9mm Parabellum Bullet @ 横浜アリーナ

「伝説的」とか「金字塔」とか、そのアーティストのキャリアを代表するであろう素晴らしいライブに冠される形容詞はいくつもあるが、たった今終わったばかりの9mm Parabellum Bullet初の横浜アリーナ・ワンマン・ライブ『Movement YOKOHAMA』はそのどれもがこの日のアクトのスケールに当てはまらない気がしてならない。最高の晴れ舞台であり、9mm Parabellum Bulletというバンドの今のポテンシャルが余すところなく発揮された堂々のステージであると同時に、その才気がまだまだ打ち止まることなく無限増幅を繰り返していく過程での誇らしき「通過点」でもある……ということを、その圧巻の歌と演奏とで証明し尽くしていくようなこの日のライブは、間違いなく2011年日本のロックを代表する決定的瞬間だったし、ロックが/バンドが/音楽がまだまだ目映く壮大な風景を描き出すことができるという希望そのものだった。

 決して狭くはないステージ上をアンプとドラム機材が埋め尽くすようなセッティングを目の当たりにするだけで、ガッと体温が上がるような高揚感。そして、予定時刻をやや過ぎた18時18分、暗転した会場に響き渡るSE=アタリ・ティーンエイジ・ライオット“デジタル・ハードコア”に沸き上がる割れんばかりの大歓声! 「9mm Parabellum Bulletです、こんばんは!」という菅原卓郎のコール&ステージ両袖のヴィジョンに大写しになる卓郎の気迫みなぎる表情に、客席の熱気がさらに高まり……最新アルバム『Movement』のオープニングを飾る“荒地”のサイレンのような卓郎&滝善充のギター・サウンド&カオスの彼方めがけて疾走するビートが、そして《荒地に吹く風は 孤独の味がする》という緊迫感とロマンが渾然一体となった歌が、オーディエンスの歓喜が轟々と吹き荒れる熱狂空間を生み出していく! 『Movement』から続けて“Survive”、さらに爆裂ハードコア・ディスコ的ライブ・アンセム“Discommunication”で横アリ激震! “The Revolutionary”の滝のギターの重轟音が鼓膜のみならず全細胞を震わすように響き渡る頃には、横アリの巨大な空間はすっかり「9mmの場所」になっていた。

 「こんばんは、9mm Parabellum Bulletです! すげえな、なんかね! うん。俺は非常に興奮しているよ。今日は『Movement』っていうアルバムのリリース・パーティーだから、みんな盛り上がって帰ってください! Movementは移動ってことなんだけど、その意味は今日明らかになると思うんで。じゃあ、1stの曲にMovementしようぜ!」と意気揚々と語る卓郎のMCから、1stアルバム『Termination』の“Psychopolis”、大合唱を巻き起こした“Termination”、続いて2nd『VAMPIRE』の“Vampiregirl”と必殺曲を絡めたところに、『Movement』の“銀世界”のコード・ストロークが粉雪のように降り注ぎ……と、初期から「今」までの自らのヒストリーを瞬間移動するような有機的なセットリストも最高だが、何より改めて気づかされるのは、『Movement』というアルバムが、9mm Parabellum Bulletが鳴らすロックの核心&王道に他ならない、ということだ。

 ヘヴィ・メタルとかハードコアとかパンクといったジャンルの融合点からロックのマジックを導き出すような次元は9mmはとっくの昔に超えているが、かみじょうちひろのツーバス・ドラム/滝のライトハンド奏法/卓郎&滝のツイン・リード/中村和彦のスクリームといった、21世紀の日本ロック・シーン屈指の飛び道具の極致のような音楽的パーツが、もはや血肉化されまくった「前提」となり、そこを「出発点」として「9mmにしか描けない強靭で壮大なロック」を生み出し鍛え上げ、それがまた9mmの次なる音の地平となっていく……というサイクルそのもののようなこの日のアンサンブルには、やはり驚愕するしかない。かく言う自分も9mmのデビュー前から、その壮絶なアンサンブルのダイナミズムを表現すべく、重戦車だの核弾頭だのという物騒なワードを総動員してきたが、そんなものが遥か遠くに霞んで見えるくらい、今この瞬間の9mmの音の軌道は目映くて、果てしなく伸びやかだ。「みんなだんだんアリーナに慣れてきたな! 今日は雨が降りそうだけど降らなかったみたいで……降ったのかな? まあ、俺には降ってないから大丈夫だよ!(笑)」という卓郎のMCも、至って満足げだ。

