エアロスミス @ 東京ドーム

『ロック・オデッセイ』を含めた2004年のツアー以来となる7年ぶりの来日公演であり、12/10の札幌まで全8公演。石川から広島を経て、東京ドームで2日行われる公演の1日目をレポートしたい。何よりエアロスミスにとっての2011年は、デビュー40周年となる大きな節目の年でもある。一時は、来る新作の制作にスティーヴン・タイラー(Vo.)が不参加と報じられていたり、ジャパン・ツアーに先行しての南米ツアー/ウルグアイではそのスティーヴンがシャワー室で転倒して前歯を折るなどの怪我を負うなど、やきもきハラハラさせられっぱなしであった。で、そんな数々の不安要素をすべて燃料にしてしまうような、もしかしたらわざとスリルを演出しているんじゃないかというぐらいの、素晴らしいステージであった。結局、スティーヴンもきっちり参加の新作は順調に制作が進められて来年にはリリース予定ということだし、なんだかんだで無敵のエアロなのである。先に触れたようにツアーは今後も続行するので、参加予定の方は以下レポートの閲覧にご注意を。

「コニチワー! トウキョー!」とスティーヴンの第一声がドーム内に響き渡り、さっそくスティーヴンとジョー・ペリー(G.)がスクリーンに映し出されたエアロのロゴ・マークを背負いながら花道へと躍り出てくる。今ツアーのオープニング・ナンバーとして用意されたのは“ドロー・ザ・ライン”だ。テクニカルなコードのギター・リフを転がすジョーと共に、一本のマイクで寄り添って歌声を届けてくるスティーヴン。いきなり絵になる二人である。あんたら、ついこの間までケンカしていたんじゃなかったっけ? スティーヴンは大口を開けて高笑いを上げ(前歯の治療も完璧)、“エレヴェイター・ラヴ”のふんぞり返るようなハード・ロック・グルーヴの中で今度はオーディエンスによる一大コーラスを誘う。ジョーのスライドが唸りを上げる“モンキー・オン・マイ・バック”に続いては、ジョーとブラッド・ウィットフォードの豊かなギター・フレーズに歌メロが織り重なって21世紀型エアロの熟練ぶりを描き出す“ジェイデッド”へ。スタンド・マイクを抱えて巨大なステージ上を練り歩き、カメラに視線を投げ掛けるサーヴィスも怠らないスティーヴンは、この時点で既に上着を脱ぎ捨ててタンク・トップ姿になっている。

沸々と盛り上がってゆくイントロが歓声を呼ぶのは“ジェイニーズ・ガット・ア・ガン”だ。ハイトーンの歌声が更に伸び、ギター・フレーズとせめぎあう。ここまでの5曲のうち、実に3曲が1989年作『パンプ』からの選曲となっている。ちょっと意外な気もしたけれど、筆者はこの辺りのナンバーが世代的にドンピシャリなので嬉しい。大振りなバス・ドラムとトラッド・テイストのギターがドラマティックに描き出す“リヴィング・オン・ジ・エッジ”も然りである。ロックが大きな支持を獲得し、スタジアム規模の会場で鳴らされる必然が曲調とサウンドそのものに落とし込まれた、これぞスタジアム・ロックという夢とそれゆえに巨大な悲しみのシンパシーを、エアロは背負い続けている。「次はファースト・アルバムだよ! よく見ておけ!」と走り出すロックンロール・ナンバー“ママ・キン”はこの中盤に配置された。そしてジョーイ・クレイマーのドラム・ソロが盛り込まれる。プリミティヴなタム・ロールから始まる、一発一発に溜め息が漏れるような安心クオリティのパフォーマンスだ。そこに乱入し、二人掛かりのドラム・プレイを演出してしまうスティーヴンはさすが元ドラマーといったところだが、せっかくなんだから休んでいればいいじゃないか。つくづく元気な63歳である。

“ママ・キン”と鏡映しに対を成すようなロックンロール“リック・アンド・ア・プロミス”でバンド演奏が再開され、スティーヴンのブルース・ハープも吹き鳴らされる“ハングマン・ジュリー”。続いてはアカペラで歌い出される“ホワット・イット・テイクス”へ。この日の選曲はやはり、80年代後半以降のエアロ第2期黄金期からのものが多い。リフ押しでゴリゴリと進める“ラスト・チャイルド”の後には、ジョーが歌にギターに大活躍のジミ・ヘンドリックス“レッド・ハウス”悶絶ブルース・ロック・カヴァーである。またもやスティーヴンがドラム参加を見せる“コンビネイション”。この辺りの『ロックス』収録曲はつい先日、35周年記念盤がリリースされたばかりでもあるので数多く披露されるかと思っていたが、エアロのレパートリーの豊富さの前にはそう簡単には行かないようだ。そう言えば“バック・イン・ザ・サドル”やってないし。

カヴァー曲“ベイビー、プリーズ・ドント・ゴー”で不穏にスウィングするアンサンブルに突入してからのクライマックスは、特大スケールの歌心によって完全掌握モードへと突入していった。名曲“クライン”そして“ミス・ア・シング”の流れは反則モノだろう。終盤になってますます本領を発揮してゆくスティーヴンの喉が凄まじい。本編ラストは、トム・ハミルトンが奏でるベース・フレーズのリフレインが“スウィート・エモーション”を導く。トムは再発した癌の治療手術を経ていたことが明らかにされていたけれども、オリジナル・ラインナップの揃ったエアロをこうして2011年に観ることが出来、こうして実際に“スウィート・エモーション”のサウンドに包まれることが出来るというのは、改めて感慨深いことだ。なかなか新作が制作されなかった要因のひとつには、やはりトムの体調を慮ってのこともあっただろう。

アンコール。白いシャツを身にまとったスティーヴンが、花道に用意されたこれまた純白のピアノを奏でて歌い始めるのは、“ホーム・トゥナイト”のさわりの部分。劇場版『SPACE BATTLESHIP ヤマト』に提供したソロ曲“ラヴ・リヴズ”をやってしまうんじゃないかと一瞬ドキドキしたが、そこから“ドリーム・オン”へと繋ぐ名演であった。かと思えばスタンド・マイクを振り回して走る“トレイン・ケプト・ア・ローリン”で加熱し、そのアウトロの残響音の中に16ビートのスネアが鳴り始めるだけで、気の早いファンは悲鳴のような声を上げる。とっておきの一曲はもちろん、必殺のギター・リフが轟く“ウォーク・ディス・ウェイ”だ。スクリーンには日の丸が映し出され、視界いっぱいのスウェイが広がる文句無しのフィナーレとなった。「みんな、手を挙げろ!」と最高潮の記念撮影も行われ、本当にあっという間に感じられた2時間超のステージは幕を閉じた。新曲は披露されなかったけれど、確実に新作への渇望感を煽り立ててくれる(オリジナル・アルバムとしては10年越し……)、そんな2011年のエアロスミスが、そこにはいた。(小池宏和)

セットリスト
01. Draw the Line
02. Love in an Elevator
03. Monkey on My Back
04. Jaded
05. Janie's Got a Gun
06. Livin' on the Edge
07. Mama Kin
08. Lick and a Promise
09. Hungman Jury
10. What It Takes
11. Last Child
12. Red House (Jimi Hendrix cover)
13. Combination
14. Baby Please Don't Go
15. I Don't Want to Miss a Thing
16. Cryin'
17. Sweet Emotion
- encore -
18. Dream On
19. Train Kept A-Rollin'
20. Walk This Way
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