RHYMESTER @ Zepp Tokyo

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『マニフェスト』から僅か1年で連作テイストの、ただしテーマはジャパニーズ・ヒップ・ホップの歩んできた経験とプライドをエモーショナルに語る作風から、今後ヒップ・ホップが語るべき生活と日常へと焦点をシフトしたアルバム『POP LIFE』を携えた全国ツアー『KING OF STAGE VOL.9~POP LIFE RELEASE TOUR 2011』。今回レポートする東京公演によって一応のツアー・ファイナルを迎えるが、6/7には川崎CLUB CITTA’での追加公演も予定されているので、そちらに参加予定の方は以下ネタバレにご注意下さい。追加公演終了後に読んで頂けると、とても嬉しいです。

「おれ歌ってるのに、なんか誰もこっち見てねえ……安室ちゃんとか、マボロシで林檎ちゃんと共演したとき以来だな。こう、線(オーディエンスの視線)が見えるんだよね。ストライプの」と愚痴を零すMummy-D。『POP LIFE』のオープニングそのままに、“Just Do It!”からは“付和Ride On”へと繋いでいきなり超アッパー・モードを叩き付けるという序盤を経ての一幕である。でも今回は、豪華ゲストがオーディエンスたちの視線を奪っているわけではない。ステージ・セットの演出が凄くて、思わず見入ってしまうのだ。巨大なレゴや積み木ブロックで組み上げられたような、一軒の家と左右にひとつずつのゲート状のセット。その立体物全体が、ときに模様を、ときにアニメーションを映し出すプロジェクターになっている。映像の方も立体の構造を活かした視覚効果をもたらしていて、実に斬新かつポップなテクノロジーが採用されていたのだった。宇多丸の説明によると、3Dプロジェクション・マッピングというらしい。「あと意外と、消費電力も少ないです。これから音楽業界のライブとかでも流行ると思うけど、あいつらみんなフォロワーだから」とのこと。

序盤に思い切り飛ばす、という形は最近のライムスのライブではひとつのパターンになっていて、「もうやだ」「こんな調子で2時間50分も保たないでしょ。ちゃんとダレ場もありますからねー」と告げていたのだが、DJ JINがテクニカルなカットを挟み込んで決めまくる“ライムスターイズインザハウス”からは“ランナーズ・ハイ”、そしてDさんと宇多さんがそれぞれに用意された布団をバンバンと叩いてパーカッション(?)を加えるさまが可笑しい“ザ・ネイバーズ”へ……あれ? あんなこと言いながら、ペース抑えてないな、これは。

そして前半戦のハイライトは、幼児虐待をテーマにした“Hands”。楽曲に寄り添うアニメーションも映し出されて切実さを増幅させる。「こんなご時世になってもね、幼児虐待は無くなってないんですよ。俺たちみんな大人なんすから! みんなが社会に対して責任あるんじゃないすか!? 原発問題もあって、これから20年30年の戦いになるわけですから、自粛とかじゃなく楽しむことも含めて、生きることをあきらめないっていうメッセージでした!」と宇多さん。「ただ……この掌をどうにかしたい」と“Hands”のフックで一面にかざされていた手を指し、「この感動的な場面でやめておけば、おれたちもっと早く売れていたんだけど、この掌をどうにかしたい」と、たぶんサングラスの向こうではワルい顔をしている。オーディエンスがかざしていた手の指を順に折り、最後に拳の人差し指と中指の間に親指を突っ込んで、“肉体関係”をキックするのであった。うむ。この台無し感を明らかに喜んでいるファンもワルい。一軒家だった建物のセットが、瞬時にピンクのラブホに変わっている。「言えよ放置プレーイ! I like It!」のコール&レスポンスによるエンディングは、メンバー全員がステージからいなくなるという過剰な放置っぷりにエスカレートしていた。更に“ほとんどビョーキ”ではラブホが病院へと変貌し、松葉杖をついていたり点滴をぶらさげたりして登場する弱り切ったパフォーマーが、最後には元気にロボット・ダンス風のブレイキングを見せて第1部が終了する。詰め込みまくりである。

セット上で、建物にグラフィティというよりも落書きをする子供たちのアニメーションが映し出された後の第2部は、メロウでじわじわと効いてくる“POP LIFE”と“ちょうどいい”でスタートだ。「ミステリーコーナー」では、前回ツアー時に「ヤラセじゃねえか」という噂も飛び交ったリクエスト集計ロボット=しゅうけいくんが可視化のバージョン・アップを果たし、しゅうけいくんZとして登場。背中にハード・ディスクという名のルーレット状の円盤を搭載している。円盤には『リスペクト』『ウワサの真相』『グレイゾーン』『HEAT ISLAND』の4作のアルバム・タイトルが並べられていて、ダーツ状の通信機器(もう、面倒くさいな)によって選ばれた1作の収録曲をメドレーで披露する、という趣向だ。ヤラセ冤罪回避のため、念には念を入れてダーツを投げるゲストも呼び込まれる。登場したのは、レコーディング現場を抜け出してきたというスガシカオ!「これだけのために呼ばれたの!? てかさあ、電話きたの昨日の夜だよ?」と漏らしながらも、彼の放ったダーツは『リスペクト』にヒット。グッジョブ! そしてライムスの3人は、綿密に段取りの確認を済ませ、メドレーに挑むのであった。

