髭 @ 日比谷野外大音楽堂

髭 @ 日比谷野外大音楽堂
髭 @ 日比谷野外大音楽堂 - pics by WATARU UMEDApics by WATARU UMEDA
午前中の曇り空から一転して澄み切った日比谷野音の夕空をどでかい爆笑で彩った『アメリカ横断ウルトラクイズ』のテーマ曲SEが、そして須藤寿(Vo・G)の「僕たちが髭ちゃんだよ! 今日はすごくいい日になったね。最高の気温、最高の環境。虫もいっぱいいるけどね! 今日はすごく盛り上がるつもりでいるからね。みんなとね!」というあの独特の、ミュージカルから抜け出してきた魔術師のような口調のMCが、霞ヶ関の夜空をかき混ぜるように響く……髭自身初の野音ワンマン公演『野音ちゃん』は、これまでサイケでポップで変幻自在(で、だからこそどこかカオティックなムードを孕んだ)サウンドを鳴らしてきた髭が見せた、おそらく最もストレートで、だからこそ最高のロックンロール・アクトだった。が、「ストレートな曲をやってるからストレートなライブだった」という単純な話では片付かないのも、いかにも髭ちゃんらしいところだ。

開演早々「それではみなさん聴いてください、新曲です!」と、いきなり新曲“それではみなさん良い旅を!”のアグレッシブなロックンロールでパーティーの幕を開けたかと思うと、“MR.アメリカ”“B級プロパガンダ”“黒にそめろ”“ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク”“髭よさらば”と新旧必殺ナンバーを序盤から惜しげもなく投下して野音丸ごと踊らせまくって地面を揺らしまくる6人。“髭よさらば”でフィリポ(Dr)がステージ前面に飛び出してデジタルパッド叩きながら踊り回ったり、「ネクスト・ソング聴いちゃう? 今朝は見えなかったけどね。みんなのことだって気がしたよ!」と3000人を煙に巻くようなMCから須藤が“サンシャイン”をメロディアスに歌い上げてみせたり、よりディープでサイケデリックな色合いを増したアレンジの“嘘とガイコツとママのジュース”では「このピコピコいってるフレーズ、電子音のシーケンスか?」と思ったらアイゴンこと會田茂一(G)のライトハンド奏法だったり……という自由奔放なライブ運びはしかし、これまでの髭ちゃんのライブに比べれば格段にシンプルなものだったし、「トリプル・ギター(時に須藤ハンドマイクでWギターに)+ベース+ツイン・ドラム(曲によって1ドラム1パーカッション)」という基本フォーメーションを崩すことはなかった。それは「その『自由奔放さ』の象徴でもある、コテイスイ(Perc・Dr)がメガホン持ってアジテーションして回る曲が1曲もなかったから」というところも大きいが、どうもそれだけではない――ということに、中盤で披露された新曲“ラブ・ファントム(Let's go!)”の、須藤/アイゴン/斉藤祐樹(G)の3ギターが織り成すハード・エッジなオルタナ・オーケストラぶりを聴いて気がついた。

髭 @ 日比谷野外大音楽堂
髭 @ 日比谷野外大音楽堂
髭 @ 日比谷野外大音楽堂
髭は、というか須藤寿は、常に自分の中のカオスの持って行き場を必要としていたし、ある時は楽曲に、ある時はサウンドに、ある時はライブのパフォーマンスにそのカオスを流し込むことで、自らのバランスを保ってきたとも言える。そして『サンシャイン』では、「奥田民生、川西幸一、金子ノブアキなど外部ミュージシャン多数参加」という、もはやバンドなのか1つのソサエティなのかわからないぐらいの混沌とした編成を作ることによって、かつてないほどシンプルでストレートな作品を生み出すことに成功した。そのカオスを須藤は今、この6人の音楽的キャパシティに素直に委ねることで、それこそ対消滅のような形でバンドそのもののエネルギーとして昇華することに成功している……ということが、6人のステージ上の伸び伸びとした佇まいから伝わってくる。いくら自然体でいても、この6人自身が音を鳴らせばそこにカオスがある、ということを、須藤はじめ6人が全身で謳歌しているのである。

