ウィーザー「BEST OF & BLUE ALBUM」 @ Zepp Tokyo

ウィーザー「BEST OF & BLUE ALBUM」 @ Zepp Tokyo
ウィーザー「BEST OF & BLUE ALBUM」 @ Zepp Tokyo
「BEST OF & BLUE ALBUM」と題されたウィーザーのスペシャル単独公演に行って来た。今日は今日で「BEST OF & PINKERTON ALBUM」が控えているが、このタイトルが示す通り今回のウィーザーの単独2公演は彼らの初期のアルバム2枚、ロック史に古典的傑作として輝く『BLUE ALBUM』と『PINKERTON』を完全再現するメモリアル・ライヴだ。今週末のNANO-MUGEN FESでは最新作にして最新クラシックである『ハーリー』によって更新された現在進行形のウィーザーの雄姿が見られるだろうから、今回の単独2公演とNANO-MUGENのウィーザーのステージは全くの別物になると言っていいだろう。

そんなレトロスペクティヴなショウは、「おはよーございます!ひさしぶりですねー!」なるリヴァースの日本語挨拶と共に幕を開けた(※最初に断わっておきますが、以降のリヴァースのMCは全て彼が日本語で喋った通りに記述しています)。1曲目は“Troublemaker”、ステージ上のリヴァースはポロシャツにチノパンにパーカー、そしてメガネ。このクソ暑い東京では明らかに着込み過ぎだが、バンドはのっけからフル・テンションである。オープニングの「探り」感が一切ない、今日これからここで起こることの全てを彼らが100%肯定して100%楽しもうとしていることが瞬時に分かる出だしだった。続く“Perfect Situation”は皆が大好きなメランコリック・ウィーザーで、早くもコーラスで大合唱が巻き起こる。

この日のステージは明確な2部構成になっていて、前半がいわゆる「BEST OF」のセクションだ。「今日はメモリー・ショウです。次は古い曲、いちきゅーきゅーごー(1995)?……の曲です。えーと、頑張ってください!」「次も、年上の歌(笑)?ちがう、古い曲です」等々、1曲毎にリヴァースの曲紹介を挟みつつ進むそれは文字通り新旧問わずのウィーザーのベスト・ヒット集で、「明日のライヴで!(もやります)」と律儀に告知しつつ“Pink Triangle”まで飛び出す大盤振る舞いは、『BLUE ALBUM』でひたすら合唱&号泣するべく集った満員のオーディエンスにとっても嬉しい驚きだったんじゃないだろうか。

ギターを置いてハンドマイクでシンガロングする“I Want You To”のリヴァースはまるで最近のエモ・バンドのボーカリストみたいにフレンドリーでコミュ力高め、スカライクなリズムに乗ってぴょこぴょこ踊りながらペットボトルの水を客席に撒き散らし、前半戦ラストの“The Greatest Man That Ever Lived”ではアンプによじ登って客席を煽る様がまるでポップ・スターみたいだった。ウィーザー組曲のごとき転調に次ぐ転調、チャントみたいな重層コーラスと見せどころ、聴かせどころ共に満載のこの「BEST OF」セクションの最後の2曲は、2011年のウィーザーのメンタル&フィジカル両面のコンディションの良さを饒舌に伝えるものだったと思う。そう、少なくとも『BLUE ALBUM』当時のウィーザーには考えられなかった、16年後のウィーザーの現在形を焼き付けて幕を閉じたのが「BEST OF」セクションだった。ここまででショウ・タイムは45分。