「さっきのコーナーが『リスペクト』に当たったのはたまたまだけど、次は12年ぶりに“敗者復活戦”をやります。12年前にこんなことを歌ってた奴らが、今でもこの曲を歌うんだと思って、聴いて欲しい。それ以外の聴き方は、認めない。それが一番ジーンと来るから! そんでその後に、“Born To Lose”をやります。2曲続けて、お聴き下さい」とDさん。口うるさいラーメン屋のオヤジみたいだけど、ラップというのはそもそも「ここまで言わなきゃ分かんねえか」というパフォーマンスなのだ。“Hands”のときの宇多さんの語りもそうで、キャリアを積み重ねてきたライムスが、大人になった等身大の目線でシリアスに現実と向き合ったナンバーと、普遍的に響く過去のナンバーを並べている。ここにはいわゆる「懐メロ」はない。だから本気で胸が熱くなる。

そして「言いたいことがあるから、替えたリリックをキックさせてくれ!」と、3.11後の社会に向けた新しいメッセージを最初のヴァースと差し替えて、アカペラでDさんが“Walk This Way”をスタートさせる。そして鳴り出したトラックの方も、エモーションに直で訴えかけるもの凄い響きだ。熱い。「ここで終わればもっと早く売れてたんだけどねえ。『POP LIFE』でまだやってない曲あったっけ? え? バカヤロウって! ただの罵声ですよね。宇多丸バカヤロウって! 分かったよ、じゃあみんな言いたいこと言ってみろ!」期せずしてハゲ・コールが巻き起こり、煽るだけ煽られた宇多さんが逆襲の“余計なお世話だバカヤロウ”を放つ。Dさんはフックを歌いながら自らの尻をペンペンしていた。笑いと怒りをぶちまけるようにして、幕を閉じた本編であった。

「こっから先はダレ場ないっすからね!」とスタートしたアンコールは、無論これが無ければ終われない、“ONCE AGAIN”からのキラー・チューン連打メドレーだ。“K.U.F.U.”のDさんヴァースは昂ったライミングが鋭い。お馴染みTOKYO B-BOYSのブレイキングに2MCが連携するステップを見せる場面でも場内が沸いた。そしてここでDJ JINが語り出す。「先日、2人目の子供が生まれました。タ○キンがビローンと伸びる男の子です。嫁が里帰り出産するってことで、仙台の実家に帰った2日後に、震災に遭いました。その後無事に出産出来たんですが、そういうわけで軽く被災者になって、現地でいろいろ話をして出てきたことは、やっぱり元気を出せる人はどんどん楽しんでいくことが被災地の後押しにもなるってことでした」。温かい拍手が巻き起こり、そして『マニフェスト』~『POP LIFE』期を総括するかのような“ラストヴァース”が披露されるのであった。

ここで大団円かと思いきや宇多さん、“ラストヴァース”のリリックの最後のセンテンスを引用しながら「《創り出すとしよう 次のラストヴァース 4U》ってことで……創ったっちゃあ創ったんだよね……で、出来るっちゃあ出来るんだよね……。RHYMESTER、早くも夏に新作リリースします! そのリード曲です!」と大発表。これは驚いた。『POP LIFE』までのスパンが短かっただけに、さすがにこの後は一段落だろうと思い込んでいた部分もある。6日正午には公式HPでも発表されているので詳しくはそちらをチェックして貰いたいのだが、5曲の新曲とリミックス、インストからなるミニ・アルバム『フラッシュバック、夏。』リリース決定である。

そのタイトル・チューンが披露された。仙台の星=GAGLEのMITSU THE BEATSプロデュースによるサマー・ブリーズ・チューンで、MITSU得意のジャジー・グルーヴをトロピカルに仕立て上げたトラックである。はっきり言って、これをやるのは難しい。3.11以後初めての夏をどう迎えるか、その高度なモデルとなる、敢えて危険地帯を鮮やかに抜いてみせるスルーパスのような1曲である。下手に空気を読んでしんみりするわけなどないが、空気を無視した馬鹿騒ぎチューンでもない。絶妙に《ちょうどいい》あるいは《万物の長 人間ナメんな!》的な成果が届けられることになる。宇多さんが言っていた「楽しむことも含めて、生きることをあきらめない」という決意を形にすると、つまりこうなるのだろう。この苦境の中で、明らかにライムスは加速しているのだ。改めて、そんな姿勢にこそ胸震える3時間のステージであった。(小池宏和)


セット・リスト

第1部
1:After The Last
2:そしてまた歌い出す
3:Just Do It!
4:付和Ride On
5:ライムスターイズインザハウス
6:ランナーズ・ハイ
7:ザ・ネイバーズ
8:Hands
9:肉体関係
10:ほとんどビョーキ

第2部
11:POP LIFE
12:ちょうどいい
13:『リスペクト』メドレー
 キング・オブ・ステージ~ブラザーズ~リスペクト
 ~耳ヲ貸スベキ~Hey,DJ JIN
14:敗者復活戦
15:Born To Lose
16:Walk This Way
17:余計なお世話だバカヤロウ

アンコール
1:ONCE AGAIN
2:B-BOYメドレー
B-BOYイズム~ザ・グレート・アマチュアリズム~K.U.F.U.
3:ラストヴァース
4:フラッシュバック、夏。
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