サカナクション@幕張メッセ国際展示場 9,10,11ホール

サカナクション@幕張メッセ国際展示場 9,10,11ホール - pics by Daisuke Ohki(OFFICE INTEZIO)pics by Daisuke Ohki(OFFICE INTEZIO)
サカナクション@幕張メッセ国際展示場 9,10,11ホール
新作『DocumentaLy』リリース直後の10月に新潟からスタートした全国ツアーの終盤、千葉・幕張メッセ公演のレポート。本稿は、ファイナルである京都KBSホールの2デイズ終演後のアップとなりますので、どうぞご了承を。
それにしても、首都圏近郊のファンが一同に会する公演(もちろん全国各地からの熱心な参加者もいただろうし、残念ながら参加できなかった首都圏近郊のファンも数多くいただろう)とはいえ、2万人である。フロアに照明が当たるたびに、フロントマン・山口はその光景を目の当たりにして何度もびっくりしていたが、やはりとんでもない光景だった。幕張メッセ9~11ホールぶち抜きの特設会場(11ホールは物販などのエリアに割り当てられている)におけるワンマンというと、思い出せるのは何だろう。ミッシェル・ガン・エレファントの解散ライヴとか、洋楽ならエミネム、或いはオアシスの日本最後となったワンマン。アンダーワールドは、これほどみっちりとオーディエンスで埋まった状況ではなかった気がする。
そういうスケールの光景なのである。なんか軽く目眩がする。

『DocumentaLy』のオープニング・ナンバーでもある“RL”のアッパーなエレクトロニック・ダンス・ビートと大歓声に包まれ、ステージに登場したサカナクションの5人。山口はお馴染みのバンド・ロゴが入ったタオルを掲げ、「『SAKANAQUARIUM 2011 DocumentaLy』、みんな用意はいいか!? いくぞー!!」とそのまま演奏に突入してゆく。早々に岩寺(G.)&草刈(B.)がそれぞれにプレイしながらステージの淵へと躍り出てくる、速攻型のフォーメーションである。続いて“モノクロトウキョー”の、くぐもった調子の歌声に空間系エフェクトを噛ませた山口のヴォーカルが響く。ダンス・ビートが上昇線を描きながら、しかしただ盛り上げ倒すわけにはいかないという、この空気。時代を映し出すサカナクションの音楽がビシッと提示される序盤である。江島のドラムと岡崎のシンセ・フレーズが弾けるイントロに歓声が沸き、“セントレイ”。そしてバンドのロック性とオリエンタルな旋律が情感に訴えかける“アドベンチャー”といった『シンシロ』期のナンバーを上手く挟み込みながら、録音ヴァージョンよりもぐっとBPMが速い“仮面の街”、悲鳴を上げるような岩寺のギター・フレーズがエモーションを加熱する“Klee”と、一息に序盤を畳み掛けてしまった。“仮面の街”で《意味もないのに僕は笑って 慣れた手つきで君を触ったよ/汚れてないのになぜか手を洗いたくなってしまったんだ》というフレーズを歌う山口の歌声は、まるで今にも泣き崩れてしまいそうなものであった。

「『SAKANAQUARIUM 2011 DocumentaLy』にお越しくださいましてありがとうございます。スゴイ人! うおー! 後ろの方、聴こえてる!? うおー! こんなデカいキャパでワンマンやるの、初めてなんで、緊張してますけど……伝わってるとおもいますけど(笑)、今日は最後まで楽しんでってください」。シンプルな語り口の山口ファーストMCを経て、本編中盤は“アンタレスと針”からのダンス・ビートを抑えたシリアスなストーリーテリングへと向かってゆく。続いて切々と歌われる“years”、ヴォーカルのリフレインが映画音楽のようにメランコリーを増幅させる“流線”と、1曲1曲がしっかりと余韻を残しながら届けられる。『DocumentaLy』のキモの部分である。レーザーを含めた照明やVJなどの演出は効果的に用いられるものの、サカナクションの場合はこれだけのスケールの会場でも決して派手派手しく押し付けられるものではなくて、オーディエンスの一人一人が音楽と歌から自由に世界観を解釈し、イメージすることができる余裕を残してくれている。他人の頭の中を覗き込むことは出来ないのでハッキリしたことは言えないけれど、むしろこの方が、オーディエンスの一人一人にアーティストの意図する世界観が伝わっているのではないだろうか。

