アーティスト

    アナログフィッシュ @ 日比谷野外大音楽堂

    アナログフィッシュ @ 日比谷野外大音楽堂
    アナログフィッシュ @ 日比谷野外大音楽堂
    佐々木健太郎「今日のこの日のために、(下岡)晃は酒を絶って。で、僕は大好きな『ラーメン二郎』を絶って、12キロやせました!」
    客席「おおー(大拍手)」
    下岡晃「楽曲やった時の拍手よりも、今の拍手の方がでかいのがイヤなんだけど」
    客席「(笑)」

    というわけで、アナログフィッシュ初の日比谷野音ワンマン。今年1月16日、渋谷WWWのアンコールで、「次のワンマンは10月10日、日比谷野音です」と発表したライヴである、そしてその1ヶ月前の9月7日がニュー・アルバムのリリース日である──つまり、2011年はここをゴールとして活動していくことを宣言していたライヴです。正直、アナログの動員力からするとありえないキャパ設定なわけで、つまりバンド側&スタッフ側もハナから普通にやる気はないわけで、客席を「砂かぶりシート」「ペアシート」「自由席」に分けてチケットを販売したり、当日は18時から本番だったんだけど、その前に「テイスティングライブ」と題して入場無料で30分のライヴをやったり(それを観て気に入ったらチケット買って本番も観てね、って企画ですね)、などという仕掛け、いろいろあり。要は、ただ大きな会場でワンマンをやる、というだけではない、物語性やエンタテインメント性がとても高い企画だったわけです。
    が、ライヴそのものは、その逆。照明とか、ニュー・アルバム『荒野/On the Wild Side』のジャケの絵をあしらったバックドロップとか、そういうのはあったけど、基本的には「ひたすら音楽のみ」なステージだった。元々、派手な仕掛けとか演出とかが似合わない、どちらかというとストイックなバンドだけど、この夜はその極みみたいなライヴだった。
    で、それが、本当に、すばらしかった。特に驚いたのは、過去の代表曲たちも入れつつ、『荒野/On the Wild Side』を全曲やる、というセットリストだったんだけど、「ニュー・アルバムのリリース直後だからそうした」という感じではなく、「いい曲・強い曲を選んでいったら結果的にそうなった」みたいな鳴り方を、曲そのものがしていたこと。ああ、『荒野』って本当にいいアルバムなんだなあ、ということを実感した。そんなこと充分わかってたつもりだったんだけど、改めて。

    「歌も歌うギタリストやベーシスト」とかではなく、ボーカリストがふたりいる。しかも、それぞれ詞も曲も作る、どっちがメインでどっちがサブとかない、どっちもメイン、という、特異なバンドのありかた。「歌とギターとベースとドラム」という編成でありながら、その編成でできることをどんどん踏み超えていく、しかもいろんな楽器を足すことではなく引くことでそれを達成している、つまり、音で隙間を「埋めていく」のではなく「空けていく」ような、「鳴っている」ことと同じくらい「鳴っていない」瞬間も重要な、サウンド・プロダクト。そしてそれが、難解とは正反対な、誰でも口ずさめるメロディで(健太郎の曲の中にはちょっと口ずさみにくいやつもありますが。“ロックンロール”とか)、誰でも意味がつかめる言葉と共に、形になっている、ということ。というような、個性や特性や武器などなどが、バンド結成以来最も高いポイントに来ているのが、今のアナログフィッシュであることがよくわかるライヴだった。
    歌詞も音も、すべてがクリアに耳に入ってくる。曇っているところやピンボケしてるところが、一瞬たりとも、一箇所たりともない。それでいて、「これは私のこういう意志を綴った歌なので、その通りに聴いてください」みたいな息苦しさはゼロ。聴き手が勝手に自分のこととして、自分の好きなように解釈して受け取れる、そんな自由さ、風通しのよさに満ちている。つくづく、すごいバンドだと思う。

    以下セットリスト。
    1 TEXAS
    2 SAVANNA
    3 LOW
    4 ロックンロール
    5 TOWN
    6 UNKNOWN
    7 NO WAY
    8 ハミングバード
    9 チアノーゼ
    10 平行
    11 Hybrid
    12 戦争がおきた
    13 風の中さ
    14 PHASE
    15 Fine
    16 アンセム
    17 Sayonara90's
    18 荒野
    アンコール
    19 出かけた

    5曲目と6曲目の間のMCで、「大都会のオフィス街に突如現れたこの緑のスペースが『TOKYO SAVANNA』です」と、健太郎は宣言した。8曲目“ハミングバード”をやる前に、「戦う女の子たちに捧げます」と言った。下岡晃は、ギターを置いて、ハンドマイクで11曲目“Hybrid”を歌ったあとには、「こんなに、どんどん終わりに向かっていきたくないライヴもないですよ。すげえ楽しい」ともらした。そして、続く“戦争がおきた”をやる前に、「ニュースとか見てると、『これ、俺も加害者じゃないか』と思うことがあって。そうすると何も言えなくなるけど、それはつまんない。だったら、好きなことをやろうと思って。『そんなんできるわけない』とか、『おまえも加害者だろう』とか言われても、どっちみちやることないわけだから、好きなことやろうと思います」と、前置きした。「次のフェイズに行く準備はできていますか?」と、“PHASE”。健太郎が「エブリバディ、両手広げてキャッチしてくれよ!」と叫んで“アンセム”。そして本編ラストは、下岡晃「たまに見えなくなってしまうこともあるけど、いつも僕らの近くにある可能性についての歌です。今日はみんなに捧げます」という言葉と共に、“荒野”でしめくくられた。
    アンコールでは、まず「このライヴのためだけじゃなくて、去年の5月に、次のアルバムを作ろうって決めてからずっと」酒を絶っていたという下岡晃が、メンバー&会場のみんなと乾杯。本当にうまそうにビールを飲んだあと、バンドのスタッフ「チームアナログフィッシュ」を紹介して感謝の意を告げる。そして、“でかけた”で、全19曲のステージは終わった。

    目の前の現実と、今ここで起こっていることと、どう向き合うか。どう考えるか。どう理解するか。そして、その上で、どう行動するか。アナログフィッシュの歌は、すべて、そのことについての歌だと思う。健太郎の方が感覚寄り、下岡晃の方が理論寄り(それでもかなり感覚的だけど)、というところがある気はするが、ふたりともそうだと思う。なんでそのことを歌うのか、というと、うやむやにしたくないからだと思う。保留にしたり「まあいいや」ってことにしたり「それはそれで置いといて」みたいなことにするのが、気持ち悪いからだと思う。というか、それでは前に進めないからだと思う。
    つまり、前に進まなきゃいけない、と思っている、ということだ、アナログフィッシュは。そうすると、「そんなことをやり続けるって、大変じゃないか?」という話になる。大変だと思う。しんどいと思う。だけどなんか、このバンドの場合、「悲壮な覚悟で」とか「生死を賭して」とか、あるいは「この現実に押しつぶされそうになりながらも、それでも果敢に」みたいな感じじゃないのだ。どこか軽やかに、楽しそうに、それをやっている感じなのだ。目の前の現実が、どんなにヘヴィーでも。というか、ヘヴィーであればあるほど。
    そこが僕は本当に好きだし、本当にすばらしいと思うし、このバンドが他の誰ともとっかえの効かないところだと思っている。本当に、希望の音楽だと思う、アナログフィッシュが作っているのは。

    特に、この日も14曲目にプレイした“PHASE”。

    コンクリートジャングルをかき分け
    リアルとバーチャルを嗅ぎ分け
    システムとルールをくぐり抜け
    真実に会いに行くんだよ
    一体どうして胸が痛むのか
    こんな気持ちいつまで抱えてりゃいいのか
    考えたいんだ空が白んで
    歩かないか夜が明けるまで
    僕たちのペースで この次のフェーズへ

    ここ、すごくない? こんなに重要なことを、こんなに簡潔に、こんなにごく平易な言葉で、こんなに、それこそ「普通じゃん」って言われかねないくらい、誰にでもわかる書き方で歌にできた例って、このバンドに限らず、過去ほとんどないのではないか、と思います。奥田民生“イージュー・ライダー”の「幅広い心を くだらないアイデアを 軽く笑えるユーモアを うまくやり抜く賢さを」を、思い出しました、私は。伝えている内容は全然違うけど、「大事なことだけを、誰にでもわかるように、簡潔に」という点で、近いと思う。


    なお、以前より告知されていたとおり、アナログフィッシュは、これが2011年最後のライヴでした。下岡晃、「よいお年を」と言ってました。あと、「来年はツアーやるから。CDも作るから」とも言っていた。「集大成」とか「完成」みたいなニュアンスも、とてもあったライヴだったので、別にこれで休止したり解散したりするわけじゃないからね、ということが言いたくて、来年のことも告知したのだと思う。年内も、晃・健太郎それぞれソロ弾き語りで「SHIMOKITA ROUND UP」に出演、などの活動はあるようです。(兵庫慎司)
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