“The Greatest Man That Ever Lived”をプレイし終えた5人は一旦ステージを降りる。ここで始まったのが、1992年からウィーザーと仕事をしているという古参スタッフ、カールさんが懐かしの写真と共に思い出を振り返るスライド・コーナーだ。このコーナーが何気に秀逸で、バンドの思い出のガレージの風景、昔のフライヤー、1993年当時のセットリスト、最初に雑誌に乗ったレビュー(ちなみに酷評)、『BLUE ALBUM』のレコーディング風景、ブライアンが送ったオーディション・テープ、ボツになったアルバムのアートワーク、初代ツアー・バン、おどけるリック・オケイセックの写真、カールさんの描いたリヴァースの似顔絵……等々、ファン垂涎の写真が次々と映し出されていく。今日も『PINKERTON』版が用意されていると思うので行かれる方はぜひ楽しみにしていて欲しい。そんなカールさんのコーナーを挟むことによって、場内の空気はいよいよレトロスペクティヴに振りきれていく。そして15分後、SEは一切なし、無音の中で再びウィーザーがステージに登場する。

バックドロックに4人が写っていないバージョンの『BLUE ALBUM』のジャケットが掲げられる。つまり、ステージ上の4人(ジョシュはラスト・ナンバーまでお休み)がその「ブルー」の前に立って初めて『BLUE ALBUM』の絵が完成するという憎い演出だ。しかもリヴァースはメガネなし、『BLUE ALBUM』のジャケで着ていたのとそっくりなチノパンとTシャツにわざわざ着替えている。

こうして始まった後半戦は、前半の「BEST OF」とは全く意味もムードも異なるものになった。曲順はアルバムのトラックリスト通り、前半の饒舌な日本語MCが嘘のようにリヴァースもほとんど喋らず、シームレスに次から次へと演奏されていく珠玉のクラシック・ナンバー達。演奏もアウトロ部分でインプロ遊びを入れる以外はほぼオリジナルに忠実だ。前半戦の大胆に音を重ねて緩急つけていくプレイと比較すると恐ろしく対照的。お、ちょっとアドリブ入れたな、でもグダっちゃったな……と思いながら聴いていた“The World Has Turned And Left Me Here”では、「間違った、ごめんなさい」と謝って几帳面にギターをチューニングし直すリヴァースの姿があった。

「クラシック・アルバムの丸々再現ライブ」は、海外ではここ数年ちょっとしたブームになっているコンセプトだ。私はこの日のウィーザーのステージで初めてそのコンセプトを体験したのだが、それは事前に予想していたレトロスペクティヴ・ショウの斜め右を行くような体験だったと言っていい。まず何と言っても、コンサートにおける「主体」が普通のコンサートとは全く違うことに驚かされた。16年前のアルバムをその曲順に沿ってプレイしていくある種鉄板な予定調和、そこでの主役は明らかにオーディエンスである。むしろステージ上の彼らは私達オーディエンスの「あの日の風景」を再現する手助けをしてくれているに過ぎないんじゃないか、そんな風にすら感じたステージだったのだ。

感極まった合唱も、絶え間ない歓声も、ひっそりとひとり眼を閉じて浸る瞬間も、その全てが『BLUE ALBUM』を聴いていた16年前のひとりひとりのベッドルームに繋がっていく感覚。『BLUE ALBUM』を通じて同時代を共有してきた数千人のオーディエンスの数千通りのレトロスペクティヴがそこにはあった。

「また明日ね!日本のファンが大好きです、ほんとに。また明日」とリヴァース、そしてジョシュが戻ってきて5人で奏でるラスト・ナンバーはもちろん“Only In Dreams”。最後の最後で『BLUE ALBUM』の「縛り」を無視したフリー・スタイルの演奏が炸裂する。名残惜しさを増幅させながら延々と続くインプロがぐっとくる。それは再び彼らが2011年に舞い戻る儀式のようでもあったのだ。(粉川しの)


7月13日 ZEPP TOKYO
Troublemaker
Perfect Situation
Devortion
Longtime Sunshine
Island In The Sun
Photograph
Jamie
Pink Triangle
I Want You To
The Greatest Man That Ever Lived

My Name Is Jonas
No One Else
The World Has Turned And Left Me Here
Buddy Holly
Undone
Surf Wax America
Say It Ain’t So
In The Garage
Holiday
Only In Dreams
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