FACT @ SHIBUYA-AX

FACT @ SHIBUYA-AX
3月にリリースされたニューEP+ライブDVD作『Eat Your Words』のタイトルをそのまま冠したFACTの東名阪ツアー、そのファイナルはSHIBUYA-AXだ。テクニカルな轟音アンサンブルと果てしなく展開してゆく複雑極まりない楽曲がズラリと揃っているのに、それに触れたものを一瞬で釘付けにし興奮と狂騒の中に巻き込んでゆくFACTの現在地を見届けることが出来るステージは、やはり開演前から胸が高鳴る。

今回のツアーに帯同するゲスト・アクトの5人組バンド、LOSTが、開演時刻ほぼきっかりに登場。ふんぞり返るようなヘヴィ・グルーヴでいきなり満場のオーディエンスをヘドバンさせている。同期シークェンスを塗り潰すように鳴らされるバンドの音塊と、その中からときに激しいスクリーミングで、ときに切り裂くようなハイトーン・ボイスでHIROKIのボーカルが抜け出てくる。ものの20分ほど、あっという間のパフォーマンスだったけれど、エモーショナルなメロディが地を這うように届けられた最終ナンバーをフィニッシュしフロアの盛り上がりぶりに感極まったかHIROKI、ステージ下に降りて前線のオーディエンスとハイ・タッチしながら去っていった。

LOSTががっちりと温めてくれた場内、ステージの転換中に2バスで組み上げられた要塞のようなEijiのドラム・セットが運び込まれるだけで、オーディエンスの間にどよめきが走る。そして19:40を回った頃、シンフォニックなオープニングSEが響き渡り、フロアが暗転して不気味な宗教画のようなバックドロップが視界に飛び込んできた。5月に行われたJAPAN JAMでの映像とのコラボレーションといい、FACTのビジュアル・イメージにまで配慮が行き届いた活動スタイルはおもしろい。

そして「シブヤ、準備は出来てんのかー! かかってこいよー!」というHiroの昂った叫びとともに、お馴染みのオープニング・ナンバー“pressure”から演奏がスタートだ。高速ブラスト・ビートと伸びやかなハーモニー・ワークが入れ替わり立ち替わりでオーディエンスに浴びせかけられる。さっそく『Eat Your Words』からのナンバーも立て続けに投下され、“last moment”ではオーディエンスのハンド・クラップを巻きながら、Hiroのハイトーン・ボイスとTakahiro&Kazukiによる金属的な響きのギター・フレーズが3匹の大蛇のようにもつれあい、のたうち回っていた。Kazukiがエフェクターをいじり倒してノイズを撒き散らしながらフィニッシュし、小爆発を繰り返すように鳴り響くEijiのドラム・プレイにTomohiro(B./Cho.)が身震いするような反応を見せて披露されるのは“paradox”だ。相変わらず、序盤から沸点が多過ぎてどこにあるんだか分からないぐらいの凄まじいパフォーマンスである。

“a fact of life”では、突然ステージ下手の袖からマイクを握った男が飛び込んでくる。ミシガン大学ウォルバリーンズの黄色いゲーム・ジャージを着てマイクのシールドを自らの右腕に巻き付けるこの男は……Pay money To my Painのボーカル=Kじゃないか! スウェイを煽り、スクリームし、沸騰したフロアが渦になってゆく。ここでHiro、「『FACT JAPAN TOUR 2011 - Eat Your Words -』へようこそ! 今日はやっちゃおうぜ、って言ってて、PTPのK、本当にありがとう! ファイナルに相応しい夜にしたいと思うんで、皆さん全力でかかってきてください! いいですか!?」とフロアの火に油を注ぐのだった。兄のTakahiroが続き、野太い声で周到にシンガロングの練習をみっちりと求めてから、“the shadow of envy”だ。ディープで入り組んだ楽曲なのに、易々と不特定多数の人々を招き入れてしまう。FACTの音楽は本当に間口が広い。