「やっぱり今夜は最高だね! やっぱりみんながいるから最高の夜だよね! 僕たちは新曲いっぱい書いてるんだけど、聴いてもらっていいかな?」「僕の名前? ヒサシです! 全国各地を回ったよ。もちろん東北もね。いろんなものを見てきたよ。君に見せるためにね!」「今日は祝日だったんでしょ? 今日の野音より、みんなが午前中何をしてたのかが気になるよ!」「まさか今日、みんなと一緒にいられるなんて、生まれた時は思いもしなかったよ! 俺たち死ぬまでハッピーかもね! 俺たち死ぬまで生き続けるから!」といった須藤のMCも至る所で絶好調に弾けまくる。そんな中、「ずっと思ってたんだよ……『みんなとはうまくいかない』って。お客さんとはうまくいかないって。20代の頃は。でも、30代になったら、みんなのことが好きで好きでしょうがなくなったよ! 僕の場合は32歳から33歳に上がる時!」という、おそらく須藤の本心そのものに違いない言葉にはグッときた。あのインディーズ初期の、グランジとザ・ドアーズが渾然一体となったような尖ってねじれたギター・サウンドも、オーディエンスとのギアの噛み具合によって当たり外れの大きかったライブの狂騒度も、すべては自らのカオスを制御しきれないままに叩きつけてきた須藤の内面からくるものだった。そしてついに、須藤のカオスを6人全員のポテンシャルと同化させることに成功した――という「今」の充実度が、そんなMCからも窺えて、思わず嬉しくなってしまった。

髭 @ 日比谷野外大音楽堂
髭 @ 日比谷野外大音楽堂
“マヌケなクインテット”のイントロで歌詞を忘れて「普通なら『須藤やっちゃったな』って思うでしょ? 全然焦らない! フェスとかだとさ、失敗して悔しさのあまり舞台裏で泣いてたりする人もいるけど、僕なんかすぐビール飲んじゃうもん! 9月23日、地球が始まってから一度しかない特別な日。絶対みんなの記憶に残る。間違ってよかった!」と軽やかに言いつつ本気で歌詞が思い出せない風の須藤の姿も、日本の音楽シーンを翻弄するロックンロール・スウィンドルとしての逞しさすら漂わせていたし、“ブラッディ・マリー、気をつけろ!”“テキーラ!テキーラ!”“ロックンロールと五人の囚人”(須藤は曲の最後に「ロックンロールと六人の囚人!」と言ってた)で再び野音を揺さぶってみせた爆発力も、「時速300km出てんのにまだアクセルに遊びがある」的な余裕とともに響いていた。“虹”でひときわハイブリッドでサイケな轟音白昼夢を描き出し終了……でも最高にエキサイティングな幕切れだったが、「なんていい日なんだ!って今日何回言ったと思う?」「今日はこのメンバーでしか集まれなかったの! そういう運命なの! なんて素敵なことだと思わない? 誰も欠けることなく、想像した通りのメンバーが集まってるよ!」という須藤の言葉に続けて、最後にスロウでメロウな新曲“魔法の部屋”を披露して本編を締め括った6人。「今夜は本当にありがとう! おかげで僕は最高の気分を味わうことができたよ!」(須藤)と、意気揚々とステージを後にした。

髭 @ 日比谷野外大音楽堂
「移籍しました! 中学で言えば、制服が変わるほどビッグなことじゃないよね! これからもよろしくね!」と、レコード会社の移籍をアンコールでさらりと告げる須藤。そして、12月7日には移籍第1弾アルバム(タイトル未定)がリリースされる――という本人からのアナウンスに、大きな拍手喝采の声が沸き上がる。「今までは須藤が全部の曲で作詞作曲でしゃしゃり出てたけど、次のアルバムではみんなで作曲してる! そんで、歌詞は全部、須藤がしゃしゃり出てる! 結局は須藤の血が通ってるってことさ!」という須藤の言葉も、今の髭ちゃん6人の「自然体でカオス」な状態を裏付けていると言える。「アイゴンとタッグを組んだよ!」とさらに披露された新曲“トロピカーナ”も、これまで何度観たかわからない“ダーティな世界(Put your head)”の圧巻の迫力も、いちいち最高。来年には新作のツアーをがっつり回るらしい髭ちゃんの「これから」への期待感が、高揚感とともに終演後の会場に強く濃く漂っていた。(高橋智樹)
髭 @ 日比谷野外大音楽堂

[SET LIST]
01.それではみなさん良い旅を![新曲]
02.MR.アメリカ
03.B級プロパガンダ
04.黒にそめろ
05.ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
06.髭よさらば
07.サンシャイン
08.せってん
09.嘘とガイコツとママのジュース
10.ラブ・ファントム(Let's go!)[新曲]
11.ママ’s 理論
12.ヒサシ.カリメロ
13.マヌケなクインテット
14.ブラッディ・マリー、気をつけろ!
15.ロックナンバー
16.テキーラ!テキーラ!
17.ロックンロールと五人の囚人
18.虹
19.魔法の部屋[新曲]

EC1.青空
EC2.トロピカーナ[新曲]
EC3.ドーナツに死す
EC4.ダーティな世界(Put your head)
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする