マルーン5 @ 日本武道館

丸3年ぶり、4度目のジャパン・ツアー。東京公演は前回に引き続き日本武道館なのだが、前日にパシフィコ横浜での公演が行われているにもかかわらずほぼ満員という大盛況ぶりであった。アリーナもスタンドもみっちりと座席が確保されていたので、もしかすると次の機会はもう武道館では収まらないかも知れない。17日には武道館での追加公演も行われる。以下、本レポートはセット・リストを含めネタバレ要素が多いものになるので、とりわけ追加公演に参加予定の方は閲覧にご注意を。公演終了後に読んで頂けると、嬉しいです。

暗転した場内に黄色い嬌声が上がり、断続的に点灯するバック・ライトを浴びながらドラマーのマットが4つ打ちのキックを放ってオーディエンスはハンド・クラップで応じる。他のメンバーも順に登場し、ジェイムスのギターがシンプルかつファンキーなカッティングを乗せるだけで盛り上がりに拍車が掛かってしまうのであった。ベーシストのミッキー、キーボード奏者のジェシーの他、サポートのキーボード奏者も1名加わった編成。いよいよアダムの登場という段に至っては、ほとんどトップ・アイドルのそれというオーディエンスの沸騰ぶりである。スタンドからマイクを掴み取って、甘いソウル・ボーカルで“ミザリー”を歌い出す。ステージのセットはシンプル極まりない。驚くようなことは何もないはずなのに、その立ち振る舞いだけで武道館一杯のオーディエンスを掌握してしまうさまは、さすが21世紀最大級のポップ・アクトといったところか。

続けて“イフ・アイ・ネヴァー・シー・ユア・フェイス・アゲイン”、“ハーダー・トゥ・ブリーズ”と歴代のアルバムのオープニング・ナンバーを並べてゆく。ベッタベタだが、この盛り上がりからは逃れようがないに決まっている。そして、ライブにおいてのマルーン5は自らのロック性を全開にしてゆくのだ。少しハスキー気味の堂に入ったソウルフルな発声を用いるアダムもギターを手に取り、荒ぶるようなリード・ギターを披露。負けじとジェイムスもハードなフレーズを弾き倒して応酬する。ロック・バンドが武道館で大歓声を浴びるという、一歩間違えば時代錯誤なこの構図が、マルーン5には本当に良く似合うし、観ていて嬉しくなってくる。フィジカルに訴えかけるがマッチョじゃない、見事なバランス感覚で21世紀のロックを成立させている。「ハウ・ユー・ドゥーイン、コンバンハー! ブドウカーン!」とアダム。高らかなブドウカン・コールが様になる、そういうステージを作り上げているのだ。

R&Bやヒップ・ホップに自然に耳馴染んだ世代のための、16ビートがデフォルトになったダンサブルでソウルフルなロック。マルーン5の音楽スタイルは大雑把に言ってしまえばそういうことになる。マルーン5は、グッド・メロディの一点突破で、白人的なロックの立場からアフリカ系アメリカ人音楽との間にある垣根を乗り越え、全盛期のマイケル・ジャクソンが体現していたR&Bと白人的ロック解釈との失われたポップの蜜月を、取り戻してくれた。これをやってのけたのは『ディスカバリー』期のダフト・パンクと、マルーン5だけだ。

“ウォント・ゴー・ホーム・ウィズアウト・ユー”の歌い出しを目一杯じらしてメロディへの渇望を浮き彫りにする、という心憎い演出や、16ビートのダンス性でしっかりオーディエンスをつかまえた後に届けられるミドル・エイトの跳躍力のあるメロディ“ネヴァー・ゴナ・リーヴ・ディス・ベッド”など、マルーン5の決め手はやはりロック的ソング・ライティングのメロディにある。ジェイムスがアコギを奏でるバラード“シークレット”や、「スペシャル・ソングだ。この会場にいるすべての女性に捧げるよ」と遂にはリズム隊抜きで披露されてしまった“シー・ウィル・ビー・ラヴド”の中盤戦は、もうどうにでもしてくれ、というほど見事なステージ展開だった。

そして再びダイナミックなロック・アンサンブルを轟かせる“ウェイク・アップ・コール”からの後半戦。大振りな必殺リフがコール・アンド・レスポンスを巻く“スタッター”。武道館の洋楽ライブでこんな満場のシンガロングとスウェイを目の当たりにしたのはいつ以来だろう、という“ディス・ラヴ”。マルーン5は、2011年のロック/R&Bを刷新するような斬新な演奏をしているわけではないし、飛び抜けて高い演奏技術を持っているわけでもない。確かにアダムはフロントマンとしての華と歌唱力を持ち合わせているが、思い切りの良いリフ押しのパフォーマンスなどはロックのハッタリ的要素の最たるものだ。R&B/ヒップ・ホップの同時代的なグルーヴとロックのハッタリ、そこにグッド・メロディという唯一の武器を加えるだけで、マルーン5のライブには魔法がかかってしまう。「次が最後の曲だよ。日本語で何と言ったら良いのか、ほんとにこれっぽっちも分からないんだけど……あー……アイシテマス!」とアダム。まるでエンド・ロールのように見えた“スウィーテスト・グッドバイ”の終盤、ジェイムスは無邪気なギター小僧のように弾きまくっていた。ロックすることが、今でも楽しくて仕方がないというふうに。

すぐ昔の話をしたくなるのはオッサンの悪い癖だけれど、マルーン5に触れるとやはり思う。彼らはかつて冴えないパワー・ポップ・バンドで、冴えない男の冴えない恋愛事情を歌っていた。思いを届けるべく、届けたい人のことを思い、彼らは変わった。恋愛事情に嘆く歌は変わらないが、彼らの歌は多くの人に届くものになった。アンコールでジェシーが“サンデイ・モーニング”の最初のコードを鳴らしてまたもや黄色い歓声を浴びたとき、カーラズ・フラワーズを聴いていた自分に「こいつら、そのうち武道館で大勢の女の子にキャーキャー言われるようになるんだぜ」と教えてやりたくなった(多分、信じないけど)。武道館でキャーキャー言われるロック・バンドの何が悪い。ビートルズも、チープ・トリックもクイーンも、そうだったんだ。(小池宏和)

セット・リスト
1:Misery
2:If I Never See Your Face Again
3:Harder to Breathe
4:Give A Little More
5:The Sun
6:Won't Go Home WIthout You
7:Never Gonna Leave This Bed
8:Secret
9:She Will Be Loved
10:Wake Up Call
11:Shiver/Jam
12:Stutter
13:This Love
14:Sweetest Goodbye
EN-1:Makes Me Wonder
EN-2:Sunday Morning
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