ジンジャー with ウィリー・ダウリング @ SHIBUYA O-nest

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ジンジャー with ウィリー・ダウリング @ SHIBUYA O-nest
4月のチャリティ・ライブ来日に続き、男ジンジャー、ジャパン・ツアー絶賛敢行中! 昨年末にも怪我を押して来日しているので、この1年弱のうちに3回来日していることになる。いくら親日家とはいえ、これは凄い。今回はまず何よりも先に、9/11に仙台で行われた定禅寺ストリートジャズフェスティバル、そして翌12日の仙台PARK SQUAREでの公演からツアーをスタートさせた。つまりそういうことである。まるで邦人アーティストのようなツアー日程なのである。そして9/13は東京・SHIBUYA O-nestでのステージだ。結論から言ってしまえば、それはもうどうかと思うぐらい楽しく、あたたかなバイブレーションに満ちたショウであった。

アコースティック・セットで身軽なパフォーマンスを見せるジンジャー、というのはこのところお馴染みになっていて今回も同様なのだが、注目すべきはウィリー・ダウリングを連れ立ってのライブになっているということ。ウィリーは90年代前半にザ・ワイルドハーツに在籍していたことがあるマルチ・ミュージシャンで、つまりジンジャーとは元バンド・メイト。その後ウィリーはハニークラックを経て、現在はJackdaw4という5人組のポップ・ロック・バンドとして活動しながら数枚のアルバムをリリースしている。今回のツアーでは、Jackdaw4のメンバーのうちウィリーとギタリストのジョンが2人でジンジャーのサポート・アクトを務める。残りの3人は母国に残って次のアルバム制作に勤しんでいるそうだ。ジャパン・ツアーはまだまだ日程を残しているので、以下ネタバレを含めたレポートの閲覧には、どうぞご注意ください。

さて開演時間の20時ほぼきっかりにJackdaw4の2人が登場。上記のような理由でウィリーがボーカル&キーボード、ジョンがギター&ボーカルというシンプルな編成ながら、積み重ねたキャリアが味わい深さを感じさせる、ロック(ブリティッシュもアメリカンも)の酸いも甘いも噛み分けたようなプロフェッショナルなパフォーマンスを見せてくれた。メロディ・ラインはさすがに渋さを感じさせるものの、ウィリーの張りのあるボーカルがとりわけ素晴らしい。目下のJackdaw4最新アルバムに収録された美しいピアノ・バラード“ウィー・ソールド・イット・オール”を披露したり、ウィリーもアコギを抱えてからは(僕は不勉強ながら知らなくて残念だったのだけど)ハニークラック時代のシングル曲“シッティン・アット・ホーム”でファンの喝采を浴びる。その直後にウィリー、「今ノ日本ハ大変ナ時ダト思イマスガ、皆サンノ勇気ト落チ着イタ行動ハ素晴ラシイト思イマス」と見事な日本語で話してくれた。ラストのビートルズ“ヘイ・ブルドッグ”まで、実に親密なムードのポップ・ショウであった。

そしていよいよジンジャーの登場だ。Jackdaw4の2人が引き続きガッチリと脇を固める中で、にこやかに缶ビールを掲げ「タダイマー」と挨拶。それを見るだけでこちらも表情が綻んでしまう。で、演奏開始。ジンジャー、もうこれでもかというぐらいに、ワイハの曲連発なのである。たぶん、セット・リストもない。あったとしても超アバウト。自分でギターをかき鳴らして“ユー・トゥック・フロム・ザ・サンシャイン・フロム・ニュー・ヨーク”をプレイし始めたと思ったら、「(テンポが)速すぎた」とか言っていきなり1曲目から仕切り直している。3本のアコギだけでグイグイとロックし、続いてはトラッド色の強い名曲“ジョーディー・イン・ワンダーランド”でフロアに大合唱を巻き起こしてしまった。ロック・スピリットの中であっさりとポップの魔法を引き出してしまうジンジャー。ワイハで取り上げていた“ホエア・エヴリバディ・ノウズ・ユア・ネーム”の演奏中、唐突に“涙の乗車券”を挟み込んだりもしてしまう。

目映いギター・フレーズで紡がれる“イン・リリーズ・ガーデン”を経て、「さあ歌おうか」と“スカイ・ベイビーズ”へ。「ちゃんと歌えよー」とか言いながら、自分が時折吹き出してしまって歌えていなかったりもする。乗せ上手なオーディエンスも悪いが。ここからまたもや“フール・オン・ザ・ヒル”に繋ぐというビートル・フリークぶりを発揮して、“マズル・ターフ・カクテル”では誰からともなくオーディエンスのコーラスがしっかりと加えられてゆく。それにしても、本当にワイハ曲だらけだ。本音を言ってしまえば嬉しいことこの上ないのだが、昨年ソロのベスト盤をリリースしたばかりなのに。あと、ポップでマジカルなビートル・フリークぶりを発揮するならソロ作品の曲も活躍するはずなのに。まあ、こういうサービスをしてしまうところが、ジンジャーのジンジャーたる所以なのだろう。

とりわけ爆笑だったのが、ビートルズ“イエスタデイ”の歌を「ヒー・イズ・エスキモー♪」だけで押し切ってしまった替え歌。ぴったりフィットしてるのが尚更可笑しい。ポールがこのメロディを夢の中で聴いたとき「イエスタデイー♪」には当初「スクランブルドエーッグ♪」という仮歌を当てはめていたという有名な話があったが、「エスキモー♪」も素晴らしい。そして「誰かカウントしてくれ!」という呼び掛けにフロアから「1、2、3、4!」の声が上がって“ウィークエンド”だ。コーラスの歌が広がり、ジンジャーが「あと2回!」「あと1回!」「やっぱりあと2回!」と叫ぶので延々と続く。挙げ句の果てにはチープ・トリックやアバのカバーまでが飛び出して、ジンジャーがしつこく「サタデー・ナイト」と呼んでいた火曜日の夜は更けていった。アンコールは「俺なんかより歌が巧い人はいっぱいいるんだよ。例えば……ウィリー!」とボーカルを委ね、最後はノリノリで“29×ザ・ペイン”と“アイ・ウォナ・ゴー・ホエア・ザ・ピープルズ・ゴー”で万感のフィニッシュ。アットホームで、夢見心地で、そしてしっかり熱い。そんな最高のステージと最高のオーディエンスたちだった。

ジンジャー with ウィリー・ダウリング @ SHIBUYA O-nest
ツアーは今後、翌14日に名古屋APOLLO THEATER、15日に大阪Sunsui、16日に福岡Rooms、そして18日に東京・追加公演の新代田FEVERと続く予定。タイトなスケジュールでもきっと、ジンジャーたちは最高の夜を届けてくれるだろう。レポートでは演奏曲を書き連ねてしまったけれど、きっとあんまり関係ない。カバーとか含めて見るからにアドリブだらけだし、オーディエンスとの緊密なコミュニケーションとライブ感の方がずっと重要なはずのショウだから。今回もありがとう、ジンジャー。(小池宏和)
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