忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー 日本武道館 Love&Peace @ 日本武道館

忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー 日本武道館 Love&Peace  @ 日本武道館
忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー 日本武道館 Love&Peace  @ 日本武道館
忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー 日本武道館 Love&Peace  @ 日本武道館
愛車に跨がって力強くペダルを踏み込み、颯爽と日本武道館に乗りつける忌野清志郎の姿に満場のオーディエンスが喝采を浴びせる。清志郎が、武道館に帰ってきた。彼がこの世界から旅立って2年、命日となるこの日を迎えても、彼の歌がどれだけ多くの人に望まれ続けているのかがありありと伝わる光景だ。総勢40名超の出演者、のべ6時間に渡って繰り広げられた今回のショーのチケットは、あの3.11の翌日に発売されたそうだ。今、人々に求められる忌野清志郎のロックンロールとは、Love&Peaceとは何なのだろう。それは(少なくとも)40名超の出演者と、6時間という公演時間と、日本武道館を埋め尽くすオーディエンスによってようやく形が見えてくる、という途方もないスケールのものだった。

映像の後には武道館北側のメイン・ステージに仲井戸“CHABO”麗市(Gt)、新井田耕造(Dr)、藤井裕(Ba)、Dr.kyOn(key)、梅津和時(A.Sax)、片山広明(T.Sax)、Leyona(Cho)というLove&Peaceバンドの錚々たる顔ぶれが登場し、「OK! CHABO!」の掛け声一閃、CHABOが“雨上がりの夜空に”のギター・リフを踊らせ始める。早々にリボンキャノンも発射され、いきなりピーク・タイムか、という形でライブ・パフォーマンスがスタートした。公演全体の演奏曲目・演奏者を先に記しておきたい。

1:雨あがりの夜空に (宮沢和史、浜崎貴司、高野寛、ゆず、奥田民生、斉藤和義、トータス松本)
2:激しい雨 (仲井戸“CHABO”麗市)
3:Sweet Soul Music (Leyona)
4:ダンスミュージック☆あいつ (Leyona)
5:ラッキーボーイ (金子マリ)
6:MIDNIGHT BLUE (金子マリ w/KenKen、金子ノブアキ)
7:JUMP (斉藤和義)
8:ドカドカうるさいR&Rバンド (斉藤和義)
9:すべてはALRIGHT(YA BABY) (トータス松本)
10:よそ者 (トータス松本)
11:雨あがりの夜空に (泉谷しげる)
12:サマータイム・ブルース (泉谷しげる)
13:ラヴ・ミー・テンダー (泉谷しげる)
14:金もうけのために生まれたんじゃないぜ (ゆず)
15:イマジン (ゆず)
16:ファンからの贈り物 (真心ブラザーズ)
17:2時間35分 (真心ブラザーズ)
18:トランジスタラジオ (サンボマスター)
19:世界中の人に自慢したいよ (サンボマスター)
20:break into the light (東京スカパラダイスオーケストラ)
21:危ないふたり (東京スカパラダイスオーケストラ)
22:トランジスタラジオ (東京スカパラダイスオーケストラ)
23:銀河 (原田郁子)
24:君を呼んだのに (ハナレグミ)
25:多摩蘭坂 (ハナレグミ)
26:君が僕を知ってる (浜崎貴司+高野寛)
27:デイ・ドリーム・ビリーバー (浜崎貴司+高野寛)
28:恩赦 (矢野顕子)
29:ひとつだけ (矢野顕子)
30:ぼくの自転車のうしろに乗りなよ (宮沢和史)
31:うわの空 (宮沢和史)
32:幸せハッピー (細野晴臣+高野寛)
33:自由 (YUKI)
34:不思議 (YUKI)
35:スローバラード (奥田民生)
36:チャンスは今夜 (奥田民生)
37:ROCK ME BABY (ザ・クロマニヨンズ)
38:ベイビー!逃げるんだ (ザ・クロマニヨンズ)
39:いい事ばかりはありゃしない (ザ・クロマニヨンズ)
40:よォーこそ (ダイナミック・ライブ映像)
41:ドカドカうるさいR&Rバンド (ダイナミック・ライブ映像)
42:可愛いリズム (ダイナミック・ライブ映像)
43:エンジェル (ダイナミック・ライブ映像)
44:上を向いて歩こう (ダイナミック・ライブ映像)
45:JUMP (ダイナミック・ライブ映像)
46:いい事ばかりはありゃしない (ダイナミック・ライブ映像)
47:ブン・ブン・ブン (仲井戸“CHABO”麗市、金子マリ、Leyona)
48:雨あがりの夜空に (仲井戸“CHABO”麗市、奥田民生、斉藤和義、トータス松本、金子マリ、Leyona)
49:毎日がブランニューデイ (映像)

横一線に並んだシンガー達による豪華極まりないボーカル・リレーで“雨あがりの夜空に”が披露されると、清志郎生前のラスト・アルバム『夢助』で共作した“激しい雨”をCHABOが歌う。《Oh 何度でも 夢を見せてやる/Oh この世界が 平和だったころの事》。ラスト・アルバムだったことや清志郎とCHABOの共作だったことの物語性以上に、「今」に向けて歌われた歌だったのではないか?という気持ちにさせられてしまう。

ハスキーな声が本来のソロではなかなか聴く事が出来ないほど猛々しくソウルフルに振り回されたLeyonaの後、エレガントかつシックな衣装で姿を見せたのは金子マリ! 両手を合わせて深々と一礼し、“ラッキーボーイ”でファンキーな節回しを決めてくれる。会場も楽曲も違うしそもそも僕は当時の光景を目の当たりにしてもいないが、『RHAPSODY NAKED』における久保講堂の熱狂の現場を追体験しているかのようだ。そして更にスペシャル・ゲストとして急遽参加を決めてくれた2人、CHABOが「よちよち歩きの頃から知ってんだ!」とステージに呼び込んだのは、金子マリのご子息にしてRIZEのリズム隊、KenKenと金子ノブアキだ。Love&Peaceバンドとは一味違った前のめりなグルーヴを叩き出して、母の歌をがっちりと支える。まったく、なんというセッションだろう。

「キヨシローさ~ん……替え歌は、まだ怒られちゃいますよォ~。ザマぁみやがれ!」と吐き捨ててオーディエンスを大喜びさせつつ(CHABOも破顔一笑)シンガロングを誘った斉藤和義と、自身のルーツを開けっぴろげにするかのような泣き笑いの全肯定ソウル・バラードを浴びせかけるように歌ったトータス松本が立て続けに登場し、CHABOがバンド・メンバーを紹介したところで一旦全員がステージを後にする。「忌野清志郎ニュース」として、KING OF FUJI ROCKと刻印された金メダルがフジ・ロック最多出場の清志郎に贈られたという話題や、イベント『ナニワ・サリバン・ショー』の映画化などが報じられた。今回のショーに寄せられた各界の著名人コメントも「Love&Peace」を合言葉に次々と映し出され、タモリやSMAPや清志郎の旧友・三浦友和らの姿も見られる。黒柳徹子は今の日本が置かれた状況と清志郎が残した“サマータイム・ブルース”“ラヴ・ミー・テンダー”を踏まえて「私たちは清志郎さんが訴えていたことをしっかり受け止めることが出来ていませんでした。これからは奇麗な社会を作っていかなければなりません」と熱く語り、会場内には拍手が巻き起こっていた。

そしてアリーナ南寄りに設置されたセンター・ステージに、泉谷しげるが登場。“雨あがりの夜空に”を弾き語りするも、「やめた! どうせおまえら後でまたみんなで歌うんだろ!」と途中で切り上げてしまう。そして当初予定されていた楽曲を無視してかつて自身も参加した“サマータイム・ブルース”を、挙句の果てにはギターをスタッフに投げてアカペラで“ラヴ・ミー・テンダー”を歌ってしまうのであった。圧巻のパフォーマンス。「そんなに安全だってんならよお、お台場に原発作れよ! それか、一家に一台、小原発だ!」

伸びやかな歌と美しいハーモニーで“イマジン”を聴かせたゆずと、テクニカルないぶし銀の絡み合いで魅了した真心ブラザーズが登場したセンター・ステージに続き、木内がカホンとバスドラム、シンバルというシンプルなパーカッション・セットで登場したサンボマスターは、山口が胸を掻きむしるような甘く切ないソウル・ボーカルで《岩手県のことや宮城県のことや福島県のことや青森や東京やそして君や忌野清志郎のことを、世界中に自慢したいよ》と歌っていた。

転換を終えたメイン・ステージでは、勇ましいメロディでヒーローを讃えるかのようなスカパラのセルフ・レパートリーから「今日は、忌野清志郎さんの命日でありますが、スカパラの初代ドラマー・青木達之の命日でもあります。というわけで我々、気合が入っております!」という谷中の挨拶を経て、大森と欣ちゃんがそれぞれリード・ボーカルを務める清志郎ナンバーの熱演へ。そしてセンター・ステージの原田郁子にバトンが繋がれ、清志郎との共作曲“銀河”を鍵盤弾き語りで一曲のみ、しかし雄大な、無限に続くかのような光景を見事描き出していった。続くハナレグミも「清志郎さんとは中学校が一緒で、国立のとある坂の歌を歌います」とたなびく幽玄のギター・ノイズの中で素晴らしい解釈の“多摩蘭坂”名演を聴かせてくれた。

