エレファントカシマシ @ 渋谷公会堂

エレファントカシマシ @ 渋谷公会堂
エレファントカシマシ @ 渋谷公会堂
開演と同時に「エヴリバディようこそ!」「今は渋公がど真ん中!」という宮本浩次の絶叫とともに号砲の如く高々と轟く、ファンキー&グラマラスなブラス・ロック・アレンジの“今はここが真ん中さ!”――――の時点で、すでに満場のファンを驚愕と感激の異次元へと導いていたエレカシだが、さらに珠玉の名曲“明日への記憶”のメロディをより鮮やかに彩るストリングス・カルテットの響きが観る者すべての琴線を震わせ、ついには「1部」最終曲“あなたのやさしさをオレは何に例えよう”ではエレカシ4人+全曲サポートの蔦谷好位置(Key)&ヒラマミキオ(G)にブラス/ストリングスまで加わった総勢14人編成の華麗なアンサンブルが鳴り渡る!……と、ここまで書いたところで、今年は渋谷公会堂2daysで開催されたエレカシ恒例の新春公演『エレファントカシマシ 新春ライブ2012』の特殊性がおわかりいただけることと思う。

今回の大きな特徴は2点。このところ「本編がっつり2時間+長めのアンコール+Wアンコール」という流れができつつあったエレカシのワンマン・ライブだが、今回の新春公演では上記の「長めのアンコール」がさらに長くなって、かつての本編=1部とともに「2部構成の本編」として披露されていたこと。下記のセットリストを見ていただければわかる通り、1部ででっかいクライマックスを迎えた後、“パワー・イン・ザ・ワールド”“ガストロンジャー”“ファインティングマン”でもう一度絶頂がやってきて、さらにアンコールへ雪崩れ込む……という複層的な構成を実現していた。

もう1つ。昨年の新春公演@武道館では金原千恵子(Violin)率いるストリングス総勢14名とともに開演早々“奴隷天国”を壮麗にぶち上げてオーディエンスの度肝を抜いていたエレカシだが、今年は金原千恵子ストリングス・カルテットに加え、山本拓夫(Sax)をはじめとするブラス・カルテットも擁したラインナップだったこと。エレカシ4人+サポート2人の基本編成を軸として、6人だけ/ブラス4人参加/ストリングス4人参加(“リッスントゥザミュージック”ではヴァイオリン&チェロのみ参加)/ブラス&ストリングス両セクション参加、と多彩なフォーメーションを駆使しつつ、個々の曲に最適なサウンドを構築することで、楽曲とバンド・サウンドをロックの「その先」へと押し進める爆発力を獲得していた。たとえば“おかみさん”のパワフルなリフが、ブラス・サウンドと一体になってさらに強靭な輝きを帯びた瞬間。たとえば虚空に哀愁を突き上げる“普通の日々”の宮本の歌に、巧みに織り重ねられたストリングスの旋律が濃密なセンチメントを寄り添わせた瞬間ーーそれらの新たなアレンジから生まれる化学反応が、エレカシの歌の巨大なポテンシャルをこれまでとはまったく異なる角度から証明していた。

しかし、いやだからこそ、晴れ舞台ならではのストリングスやブラスといった「武装」を脱いで、今やエレカシ・ライブのスタンダードと化した6人編成のバンド・アンサンブルを炸裂させた時の、それこそ剥き身の鉈のような音の切れ味と重量感にはハッとさせられた。石くんこと石森敏行のアコギ・ストロークから流れ込んだ“未来の生命体”のソリッドなブルース・ロック感。「どうせ不器用なんだ! 生まれたときから不器用なんだ!」(宮本)という言葉とともに叩きつけた“俺たちの明日”の、ささくれた世界のど真ん中にずどーんと魂の大噴火を描き上げるような晴れやかさ。“東京からまんまで宇宙”の、鋭利なリフとともに地面を揺るがす勢いで図太くうねる冨永義之&高緑成治のグルーヴ……結成から30年を経た今、蔦谷&ヒラマとともに築き上げた6人でのバンド・サウンドの充実感を噛み締めながらも、さらにもっと雄大でエモーショナルな風景を目指して切磋琢磨するプロセスの1つとして、ブラスやストリングスといった「触媒」を貪欲に求めていったということが、新春渋公2daysの2日目となるこの日のアクトからもびしびし伝わってきた。

