GOING UNDER GROUND @ 日比谷野外音楽堂

GOING UNDER GROUND @ 日比谷野外音楽堂
GOING UNDER GROUND @ 日比谷野外音楽堂
「こんな日をずっと待ってたんだぜー!」
本編ラスト“ハートビート”のイントロで、松本素生はこう叫んだ。彼がMCでおセンチな言葉を口にするのは今にはじまったことじゃないけれど、この言葉ほどリアルで、切実で、そして胸にじーんと沁みる言葉はなかったんじゃないかと思う。それぐらい、この日のゴーイングは最高に感極まっていて、希望に満ちあふれていて、そして何よりかっこよかった。GOING UNDER GROUNDのメジャー・デビュー10周年記念ツアー『Rollin’ Rollin’』の千秋楽となる日比谷野音公演。2年前にバンドを脱退したキーボード伊藤洋一のラスト・ライブとなったこの地で、彼らは本当の意味での「ゴーイング第二章の幕開け」を華々しく飾った。

17:30。オンタイムでSEが流れると、両手を高々と上げたナカザ(G)を先頭に河野丈洋(Dr)、石原聡(B)、サポートキーボードのHARCOが登場する。異常なハイテンションでステージを右へ左へと駆け回るナカザ。松本素生が登場したところでナカザが「待たせたぜ! 2年ぶりにここに帰ってきたぜー!」と叫ぶと、1曲目“Heavenly”へと突入する。雲ひとつない水色の空の下で、松本素生の澄んだ歌声が放たれる。そしていきなりのキラー・チューン“トワイライト”へ。河野と石原のぶっといビートに支えられて、ギターとピアノがキラキラのフレーズを奏でる甘酸っぱいサウンドスケープが広がっていく。“虹ヶ丘”ではステージ上を鳥が飛び交い、野外ステージならではのオーガニックなムードに彩りを添えていく。「日比谷に集ってくれたみんな、こんばんは! 空を見上げてごらん。何も水分は降ってこないぜぇ」という、ここに来てすっかり名物となってしまったナカザの失笑MCも絶好調のようだ。

「みんな『稲川くん』は聴いてくれたかな? このアルバムが出て、俺はあと10年はバンドやるって決めたから。10年後にまたここでライブやったときに自慢できるライブに今日はするから」と、先月リリースされたばかりのアルバム『稲川くん』について語る素生。伊藤洋一の脱退後、レーベル移籍、素生と河野のソロ活動など、さまざまな試行錯誤を繰り返しながらバンドの絆を強固にしてきた彼らの思いが伝わってきて、この時点で早くも涙腺が緩みそうになる。そして最新アルバムからの楽曲“所帯持ちのロードムービー”へ。ゴーイングらしいファンタジックなメロディはそのままに、よりサウンドの重みや生温かさが増しているのは彼らの葛藤の証と言えるだろう。一方“詩人にラブソングを”や“ジョニーさん”では童謡のようにピュアで軽快な音が耳に楽しく響いてきて、ゴーイングのポップ職人としての表現力の多彩さに改めて舌を巻いてしまった。

焦燥感たっぷりのロック・チューン“ダイアリー”を叩きつけた後は、“ベッドタウンズチャイム”から“夜の宝石”までミドル・チューンの連続。この頃にはすっかり陽も沈んでいて、客席を見わたせばやさしくディープなメロディにじっくりと聴き入るオーディエンスの姿が目立ちはじめる。で、個人的にはこのセクションが最高だった。ナカザと河野による重層的なハーモニーが豊潤に広がった“TENDER”。淡々としたビートの上でクリスタルのような音の粒が全放射された“ビターズ”。とろんとした夜空に覆われた会場のひそやかなムードに絶妙にマッチしていた“夜の宝石”。どれも繊細でありながら、ひとつひとつの音が極限まで磨き上げられていて、自然と感性が刺激されるようなセクションだった。