浜崎貴司と高野寛による「ゆずじゃないよー」という笑いを振りまきながらのセッションもしっかりと名曲でシンガロングを敢行し、その後の矢野顕子は“恩赦”ののち「今日は俺が忌野清志郎だ! 私が清志郎さんと歌うのよ! という気持ちで一緒に歌ってください」と、自身の清志郎との音楽的にも緊密な交流にオーディエンスを迎え入れるような包容力溢れるパフォーマンスを見せてくれる。

今回のショーのグッズをまとめて1名様にプレゼント、という企画や著名人のコメント(間寛平、浅野忠信、あがた森魚、オノ・ヨーコら)の映像が挟み込まれ、メイン・ステージにはLove&Peaceバンドと、宮沢和史が立つ。口笛やブルース・ハープを交えながらのミヤらしい歌を届け、義援金への呼びかけを行うなど具体的なアクションへと向かう姿勢が印象的であった。そして登場とともに場内にどよめきが巻き起こったのが細野晴臣である。「風邪で弱ってんのか放射能で弱ってんのかわかんないけど、清志郎、待っててねって感じだ」と縁起でもないジョークを飛ばすが、自身が作曲・清志郎作詞で坂本冬美に提供した陽気な“幸せハッピー”を歌いあげるのであった。

YUKIの突き抜けるような永遠の女子ボーカルで清志郎の歌が弾けると、奥田民生による鳥肌モノの熱唱“スローバラード”へ。この矢継ぎ早な展開と1曲1曲の濃さにはつくづく目が回りそうだ。一転しての爆裂ロックンロール“チャンスは今夜”を歌う際には「この曲を聴いて今の仕事をしようと思って、運良く今の仕事ができているんですが、なかなか現実はこの歌詞のようにはいきません。まああんまり言うとこれからミュージシャンになろうとする人が夢をなくしちゃうんで、半分ぐらいホントです。ね、CHABOさん」と語り、CHABOとのギター・バトルも織り交ぜて迫力の「これぞロック・ボーカル」という歌声を轟かせるのであった。

「清志郎旅日記」として海外でのレコーディング活動を振り返る映像が流される。この辺りの海外勢の面々が、2年前のフジ・ロックに一堂に会した光景も思い出された。スティーブ・クロッパーが、“オーティスが教えてくれた”の歌入れに立ち会って涙ぐんでいる姿にはもらい泣きしそうだ。そしてステージにはザ・クロマニヨンズが登場。その歌詞とともにロックンロールの興奮にコンマ数秒でリーチし、またここまでウェットなブルースをだだ漏れにしているクロマニヨンズもそうは観られない、という“いい事ばかりはありゃしない”が実に素晴らしい演奏になっていた。最後にヒロトが、「この後いよいよ、忌野清志郎の登場です!」と紹介して、古くは80年代前半のものから近年のものまで、RCや清志郎の武道館ライブ映像が映し出されるのであった。この日発売された武道館ライブDVDにも、この在りし日の輝かしい姿は刻まれているのだろうか。

遂に辿り着いてしまったショーのクライマックス。金子マリとLeyonaが並んで歌う“ブン・ブン・ブン”、そしてトータスの呼びかけで会場の全員が一斉に「OK! CHABO!」コールを放ち、“雨あがりの夜空に”に傾れ込んでいった。CHABOは最後に歌詞を噛み締めるように引用してから「マイ・ボーイフレンド。アワー・ボーイフレンド。グレート・ソウル・シンガー、忌野清志郎!」と天を指し、今回のショーは幕を閉じた。

公演の間、「清志郎の歌を聴いて、清志郎の不在を嘆く」のか、それとも「清志郎の歌を聴いて、清志郎のいない未来を作りにいく」のか、僕はそのふたつの思いの間をいったりきたりしていた。そして、そのどちらからも逃れることはできないのだ、という結論に至った。黒柳徹子が語った思いや泉谷しげるの圧巻のパフォーマンスが忌野清志郎のひとつの「極」なら、トータスやサンボマスターが聴かせてくれた甘く狂おしいラブ・ソングも、民生やクロマニヨンズがほんの2、3曲の中でしっかりバトンを引き継いでみせたロックンロールの無限のエネルギーの放出も、すべては「極」であり、清志郎はそれらを等価に鳴らし、歌うことができる人であった。清志郎の残したものはそれだけ大きく、重い。それは、今後我々が背負っていかなければならない世界のラブとピースが、大きく、重いのと同じように、だ。(小池宏和)
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