昨年11月にリリースされた最新シングル曲“ワインディングロード”“東京からまんまで宇宙”をはじめユニバーサル期の楽曲を軸にしつつ、“ガストロンジャー”“ファイティングマン”などライブ・アンセムに加えて“真冬のロマンチック”(94年アルバム『東京の空』収録)、“Soul rescue”(99年シングル『ガストロンジャー』カップリング)、“精神暗黒街”(00年アルバム『good morning』収録)、“寒き夜”(93年アルバム『奴隷天国』収録)、“未来の生命体”“漂う人の性”(02年ミニアルバム『DEAD OR ALIVE』収録)といった楽曲を織り合わせ、冬真っ只中の「今」と2012年という「新たな1年」への祝砲を力の限り撃ち放つようなセットリストも最高だった。が、何より30曲近いセットを2日間歌い続けてきた宮本の、汲めども尽きぬ怒濤の歌のエネルギー! 特に終盤、さすがに声も嗄れて精魂尽き果てても不思議でない場面で、なおも冬空を割らんばかりの渾身の絶唱を噴き上げて聴く者すべての魂を揺さぶってみせるあのバイタリティは、目の当たりにするたびに戦慄が走る。

加えて、「渋公、新春明けましておめでとうエヴリバディ! 昔はさ、年賀状も書かなかったけど……今は毎朝『改まった』感じで生きてます!」と「日々是新年」な心構えを語ったり、客席からの「愛してる!」の歓声に「あの、そういう告白は石くんを通してもらって……でもありがとう! オレも愛してるぜエヴリバディ!」と叫び上げたり……と至って上機嫌モードなMCを展開する「総合司会」としてだけでなく、曲の途中でメンバーの呼吸を合わせるために幾度もストップをかけながらバンドの緊張感とクオリティを高める「総監督」としても、この日の宮本は絶好調だった。そして――――2部の最後、“ガストロンジャー”の爆音からそのまま本編フィナーレへ!という局面で石くんのアンプから音が出なくなったトラブルの際に「俺のアンプ使えよ!」と申し出つつ、「石くん頑張って!」の歓声に「ここは『石くん頑張れ!』じゃなくて『アンプ頑張れ!』だよな?」と宮本が笑いを誘ってから“ファイティングマン”へ突入した場面は、数多いこの日のハイライトの中でも特に名シーンとして胸に残った。

鳴り止まないアンコールに導かれて6人で再登場して“悲しみの果て”を披露した後、「山本拓夫さんから『あれ? あの曲やんないの?』って言われて思い出しました!」とブラス編成で堂々と鳴らしたのは“so many people”! 「今年もドーンといこうぜ!」という宮本の咆哮で大団円……でもおかしくないところだが、またも高らかに巻き起こるアンコールの声に再び6人がオンステージ。Wアンコール“待つ男”でありったけの気迫と情熱を燃え上がらせてみせる姿に、今なおロックを切り開いて前進し続けるエレカシの根源的な衝動が重なって見えて、胸が熱くなった。(高橋智樹)
エレファントカシマシ @ 渋谷公会堂

[SET LIST]

(1部)
01.今はここが真ん中さ!
02.おかみさん
03.真冬のロマンチック
04.Soul rescue
05.精神暗黒街
06.未来の生命体
07.寒き夜
08.リッスントゥザミュージック
09.季節はずれの男
10.風
11.明日への記憶
12.漂う人の性
13.傷だらけの夜明け
14.普通の日々
15.旅
16.笑顔の未来へ
17.俺たちの明日
18.あなたのやさしさをオレは何に例えよう

(2部)
19.Sky is blue
20.ワインディングロード
21.東京からまんまで宇宙
22.ハナウタ~遠い昔からの物語~
23.桜の花、舞い上がる道を
24.パワー・イン・ザ・ワールド
25.ガストロンジャー
26.ファイティングマン

(アンコール1)
27.悲しみの果て
28.so many people

(アンコール2)
29.待つ男
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