、楽屋で一緒だった時にあいさつさいたらドシカトされたなあ』とか(笑)」と、今日の対バンに至るまでの経緯を語るナカヤマシンペイ。「それを、ヘルマンのファンの子がよかれと思って岡本くんに伝えたらしくて。後日岡本くんからDMが来まして。『実は再結成するんですけど、出ませんか』って。そん時は『いいよいいよ』って思ったんだけど……お邪魔してすいません!(笑)」。そんなシンペイのぶっちゃけモードが逆に、ステージとフロアのギアを1段も2段も噛み合わせていく。

リキッドルームの空気を純化させるような名曲“SIX DAY WONDER”のメロディ。4人の研ぎ澄まされたフレーズを重ね合わせてとんでもない輝度のサウンドスケープを描き出す“YOU and I”。ひなっちこと日向秀和のプレイに象徴されるアグレッシブな色合いだけでなく、4人でプレイを重ねるごとに豊潤さと包容力を増して響く“Melodic Storm”……既成のロック・ミュージックの音楽的方法論やフォーマットに囚われず、自分たちの音とイメージの交差する場所を探して旅を続けるテナー。一見ロック・シーンでまったく違う軌道を描いているように思える彼らが、それでもヘルマンの音楽にシンパシーを抱く点はそういうところなのかもしれないーーと、最後の“瞬きをしない猫”の切れ味鋭いアンサンブルに圧倒されながら思った。

そしてヘルマン! 岡本・溝田とサポート3人が円陣を組み、いざスタート……というところで、目にも鮮やかなジャージに身を包んだ若井悠樹が舞台へ躍り出て所狭しと踊り回る! “東京湾”“Come On, Ha!!”“エアコン・キングダム”あたりの決定版ライブ・アンセムを本編の中にどう配置していくのかなと思っていたらいきなりド頭にその3曲をぶっ込んできて驚くより前に笑いが止まらなかったり、イントロが鳴り響くごとに狂喜の渦が巻き起こりジャンプとダンスとシンガロングの嵐がリキッドルームを埋め尽くしていったり、“Runaway Song”のイントロでフロアから熱気とともに沸き上がる合唱に「よく覚えてた!」と岡本が満足げな笑顔を見せ、いざ曲へ!と思ったら「……ちょっと待ってね」とフェイントをかましたり、「ヘルメイツ(ヘルマンファンのこと)を代表してきました!」というJackson vibe・グローバー義和がウルフと2MCスタイルで言葉の速射砲をぶっ放したり……と、一瞬一瞬にありったけの誠意とユーモアを盛り込んだような激濃ステージを展開していく。「長い間空けてしまったんですけど……こんなにたくさんの人が集まってくれて、本当にありがとう!」の岡本の言葉に、ひときわ熱い拍手喝采が広がっていく。

それにしても。ハード・ロックとスカを足しっ放しにしたような“Come On, Ha!!”といい、“エアコン・キングダム”のノー・フューチャーであっけらかんとした狂騒感といい、ロックンロールなリフをぶん回しながら灰色の諦念まみれのビートと詞世界に底知れない爆発力を吹き込んでいく“Loser's Parade”といい、“言葉の果てに雨が降る”のやりきれない想いそのままのメロディといい、つくづくヘルマンは代わりの効かないバンドだ。休止期間を経てシーンが移り変わっても、ヘルマンの音はやっぱりヘルマンにしか作れないし出せない。日常に渦巻く憂いと倦怠感とルサンチマンを、持ち前のセンスと悪戯心でもって、聴く者をポジティブの彼方へ連れていくための装置に変えてしまう。そんなマジックが、次から次へと炸裂していく。何より、岡本はじめメンバーの「特別な一夜」への想いが、パワーヒッターなマシータのビート以上にこのアクトをパワフルなものにしている。

そしてウルフ:若井悠樹! 岡本も「僕の大親友です。ウルフ、若井悠樹!」とメンバー紹介でコールしていたが、ここでの「ウルフ」は「ニックネーム」であるだけでなく「パート名」であることはヘルメイツの常識だろう。かつてハッピー・マンデーズのベズにたとえられた、「音楽的にはほぼ何も貢献していないのにステージ上では神々しいまでの存在感を発揮する」というパフォーマンス。「たまにしか歌わないくせにマイク・スタンド持って踊り回ってるフレディ・マーキュリー」というか「鍵盤を取っ払ったthe telephonesノブ」というか、その異様にして濃厚な存在が存在できる場もヘルマンならではだ。いや、逆かもしれない。ウルフという存在が行き場を失わず生き生きとパフォーマンスできる音こそ、真面目になりすぎずライトになりすぎず、ヘルマンがヘルマンとしてのアイデンティティを保っていられる最大のポイントなのかもしれない。「ヘルマンは1回やめようと思ったんですけど……本当に長い時間経っちゃったんですけど、待っててくれてありがとうございます!」という誠実そのものの言葉のすぐ後に、「ロックがつまんないから帰ってきちゃったよ!」という天の邪鬼な台詞を吐いてみせる岡本。最高だ。

“あまつゆのバラード”から“アクション”“ROCK IT NOW!”でむせ返るくらいの熱狂空間を生み出して本編終了。アンコールで再登場した岡本、「朝までやる?……帰れよ! 仕事だろ?(笑)」とオーディエンスに話しかけつつ「日本全国から来てくれてるみたいで。本当にありがとう!」ともう一度感謝の言葉を述べる。そこへ「まだまだやるよ!」とウルフ。岡本「今まででいちばん元気だよな?」 ウルフ「今までライブでしゃべんなかったからさ。初めてしゃべったもん。初MC!(笑)」。“サマーブレーカー”“無能の行方”“fruity machine gun”を畳み掛けて終演……かと思いきや、Wアンコールで再び6人が登場。そしてーー「最後に1曲だけ……ギタリスト、平床政治!」のコールとともに、まさかの平床登場! 最後の最後にリキッドルーム丸ごと瞬間沸騰したような熱気! 「昨日説得したんだよ! 偉いでしょ俺?」と岡本。なおも歓声が止む気配のないフロアに「喜ぶのは早いよ。ギター弾けないかもしれないよ?(笑)」とウルフ。「俺と政治が最初に作った曲です!」と、最後は平床を加えた7人編成で“One, Two, Three, Four”。平床と岡本が向かい合ってギターを弾く。本当に久々の共演の感激を、黙々とギターを弾く平床の胸を軽くこづきながら身体で表す岡本。ついにはウルフが、岡本が華麗にフロアへダイブ!……最高に晴れやかなフィナーレだった。

「ヘルマンの音を愛して、覚えててくれて、本当にどうもありがとう!」とストレートに感謝の言葉を述べていた岡本。「また来てくれる?……来ないんじゃないの?」と悪戯っぽく言ってみせたり、去り際に「また会う日まで!」とこちらの期待を無限増幅する言葉を口にしたりしてはいたが、この先の予定は今はまだ何もわからない。平床の登場というサプライズも「この日一夜限りだから」なのかもしれない。が、「リハで観ましたけど……一夜限りにするのはもったいない!」(ホリエ) 「そんなことは、ここにいる人たちはみんなわかってる!」(シンペイ)というテナーのMCを借りるまでもなく、ここにいた誰もが、そして今日ここに来れなかった多くのファンが、とにかく2012年のヘルマンの「次」の機会を待っているはずだ。心からそう思える、快心のロックンロール・アクトだった。(高橋智樹)


セットリスト

ストレイテナー
01.SPEEDGUN
02.Little Miss Weekend
03.VANISH
04.Man-like Creatures
05.VANDALISM
06.KINGMAKER
07.SIX DAY WONDER
08.YOU and I
09.Melodic Storm
10.瞬きをしない猫

Hermann H. & The Pacemakers
01.東京湾
02.Come On, Ha!!
03.エアコン・キングダム
04.Runaway Song
05.Loser's Parade
06.Beat Mania
07.クラッシュ
08.言葉の果てに雨が降る
09.あまつゆのバラード
10.アクション
11.ROCK IT NOW!

アンコール1
12.サマーブレーカー
13.無能の行方
14.fruity machine gun

アンコール2
15.One, Two, Three, Four
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