その後は「ボーイズライフ!」のコール&レスポンスを皮切りに、爆裂ポップ・チューンを次々と投下! 大胆なピアノ・アレンジが炸裂した“LISTEN TO THE STEREO!!”の華々しさ、前へ前へと疾走する“RAW LIFE”の爽快感、「いくぜー!」という素生のシャウトで客席中のタオルが回った“Holiday”の狂騒感、そして冒頭の素生の言葉に続いて、この日いちばんの大シンガロングが沸き起こった“ハートビート”の多幸感……。さまざまな感情が次々と押し寄せてきて、息が詰まりそうになる。青くて、瑞々しくて、少年性あふれるゴーイングのサウンドは、下手したら嘘くさくて薄っぺらいものになっても不思議ではないものだ。しかしそんなリスクを解してもなお、このスタンスを10年にわたって貫きつづける彼らのサウンドには、若いバンドでは到底及ばない説得力がある。さまざまな紆余曲折を経て、バンド存続の危機に直面しながらも再び立ち上がったことで、その説得力はグッと強まった。10代の少年性をうたった多くのバンドが解散や活動停止に追い込まれる中、ゴーイングがこうしてバンドを続けていることは本当に価値のあることだし、何よりも美しいと思った。山あり谷ありの10年を経て、このバンドはますます輝きを増していくだろう。

アンコールでは「いま曲ができまくってるんだ」という素生のうれしい言葉に続いて未発表曲“Shining”を披露。ミドル・テンポの爽やかなメロディの上で、ロックンロールへの愛を込めたような伸びやかな歌声がゆったりと広がっていく。さらに素生のMCは続く。「2年前はクソみたいな気持ちでこのステージに立ったなあ。でも年月って流れるんだね。で、今日も洋一が『ライブ観にくる』って言ってくれて。単純にうれしかったね。だから今日は1曲だけセッションしたいと思います!」として、なんと伊藤洋一がステージに登場! 客席大歓声! そして洋一のシンセを合図に“グラフティー”へ。空へ向かって高々と突き上げられた洋一の拳がまぶしい。最後は素生とガッチリと抱擁を交わしてステージを去った洋一。その光景を見て、ああ、ゴーイングは今日をもって本当に再生したんだな、と思った。もちろん洋一が脱退した後もツアーは行われていたし、新曲もたくさん届けられてきた。でも2年前のクソみたいな気持ちにケリをつけるには、やはり同じ場所で、同じメンバーで音を鳴らすことが、何よりも大切なことだったんだろう。最近のライブではケイタイモや田渕ひさ子など豪華サポートメンバーを迎えてライブを行っていたから、正直、この日もゲストがわんさか登場するのかとライブを観る前に思っていた。でもメジャー・デビュー10周年という大切な舞台は、なるべく最小限の布陣で純粋な気持ちで迎えたかったんだろうなと、あの抱擁を見てすべてが納得いった気がしました。

大ラスは“さよなら僕のハックルベリー”。「嫌なこともあるし、うれしいこともあるし、唾はきたいこともあるけど、俺たちはそういうことをずーっと歌っていきたいと思います」と、最後まで臭い台詞を連発した素生とセンチメンタルなメロディに終始胸を鷲づかみにされながら、たまにはこういう夜も悪くないな、と心地よい爽快感が全身をおそった最高のライブだった。(齋藤美穂)
GOING UNDER GROUND @ 日比谷野外音楽堂

セットリスト
1.Heavenly
2.トワイライト
3.虹ヶ丘
4.所帯持ちのロードムービー
5.ピアノを弾けば
6.サイドカー
7.詩人にラブソングを
8.ジョニーさん
9.名もなき夢 ~煩悩青年とワーキングママ~
10.夕暮れ白書
11.ダイアリー
12.ベッドタウンズ チャイム
13.TENDER
14.ビターズ
15.夜の宝石
16.ボーイズライフ
17.LISTEN TO THE STEREO!!
18.RAW LIFE
19.My Treasure
20.ショートバケイション
21.Holiday
22.LONG WAY TO GO
23.ハートビート
アンコール
24.Shining
25.グラフティー
26.さよなら僕のハックルベリー
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