KTタンストール @ 渋谷O-East

KTタンストール @ 渋谷O-East
KTタンストール @ 渋谷O-East
この日のKTタンストールの来日公演は、当初今年3月に予定されていたものだった。ご存じのとおりそれは大震災の影響でいったんキャンセルとなったわけだが、スケジュールを組み直して彼女が再び日本にやってきてくれたのが、今回の来日なのである。2004年のデビュー以降コンスタントに来日を続け、そのパフォーマンスの素晴らしさが噂に噂を呼び日本での人気を確固たるものにしていった観もあるKTだけに、彼女のライブに対する日本のファンの信頼は篤い。振り替え公演にも拘らずこの日も会場はぎっしりの満員だ。

しかも今回の彼女のバンドは元アッシュのギタリスト、シャーロット・ハザレイが参加しているという豪華編成なのである。スコットランド(KT)とイングランド(シャーロット)のロックンロールの女傑が揃い踏みしたこのバンドはKTにとっても過去最高と言っていいコンディションで、彼女の歴代アルバムの中でも最も折衷的バラエティに富んだ新作『タイガー・スーツ』からのナンバーをライブで100%生かすためにも、シャーロットを迎えてのバンドの強化は絶対必要なプロセスだったのだということが、今夜のパフォーマンスからはひしひしと伝わってきた。

そんな今夜のステージは“Glamour Puss”で幕を開けた。続く“Come On Get In”も含めてオープナーは古典的なブルース・ロック調のナンバーで、KTのヴォーカル・スタイルもジャニス・ジョプリンのそれに近い。こういうストレートでクラシックなメロディと歌唱も彼女の音楽の大きな魅力だが、彼女の音楽はクラシック・ロックな枠にとどまることのない、もっと自由でバラエティに富んだものでもある。事実3曲目の“Uummannaq Song”などは声を楽器のように、ギターをリズム・マシーンのように用いたスーパー・モダンなナンバーだし、続く“Hold On”では自分の歌声をその場で録音してサンプリング&ループさせるというKTの十八番とも言えるDIYなマナーが遺憾なく発揮されていく。

“False Alarm”以降の中盤は鉄板の“Other Side”も挟んでのしっとりしたバラッド・ナンバーが続き、ついさっきまでアコギでエレキ以上のパワフルなリフをがんがん繰り出していたKTが、今度はジョニ・ミッチェルみたいな風情で柔らかくアルペジオを紡いでいく。大迫力のロックンロールとしても、そして失恋した女子にそっと寄り添うベッドルーム・ミュージックとしても、KTタンストールの音楽はパーフェクトにその役割を果たしていく。

そして、ここまでで最大の盛り上がりを記録したのが“Black Horse And The Cherry Tree”だ。彼女の最初のブレイクのきっかけともなったこの曲は、KTタンストールが持つ様々な「顔」が一堂に会したかのようなユニークなナンバーだ。アコースティックなのにファンキーで、ゴージャスなホーンがブカブカ鳴り響く横でDIYなサンプリングがせっせと同時に続けられ、泥臭いブルースのようでいてメロディはどこまでも艶やかに磨き上げられたモダン・ポップだという矛盾の数々を、矛盾と感じさせない圧倒的な説得力と言うか、彼女の包容力は半端ではない。

“Lost”、“Golden Frames”、“Madame Trudeaux”といった新作『タイガー・スーツ』からのナンバーが立て続けに披露された後半戦はシャーロットが面目躍如の大活躍! これまでのKTの音楽性にさらにエレクトロの要素まで加わった『タイガー・スーツ』のナンバーを、単なるエレクトロの足し算に終わらない混然一体のケミストリーの産物へと昇華させていたのは間違いなくシャーロットのギターだった。オリジナルの楽曲から大きく逸脱してジャムっぽく広がっていくエクスペリメンタルな流れすらあって、それは以前のKTのライブにはなかった新要素だ。

そして“Saving My Face”、本編ラストの“Fade Like A Shadow”では、直前までのそんなエクスペリメンタルな新側面の面白さを持続させた上で、グラミー・ノミニー・シンガー=KTタンストールに相応しいポップでフレンドリーなメロディが弾け飛ぶという、まさに文句なしの大団円となった。ここまでで既にお腹いっぱい大充実な内容だったわけだが、アンコールのラストにはもちろん“Suddenly I See”が控えている。でも、“Suddenly I See”がひときわ特別なヒット・チューンであるということがもはやどうでもよくなるほどに、今夜のKTタンストールのライブは、一瞬一瞬がパーフェクトであり続けていた。(粉川しの)
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