サカナクション@幕張メッセ国際展示場 9,10,11ホール
そして、“エンドレス”だ。「NINJAR LIGHT(ニンジャーライト)」と呼ばれる、ステージの天井から吊り下げられた幾つものLEDが楽曲と同期しつつ奥行きのある立体模様を描き出し、山口自身が数ヶ月間、『DocumentaLy』制作リミットのギリギリまで作詞に苦しんで遂に完成させたという、詩情あふれる歌詞が届けられる。楽曲の中で次第次第に、久々に立ち上がってくるダンス・ビート。なんてドラマティックなのだろう。「二本足で立ち上がったばかりの人間は、倒れないようにするために、前傾姿勢で全力疾走したに違いない」というようなことを書いたのは『コインロッカー・ベイビーズ』の村上龍だったと思うが、それになぞらえるなら、サカナクションは「倒れないために、ダンス・ビートを鳴らす」といったところだろうか。この直後に放たれるのは“『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』”だ。バンドの手前に浮上してくるのは、あのPVでお馴染みの山口一郎(に扮するダンサー)と4体の山口人形、まさかの登場である。歓喜のダンス・タイム。完璧だ。音楽を、ダンスを獲得するサカナクション流の必然のプロセスが、この中盤で、完璧に描き出されるのであった。

音楽とダンスの必然を分かち合うサカナクションと2万人を止めるものは、もはや何もなかった。NINJAR LIGHT大活躍の“ホーリーダンス”、ゴーグルを装着した5人が横一線に並び、機材を操って繰り広げられる“DocumentaRy”。もう分かったよと言いたくなってしまうような“ルーキー”、“アルクアラウンド”、“アイデンティティ”といった大シンガロングを交えてのシングル曲の乱舞。そして本編の最終ナンバーとして配置されていたのは、『DocumentaLy』のラストを飾っていた“ドキュメント”であった。胡弓のような波形のシンセ音がどこかノスタルジックに響きながら、《愛の歌 歌ってもいいかなって思い始めてる》という最後のセンテンスへと山口の歌を導いてゆく。一見、サカナクションは快進撃を続けて2万人というステージに到達してしまったバンドに思えるけれど、山口はこの言葉をやっと伝えるまでに、実に5枚のアルバムを必要とした。

「曲を聴いて貰いたくて、MCを無くしましてですね、ダダダダッとやることでアルバムの世界観が伝えられるのではないかと思いましたが、いかがでしたでしょうか?」「人としても音楽に成長させられてきたけど、会社に行ったり大学に行ったり高校に行ったり、そういう人たちと何も変わらないと思ってるんですよね。そうじゃないと、みんなの気持ちを代弁する音楽とか作れないし。本当は、やりたくないこととかもあるんだよ。好きな音楽だけやりたいな、とか。でも、うまくバランスを取ってやってくっていうのが、今のサカナクションなんで。これからもよろしくお願いします」「2011年は、きっと10年後、20年後になっても振り返られる1年だし、将来、子供とか孫にも訊かれるんだろうなと思ったし、難しかったけど、でも僕はこの時代のことを歌いたいと思ったし、そうしてこのツアーを回っています」。

とことん音楽的であるという意味でコンセプチュアルな本編をやり遂げたからなのか、アンコールやダブル・アンコールでの山口は、堰を切ったように語りまくっていた。挙げ句の果てには、メンバー紹介の折にアドリブのジャム・セッションをおっ始めて各自のソロまで盛り込み、「絶対あとで怒られる」とか言っていた。でも、MCで伝えなくとも、ひたすら音楽的な本編で、すでに2万人に伝わっていたのではないかと思う。そういう力が『DocumentaLy』の楽曲群にはあるし、それをよりクリアに伝えるステージ進行があった。アンコールの選曲は、本編で『DocumentaLy』の世界観を伝え切ったあとの、往年の名曲群である。ナイーヴな自分自身と向き合い続け、まわりくどいまでに説明的にならざるを得なかった、だからこそ確かな言葉と音楽をコミュニケーション・ツールとして獲得することの出来たサカナクションの姿があった。2万人を経て、しかし本当のコミュニケーションはこれから始まるのだと思う。傷つけ傷つけられるリスクを背負った愛の物語が、つまりは世界との格闘が、これから始まるのだと思う。

なお、今回の公演の模様は、11/20(日)夜10:30から、WOWOWにて放送される予定となっている。願わくば、2011年の空気とエモーションをドキュメントしたこのステージの映像が、パッケージ化されることも期待したいところだが。また、サカナクションは12/14に『SAKANARCHIVE 2007-2011~サカナクション ミュージックビデオ集~』をリリース、年の瀬12/28には、COUNTDOWN JAPAN 11/12の初日に出演が予定されているので、ぜひ楽しみにして頂きたい。(小池宏和)


セット・リスト

1:RL
2:モノクロトウキョー
3:セントレイ
4:アドベンチャー
5:仮面の街
6:Klee
7:アンタレスと針
8:years
9:流線
10:エンドレス
11:『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
12:ホーリーダンス
13:DocumentaRy
14:ルーキー
15:アルクアラウンド
16:アイデンティティ
17:ドキュメント
EN1-1:ネイティブダンサー
EN1-2:三日月サンセット
EN2:目が明く藍色
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