髭 @ 渋谷クラブクアトロ

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髭 @ 渋谷クラブクアトロ - pics by Wataru Umeda ※12月2日(金)の写真ですpics by Wataru Umeda ※12月2日(金)の写真です
渋谷クアトロってこんなに揺れるんだっけ?ってくらいにフロアは終始ダンスとジャンプと歓喜と狂騒であふれ返り、熱気のあまり天井からは滴がぼたぼた落ちてくる。「どうもこんにちは! 髭です! いよいよきたね3日目! ほんと、みんなのおかげですよ! 週末ずっと渋谷にいれるのは!(笑)」という須藤寿のシャウトが響き渡る頃には、会場はそれこそ箸が転んでも盛り上がるレベルの「すべての音がキラーチューン」状態に陥っていて……コロムビア移籍第一弾となるニュー・アルバム『それではみなさん良い旅を!』リリースを目前に控えた髭の、渋谷クアトロ3日連続ワンマン・ライブ『BACK TO THE FUTURE』3日目は、まさに髭の「今」の無敵感をぎっちぎち満員のオーディエンスとともに分かち合うような、ハッピーでカオスでプレシャスなアクトだった。

1stミニアルバム『LOVE LOVE LOVE』から現段階での最新アルバム『サンシャイン』に至るまでの自らのキャリアを時系列に従って3分割して3日分のセットリストを構成した、文字通りのオール・キャリア・ライブ『BACK TO THE FUTURE』。“ブラッディ・マリー、気をつけろ!”“下衆爆弾”“ギルティーは罪な奴”3連射に“白痴”まで飛び出した初日はインディーズ時代のミニアルバム3作『LOVE LOVE LOVE』(03年7月)、『Hello! My Friends』(同12月)、『Battle of My Generation』(04年10月)とメジャー移籍後の『Thank you, Beatles』(05年5月)、『I Love Rock n' Roll』(同11月)まで。“溺れる猿は藁をもつかむ”“ドーナツに死す”“ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク”“ロックンロールと五人の囚人”とライブ・アンセム乱れ撃ち状態だった2日目は『PEANUTS FOREVER』(06年11月)と『Chaos in Apple』(07年11月)の2枚(とその時期のシングル収録曲)。というわけで、最終日のこの日のセットリストは必然的に、『D.I.Y.H.i.G.E.』(09年3月)と『サンシャイン』(昨年4月)、さらに発売間近の『それではみなさん良い旅を!』からの楽曲で固めたものになった。過去アルバムからの一撃必殺ナンバーをありったけ撃ちまくった後の、まさに髭・最新モードを軸とした内容だった。で、それが何より最高だったのだ。

髭流ヒップホップ・ミクスチャー(?)“We are HIGE!”から爆裂ロックンロールの極致“D.I.Y.H.i.G.E.”へ雪崩れ込んだクアトロ激震の躍動感を、“サンシャイン”でのミドル・テンポのポップ感や“ミートパイ フロム ロシア”“嘘とガイコツとママのジュース”のサイケデリック感へそのままジャック・インさせてフロアをゆらゆらと恍惚の世界へと導いていく問答無用の音のパワー。フィリポ&コテイスイのドラム組が“オニオン・ソング”を歌い上げるユーモラス全開な空気感から珠玉の名曲“青空”とサイケ・ブルース“三日月”へと展開して聴く者すべての五感を痺れさせていくメロディ魔術師ぶり。“オーバーグラウンド/アンダーグラウンド”“髭よさらば”などロック・ボム系ナンバーのみならず、『D.I.Y.H.i.G.E.』のオープニングを飾った“ダイアリー”“家”のメロウな白昼夢感すら最強のカードに変えてロイヤル・ストレート・フラッシュをキメてくる……かつて髭のプロデューサーだったアイゴンこと會田茂一が『サンシャイン』でメンバーとして正式加入して6人になり、グランジもサイケもロックンロールも消化し尽くしたバンド・アンサンブルがさらに色鮮やかに生まれ変わった、という物理的技術的な進化はもちろん感じさせるが、この日の全能感ばりばりのライブを可能にしているのは、今の髭の6人の、「バンド」としての一枚岩感とはまったく別種の、それでいて強烈な磁場でもってお互いが結びついている、独特の空気感だろう。

「フィリポとコテイスイが最高の詞を書いた曲だよ!」と須藤が紹介すれば「でも、その最高の詞を忘れちゃって(笑)。ここに張ってんだよ」(コテイスイ) 「俺も!」(フィリポ)と脱力MCでさらに笑いと熱気を巻き起こす。「俺たち今、史上最高に『俺たちの曲を演奏できるバンド』だよね? 新しいのを作ったら、前のはどんどん忘れちゃうから(笑)。でも、アイゴンは全曲覚えてます! 昨日(2日目)は史上最高のぶっ込みが……当日になって『これやろう』っていうぶっ込みがあって(笑)」と須藤が言えば「経験豊富なナイス・ミドルなんで」とアイゴンが胸を張って応え、さらにそんなアイゴンを「今、日本で史上最高に蝶ネクタイの似合う男!」(斉藤) 「ぶっ込み王子!」(須藤)と10歳近く年下のメンバーが寄ってたかっていじり倒す。トリプル・ギターにWドラムという超重戦車級の音圧を擁しながら、そこで鳴らされるダイナミックなロックはどこまでも軽やかで、伸びやかで、大胆不敵で挑発的でワイルドで、博愛的なまでに優しい。そして……そんな髭の唯一無二の空気感は、「大先輩=アイゴンへの甘え/信頼感」から生まれているものではまるでなく、むしろ髭が髭であり続けるために彼らが、というか須藤が必然として選びとったバンド・フォーマットの変化によって生まれたものだ。