本編中盤は、彼らのキャリアすべてから多彩な表現スタイルが次々に繰り出される。Takahiroのスクリーム・ラップとエモく走るHiroの歌メロが交錯する“this is the end”、スペイシーなギター・サウンドとエフェクトが加えられたHiroがSFチックな世界観を描き出してゆく“600 22”、ノスタルジックなシンセの旋律からポスト・ハードコア風の眩いアンサンブルに展開してゆく“1-3”。Eijiのドラム・ソロはただ正確無比で力強いだけではなく、まるで彼一人でドラマチックなシンフォニーを奏でてしまうような素晴らしいものだ。Eijiはこう言っていた。「10年バンドやってきて、こんなにたくさんの人が集まってくれることを想像出来たか!? 俺は出来なかった! なにが言いてえかっていうと、メチャクチャ嬉しい! こんなに嬉しいこと人生に何度もねえから、みんなここに置いていってくれ! 向かってきてくれ!」と。

不穏な2本のギター・フレーズが強いインパクトを残す“fall”、メンバー全員がマイクに向かい、勇壮に、また誇らしげに歌われる“better days”、そしてアーシーかつドリーミーなバンド・サウンドが場内を満たしてゆく“lights of vein”へ。クライマックスの混沌とした狂騒ぶりがまた凄まじかった。EijiのドラムにTakahiroらもスティックを振るってけたたましいリズム・セッションに突入し、しばし姿を消していたHiroは……出た、キャラクターもののエアダッチを抱えて再登場、それをフロアに投げ込んでいる。本編ラストはクリスピーなボーカルが弾ける“slip of the lip”でシンガロングを巻き起こし、オーディエンスが跳ね回り、そのさらに頭上をエアダッチが飛び交って幕となるのだった。

アンコールの催促代わりに“purple eyes”のコーラスがフロアに響き渡り、再登場したメンバーは超絶スラッシーなインスト・チューンをスタート。そこにHiroが拡声器を持ち込んで“we do it in our way all the way”がプレイされオーディエンスは揉みくちゃだ。「まだまだー!」との声も飛ぶ中、Hiroは「バンド10年やってきて、一緒にやってきたLOSTとこのAXに立てて嬉しく思います。俺たちの音楽を聴いてくれた皆さんのおかげです。本当にありがとう」と率直な思いを語っていた。そして“rise”まで、アルバム『FACT』のキラー・チューン群をバンドは立て続けにプレイし、再度姿を見せたKはフロアにダイブ。演奏を終えたメンバーもまた思い思いにオーディエンスと触れ合っていた。ダブル・アンコールでは、アコギを抱えて一人で姿を現したHiroが、モニターに腰掛け、まるでエンド・ロールのように“45days”を切々と弾き語りして大きな拍手を浴びる。見事なステージであった。

HiroやEijiは、満場のオーディエンスと共に熱狂のライブを繰り広げながら、万感の思いを露にして語っていた。そこには確かに、これだけの人々に歓迎されるまでのキャリアを築き上げてきたという感慨もあったろう。でもはっきり言って、これぐらいではまだ済まされないはずだとも思う。FACTは、例えばかつてのハイ・スタンダードやブラフマンらがそうだったように、ある世代以降のロック耳を劇的に進化させてしまう力を持ったバンドだ。FACT単体の知名度や作品セールスだけには留まらない、5年10年先のロック・シーンに及ぼす影響を踏まえて見守ってゆくべきバンドなのである。さて、彼らは次にどんな驚くべきアクションを見せてくれるのだろう(小池宏和)

1:pressure
2:no hesitation
3:last moment
4:paradox
5:a fact of life
6:the shadow of envy
7:this is the end
8:error
9:600 22
10:1-3
11:deviation
12:snow
13:in the blink of an eye
14:fall
15:fog
16:better days
17:light of vein
18:attack me if you dare
19:backstabber
20:slip of the lip
EN1-1:co-3
EN1-2:we do it in our way all the way
EN1-3:Risk Of Disorder
EN1-4:stretch my arms
EN1-5:purple eyes
EN1-6:rise
EN2:45days
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