 「だんだん夜が更けてきて、おかしくなってきたような気がしないか? 次は、みんなが『Movement』を聴いていちばん気になっているあの曲をやるよ!」と“Face To Faceless”のメロディアスな混沌で会場を包み、赤黒く染まったインダストリアル・ヘヴィ・ロックの如き“Muddy Mouth”、轟音センチメンタル・ワルツ“星に願いを”と『Movement』の楽曲を畳み掛け、「みんな、遠いところからありがとう! 遠いところから来てくれたみんなにお願いがあるんだけど。俺たちが骨だけになっても愛してくれないか!」と“Bone To Love You”でレーザー光線飛び交う戦慄の風景を描き出し……と、曲と言葉で濃密なコミュニケーションを交わしながら、横アリ全体をロックの共犯者へと変えていく。“Finder”の後のかみじょうのドラム・ソロ→滝とのツイン・ドラム→4人パーカッション大会によるサンバのビート炸裂!という流れから“Black Market Blues”で会場丸ごと踊り回らせたところで……4人はいったん退場。

 再び戻ってきた4人は、まさかのアンプラグド・コーナー(卓郎いわく「tvkアンプラグド」)に突入。戸惑い気味のオーディエンスもしかし、9mmのスリリングなアンサンブルを見事にアコースティック・アレンジで再現した“Sleepwalk”一発で納得。さらに“Living Dying Mesage”のスペイン民謡風(!)バージョンで客席を思いっきり沸かせていく。「9mmって絶対アコギでライブとかできないと思ってたでしょ? めちゃめちゃ爪弾いてるんですよ!(笑)」と卓郎。耳をつんざく轟音によってではなく、その楽曲とメロディと演奏によって成立している9mmの真髄が、武装解除した音像によって展開される“The World”の豊潤なアンサンブルによってみるみる浮き彫りになっていくのがわかる。

 「明日は何曜日だ?」と“Monday”、そして鮮烈なツイン・リード・ギターから“Endless Game”、と再び『Movement』曲を連射しつつ、もう1曲ツイン・ギター始まりのロックンロール・ナンバー=“キャンドルの灯を”(前作『Revolutionary』収録)を挟んで、滝の泣きのフィードバック・サウンドから凍てついた極北の風景を鳴らす『Movement』最終曲“カモメ”を披露。「ありがとう! そろそろこの『Movement YOKOHAMA』も終わりに近づいております」と卓郎。「今までいろんなところへ移動してきたけど、まだみんなのことを連れて行きたい場所があるんだよ! みんな一緒にそこへ行きたいと思えるかい? そのためにみんな脱ぎ捨てていいと思うかい! 行けるか? 行けるかああああっ!」と喉も裂けよとばかりの卓郎の絶叫、そして真っ白な閃光のような“新しい光”の轟音からいよいよラスト・スパート! 軽やかにスティックを回しながら人間工学の限界に挑むようなかみじょうのドラミング。重低音とスクリームの底から狂気を引きずり出す和彦。今ここでギターを弾ける喜びと高揚感のあまりもんどり打って転がり回りギターを回しながら超絶フレーズを弾き倒す滝。朗らかさと表裏一体の鋭利な妖気を歌とギター・プレイでほとばしらせる卓郎……そんな姿のすべてが、僕らが知っている9mmそのものでありながら、同時に紛れもない「今」のロック最前線の名場面だったし、“Talking Machine”の4つ打ちビートも“Punishment”のスラッシュ・ビートも、もはや僕らを明日のその先へと突き動かす鼓動そのもののような力強さを持って響いていた。「最後の曲です! みんなありがとう!」という卓郎の声とともに叩きつけたラスト・ナンバーは、インディー1stミニアルバム『Gjallarhorn』から“(teenage)Disaster”! 途方もなく巨大なスケールへと結晶した9mmの「原点」が、そのまま「これから」への序曲として晴れやかに響き渡っていた。曲が終わった後、まだまだエネルギーが止まらない様子で上手袖の花道へ駆け上がって、置いてあったパイロンをぶん投げる滝。上手/下手の花道へ歩いて万感の笑顔で挨拶し、「また会おうぜ! バイバイ!」と高らかに告げる卓郎…………脳裏が痺れるような高揚感を残して、20時35分、すべてが終わった。7月からは『Movement Moment Tour 2011』で9月までぎっちり全国を回る9mm。横浜アリーナ公演が終わったばかりなのに、ツアーでさらに強靭に鍛え上がるに違いない『Movement』の世界を、今か今かと期待に震えながら待っている――というのは、自分だけではないはずだ。(高橋智樹)


[SET LIST]
01.荒地
02.Survive
03.Discommunication
04.The Revolutionary
05.Psychopolis
06.Termination
07.Vampiregirl
08.銀世界
09.Face To Faceless
10.Muddy Mouth
11.星に願いを
12.Bone To Love You
13.Finder
14.Black Market Blues
15.Sleepwalk
16.Living Dying Message
17.The World
18.Monday
19.Endless Game
20.キャンドルの灯を
21.カモメ
22.新しい光
23.Scenes
24.Talking Machine
25.Punishment
26.(teenage)Disaster
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