ウィーザー「BEST OF & PINKERTON ALBUM」 @ Zepp Tokyo

ウィーザー「BEST OF & PINKERTON ALBUM」 @ Zepp Tokyo
ウィーザー「BEST OF & PINKERTON ALBUM」 @ Zepp Tokyo
ウィーザーの単独メモリアル・ショウ、一昨日の「BEST OF & BLUE ALBUM」に引き続きこの日はいよいよ「BEST OF & PINKERTON ALBUM」である。まずは結論から書いてしまうけれども、『BLUE ALBUM』の再現ライブと『PINKERTON』の再現ライブ、その意味は全くの別物だったと言っていい。ウィーザーのパフォーマンスも、リヴァースのモードも、そして会場の空気それ自体も、それぞれに『BLUE ALBUM』らしさと『PINKERTON』らしさを持っていて、「名盤」とひとくくりに言ってもこの2枚が名盤たる所以は明らかに異なるのだということを、改めて確認させられた二夜連続公演だったのだ。

ショウの構成自体は『BLUE ALBUM』の一昨日とほぼ同じで、前半約45分が「BEST OF」のセクション、インターミッションの約15分が古参スタッフのカールさんによるスライド・ショーで、後半のこれまた約45分が『PINKERTON』の再現ライブに充てられる、という流れだ。

前半の「BEST OF」は冒頭の“Memories”の段階で早くもOiコールが巻き起こるという瞬間着火型のライブになった。“Pork And Beans”では「はい、ブライアンさんです!」とリヴァースがブライアンにマイクを向けてコーラスを歌わせ、同じようにスコットにも歌わせるなど楽しい仕掛けも満載で、「次は昔のシングルのB面曲です。難しいです。頑張ってね」とオーディエンスを励ましておきながら自分達がイントロでトチるという捨て身のジョークをかました“Don’t Let Go”でも大きな笑いと歓声が起こる。

そう、この日の「BEST OF」の印象を一言で表すならばそれは「サービス」ってことになるんじゃないかと思った。パワー・ポップ風味、メタル風味、ギーク風味、そしてグランジ風味と、ウィーザーのいくつものキャラクターを的確に表現したナンバーがバランスよく並び、どの時代にウィーザーのファンになった人でも分け隔てなく楽しめるセットリスト。そしてそんなサービスの究極形だったのが“Paranoid Android”のカバーだ。ウィーザーがこの曲を今カバーすることのバンド的意義なんて多分ひとかけらも無いし、でも蓋を開けて見れば目茶苦茶本気の完コピだし、しかもリヴァースとトム・ヨークの声は高音部分がなんとなく似ていてはっとさせられるし、でもリード・ギターを嬉しそうに弾いてるのはサポートのジョシュだし……と、意味的にも内容的にも本当にシュールなカバーだったのだが、これこそスペシャルな一夜に集ったオーディエンスに対するサービス以外のなにものでもないだろう。

逆に考えれば、これは続く『PINKERTON』の再現ライブがけっしてバランスの良いものにはならないこと、『PINKERTON』が未だにオーディエンスに対するサービスとはかけ離れた彼ら自身の歪の物語であり続けていることの証拠でもなかっただろうか。だからこそ彼らは代わりに前半の「BEST OF」を、こんなにもフレンドリーでオープンな内容に仕上げてきたのではないか。

ファンの寄せ書きで埋まった日の丸をドラムセットに掲げたこの日のステージのあり様や、“Across The Sea”の歌詞に纏わるエピソード、そして『PINKERTON』というタイトル自体が持つ意味を改めて問うまでも無く、この『PINKERTON』は日本と日本のファンにとっては特別で特殊なウィーザーのアルバムだ。また、『PINKERTON』はウィーザー自身にとっても一筋縄ではいかない因縁のアルバムである。カールさんのスライド・コーナーでも「年間ワースト・アルバム」の2位に『PINKERTON』が選ばれた当時のローリング・ストーン誌の記事が紹介されていたが、このアルバムはリリース当初さんざん否定され、その後手のひらを返したように賞賛された作品だった。しかも否定された理由も賞賛された理由も共に「一理ある」という両義的な作品でもあり、『BLUE ALBUM』のように古典的名作として普遍化されるにはちょっと未だに生々しすぎる一枚でもある。

この日の『PINKERTON』の再現ライブは、そんな本作の因縁や生々しさや日本のファンの思い入れ、そしてリヴァース本人の愛憎入り混じった本作に対する想いがごっちゃになった、あまりにもエモーショナルな内容となった。“Tired Of Sex”の出だし、音が明らかに初日と比べて重い。ごりごりとハードで不格好なノイズが容赦なく突き刺さってくる。オーディエンスの熱狂、その切実さも、『BLUE ALBUM』の前夜とはずいぶん異なっていて、大歓声の中にしばしば「リヴァース!!」と悲鳴のような絶叫のような呼びかけが混ざっている。ステージ上の彼らとフロアの私達が、まるで「脛に傷を負った者同士」としてここに集っているかのような不思議な連帯感。

『BLUE ALBUM』の再現ライブについて、私は「主役はオーディエンスで、ウィーザーはその主役のオーディエンスのために演奏していた」といった趣旨のレポートを前回書いた。しかし、この夜は違った。『PINKERTON』の再現ライブの主役は明らかにウィーザー、いや、リヴァース・クオモだった。『PINKERTON』とはつまりリヴァース・クオモであり、その再現の場で生まれた切実すぎる熱狂は、「今でも私はあなたと“一緒”だ」とリヴァースに伝えたい、オーディエンスである私達の願いに他ならなかったのだ。かつて太平洋を亙った手紙とテープのように、不器用な者同士の間に生まれたあの奇跡の共感が、15年の年月を経て再び蘇ってくる。

ラスト・ナンバーの“Butterfly”をアコギの弾き語りでひとり終えたリヴァースは、ひとりでオーディエンスに別れの挨拶をし、ひとりでステージを降りていった。5人が肩を組んでフィナーレの挨拶をした前夜の『BLUE ALBUM』のラストの光景とはあまりにも対照的だった。でも、この光景こそが『PINKERTON』なのだと思った。

7月14日 ZEPP TOKYO
Memories
Susanne
Pork And Beans
Keep Fishin
I Just Threw Out The Love Of My Dreams
Don’t Let Go
You Gave Your Love To Me Softly
Hash Pipe
Paranoid Android
Buddy Holly

Tired Of Sex
Getchoo
No Other One
Why Bother?
Across The Sea
The Good Life
El Scorcho
Pink Triangle
Falling For You
Butterfly
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする