吉井和哉 @ 東京国際フォーラム ホールA

吉井和哉 @ 東京国際フォーラム ホールA
吉井和哉 @ 東京国際フォーラム ホールA - all pics by 有賀幹夫all pics by 有賀幹夫
こんなにも幸福感に溢れ、どこをとっても吉井和哉という無敵の素晴らしさに感動を覚えたツアーはソロ史上初めてかもしれない。最新アルバム『The Aplles』を携えてのライブツアー『Flowers & Powerlight Tour 2011』。3月11日の震災の影響でアルバム発売h日は延期され、ツアーの一部公演も中止となってしまったが、「ずっと日本を回ってきて、みんなの魂や愛を預かってきました。今日のみんなの魂や愛も預からせてもらおうと思います」と吉井が話していたように、彼の「届けたい」という強い想いは大きな塊となって爆発していた。

SEでジプシー・キングスの“MY WAY”が流れると、会場のどこからともなく手拍子が沸き起こり、吉井の登場を待ちわびながら場内はどんどん熱を帯びていく。そして、暗転とともにオープニングのインストナンバー“THE APPLES”が流れ、ツアータイトルがバックに現れた瞬間の大爆発を起こしたような異様なテンションからして、もう最強だ。真っ赤なジャケットに黒のパンツ姿の吉井はフライングVを固く握りしめ、ギラギラとした濃厚なロックナンバー“ACIDWOMAN”を力強く鳴らす。地の底から這い上がり一気に天井を突き破っていくような上昇気流を国際フォーラム全体に巻き起こし、オープニングから圧巻のグルーヴを生み出していった。“ACIDWOMAN”を歌い終わるとすかさずギターを下ろし、ハンドマイクでステージを縦横無尽に駆け抜けながら“VS”をダンサブルにプレイしていく。《元気出したいもっと出したい 常に今が最高のオールライト》と、どんな時も自らとの闘いの中で、最高のパフォーマンスを提示してきた吉井だが、今の彼は本当に眩しいほどの光を放っている。バーニーのギターリフで会場が狂喜乱舞したTHE
YELLOW MONKEY時代の“CHELSEA GIRL”。初っ端からステージを降りてオーディエンスに近づいていくという派手なサービス精神にも興奮させられてしまった。

「元気でしたか、東京のFLOWERのみなさん! もう、ここにはすでに神がいるね。俺たちと君たちの音楽の神がいるね」と吉井もこの熱狂ぶりに上機嫌の様子だ。濃密なブルースを描いていく“ロンサムジョージ”で吉井は黒のストールを妖しく弄りながら色気たっぷりにオーディエンスを挑発し、超意外な選曲ながらもこの流れで聴くと見事にはまっていたイエモン時代の“O.K.”では、匂い立つような生々しい魅力を解き放つ。しかし、吉井はいつでもその色気のみに収まることはない。その色気に彼が解き放つ「生」への情念が伴い、凄まじい力となって客席に降り注がれる。吉井が「魂という花の歌を2曲聴いてください」と言って奏でた“おじぎ草”は性と生が一体化した激しいエナジーに満ち満ちていたし、今回のツアーでの肝といってもいい、イエモン時代の“球根”は、「生と死」の紙一重の中で奏でられた当時の重々しい響きが、今日は鶴谷(Key)の鮮やかなピアノの旋律に彩られ、強烈な生命力となって私たちの心を揺さぶる。歌い終えた吉井が長い一礼をしていたのがとても印象的だった。《魂にさあ根を増やして咲け……花》という強い想いは祈りとなって、現在を生きる私たちに届けられたのだ。過去の楽曲にこれほどまでに心揺さぶられることに本当に驚いたし、“球根”という楽曲の威力に、そしてそれを超えた音楽そのものの力に圧倒された。後半でプレイされた“バラ色の日々”もそうだったが、とにかく過去の曲が過去のものとして響かない、今の吉井が歌うからこそ新たな意味を持って響いてくるのが本当に素晴らしい。過去があるから今がある、過去が今に繋がっているということを、吉井は身をもってリアルに伝えていた。
吉井和哉 @ 東京国際フォーラム ホールA
アルバム『VOLT』から受け継がれたような吉井流のプログレナンバー“クランベリー”の、楽曲がスピードアップし最高潮に達するあの瞬間のバンド感は言うまでもなく生き生きとしていたし、“シュレッダー”の濃密なバンド・アンサンブルには、5人編成となって全国を回ってきたバンドの結束力を感じずにはいられなかった。特に雄大に広がっていくシンプルで壮大な“GOODBYE LONELY”に宿ったポジティブな力は、今の吉井でなければ、そしてこのバンドでなければ出せない気迫のこもったパフォーマンスだったように思う。このツアーは本当にどこを切り取っても、過去の栄光だったり、苦しみだったり、決して平坦とは言えない波乱の音楽人生を脈々と繋いで、誰にもたどり着けない境地にたどり着いた今の吉井和哉が炸裂していた。
吉井和哉 @ 東京国際フォーラム ホールA
そして、あっという間にラストを迎える。吉井は「歌を通じて体の毒を消せるようなことをしていきたいと心に決めました。音楽にはきっと魔法の力があると思っています。いつまでもその魔法の力を信じ合って生きていきたいと思います」と語り、“LOVE & PEACE”を歌った。普遍的で大きな愛を万人に届けるような祈りの歌に私たちの心は浄化され、「今を生きている」ことの幸福感を体全体で受け止めた圧巻のクライマックスだった。

アンコールで鮮やかなブルーのシャツを纏って現れた吉井。「今日よかったね。個人的にはすげー良かった」と清々しい笑顔を見せてくれた。「東京ホールバージョン最終日なのでサービスです。ものすごく勇気のいる試みなんですけど。ダメだった頃の吉井和哉の歌を聴いてください」と言って、“MY FOOLISH HEART”を鶴谷のピアノのみをバックに歌い切った。あの頃は、内省的な己を露わにする楽曲として鳴っていたものが、今は溢れんばかりのポジティブモードで、力強い生命力を感じさせるものとして響いている。そのことが、感慨深かった。そして今ツアーでのお楽しみといってもよい“HIGH & LOW”では、バンドメンバーがコーラスを担当し、吉井が奏でるアコースティックギターとともに会場全体に大合唱が沸き起こる。なぜか、吉田佳史(Dr)が梅垣義明ばりにグリーン豆を鼻に詰めて客席に飛ばしまくるというはしゃぎっぷりを見せ、会場を爆笑の渦に誘いつつ、肩の力が抜けたような茶目っ気たっぷりの“CHAO CHAO”から英気に溢れた“WEEKENDER”と一気に駆け抜け、いよいよライブはラストを迎える。

「今回のアルバムの楽曲が自分が作ったときとは違うように届く曲もありますし、改めて音楽は自分が作っているのではなくて、何か別の力が作らせてくれてるのかなと思います。そして、僕らの先祖も辛いことをじっと我慢して命をつないでくれましたし、10年を7、8回繰り返せば人生はあっという間に終わりなので、なるべく楽しく。そして、辛い思いをすればするほどきれいな花が必ず咲くと僕は思っています」と語り、ラストを飾ったのは“FLOWER”。会場いっぱいに温かな笑顔の花が咲き誇り、圧倒的な生命力が個々の心の中に宿っていく。歌の途中で吉井は「自分を愛してね!」と叫んだ。《自分の血を愛せないと 人は愛せないとわかった それは悪いけどたぶん本当だ》という今の吉井和哉だからこそ歌える揺るぎない人生観は、かつての苦悩を超えて自らを大きく花開かせた。この“FLOWER”という楽曲がなければ、“球根”もこんなに大きな意味を持った曲にならなかっただろうし、そう考えると過去の紆余曲折を経て繋ぎ続けてきた吉井和哉の音楽はすべて一つに繋がって太い幹のようなものになったのだと思う。本当に迫真のラストだった。

今ツアーのファイナル公演は7月3日(日)、本来の予定でいけば4月8日(金)にこけら落とし公演をする予定だった場所である仙台RENSAにて行われる。そして、今回中止となってしまった公演も含め、12月には「~born-again~」というサブタイトルを付けたツアーが決定している。強烈な生命力を照らし出した吉井和哉のネクストステージをこの目でしっかりと見届けたい。(阿部英理子)

1.THE APPLES
2.ACIDWOMAN
3.VS
4.CHELSEA GIRL
5.ロンサムジョージ
6.イースター
7.O.K.
8.おじぎ草
9.球根
10.MUSIC
11.クランベリー
12.シュレッダー
13.ONE DAY
14.GOODBYE LONELY
15.バラ色の日々
16.ビルマニア
17.LOVE & PEACE

アンコール
1.MY FOOLISH HEART
2.HIGH & LOW
3.CHAO CHAO
4.WEEKENDER
5.FLOWER
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