ゆるやかな安定飛行に入りつつあった『D.I.Y.H.i.G.E.』での自分たちの状態を「アイゴン加入」という裏技でぶっ壊したこと。20代の焦燥と衝動の結晶としてのフラジャイルな髭の音楽世界を、『サンシャイン』での外部メンバー入り乱れた制作のカオスを通して、フラジャイルな部分を残したまま30代以降の「永遠に続くことのできる場所」として再構築したこと。来るべき新作『それではみなさん良い旅を!』では「メンバー全員で作詞作曲&アレンジ」という制作方法をとることで、須藤の内的な混沌を6人の奇跡のバランスの中に完全に取り込んだこと……それらの進化の足跡が、“ロックナンバー”“それではみなさん良い旅を!”といった最新楽曲からじわじわと浮かび上がって、過去曲とともに史上最高に楽しくてでっかい髭の像を結んでいく。それによって、発表当時はその「向かうあてのない白昼夢感」にフォーカスが当たっていた“ダイアリー”“家”のメロディの豊潤な味わいまでもがあふれ出してくる。ロック・バンドとしての「完成」や「完全体」を目指すことよりも、メンバー6人もいるしドラム2人いるしギター3人もいるし世代も違うというイビツな構造ではあるが果てしなく楽しくエキサイティングである「髭」という在り方を選んだことで、これまでの楽曲の威力と滋味が全開放されていく……というモードそのもののような、最高のステージだった。

久々の“夢でさよなら”から“ペインキラー(for Pain)”“テキーラ!テキーラ!”、そして斉藤&アイゴンのギターと宮川のベースが壮麗なまでのスケールを描き出す“虹”のアンサンブルと須藤の「YES! お前らみんな最高だ! 愛してるよ渋谷! 今日は本当にいい日だったよ。また会おう、ここでな!」という絶叫を残して、本編終了。割れんばかりのアンコールに応えて「みんなの熱気がすごくて、3日間ずぶ濡れだよ!」と再びオン・ステージした須藤が笑う。「12月7日に僕たちの新しいアルバムが出ます!」と、新作『それでは~』のラストを飾るメロウな名曲“魔法の部屋”を披露……したところで、実はこの日が43歳の誕生日だったアイゴンのためにケーキが運び込まれ、♪ハッピー・バースデー~ と愛娘・もっちんの歌が響き渡る! むせ返るような会場の祝祭ムードがさらに高まる中、メンバーの顔に次々に生クリームを塗って回るアイゴン。「43歳! バカボンのパパ越したよね(笑)」と満面の笑みを見せつつ、同じく『それでは~』から自ら作曲したハジけまくりのギター・ロック“トロピカーナ”を炸裂させる……幾多のプロデュースを手掛ける売れっ子=アイゴンも、髭という場所でのゆるゆるムードメーカーとしての立ち位置を楽しんでいることがよくわかる。「みんながいれば何も要らない!」という須藤の言葉に、酔いどれオヤジのような語り口で「今日ほどめでたいことはない!」と叫び上げるフィリポ。で、アルバム縛りはここまでとばかりに「おじさんハリキっちゃおうかな!」「だっふんだ!」というアイゴンの笑撃のコールから“ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク”、そして“ロックンロールと五人の囚人”で完全燃焼を越えた歓喜大爆発! 新作への、そして2012年の髭自身への最高のファンファーレを鳴らすような、大充実のアクト。まだまだ終わることのないロックンロールの旅へ僕らを連れて行ってくれるのは、まさにこういうライブだ。新作『それでは~』は今週水曜日発売! 9月に初の日比谷野音も大成功させた彼ら。来年3月から始まる新作ツアー『髭 2012『それではみなさん良い旅を!』TOUR』で、この多幸感と無敵感はどこまで増幅してしまうのか? 今からぞくぞくするほど楽しみで仕方がない。なお、そんな髭の「今」が窺える須藤単独インタビューが現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』に掲載されているのでそちらもぜひ。(高橋智樹)


[SET LIST]

01.We are HIGE!
02.D.I.Y.H.i.G.E.
03.サンシャイン
04.ミートパイ フロム ロシア
05.嘘とガイコツとママのジュース
06.オーバーグラウンド/アンダーグラウンド
07.オニオン・ソング
08.青空
09.三日月
10.髭よさらば
11.3.2.1.0
12.ロックナンバー
13.それではみなさん良い旅を!
14.ダイアリー
15.家
16.夢でさよなら
17.ペインキラー(for Pain)
18.テキーラ!テキーラ!
19.虹

アンコール
20.魔法の部屋
21.トロピカーナ
22.ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
23.ロックンロールと五人の囚人
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