モーモールルギャバン @恵比寿リキッドルーム

21世紀の暗黒大陸じゃがたらか? はたまたメジャー・シーンに解き放たれたポップ・テロリストか? とりあえず、ウィキペディアの特徴の項に書いてある「自称西のクラムボン」は絶対に認めたくない。3月にメジャー初のフル・アルバム『BeVeci Calopueno』をリリースしたモーモールルギャバンが、遂にワンマン全国ツアー『Oneman The BeVeci Calo☆too-Ah』を敢行だ。今後、ツアーのスケジュールは6月まで続くので、参加予定の方は以下レポートのネタバレにご注意を。

人いきれと熱い期待が立ち込める恵比寿リキッドルームのフロアには色とりどりの、無数の風船が舞い、そしてピッチピチのハーフスパッツ&裸の上半身にネクタイだけをぶらさげたゲイリー・ビッチェ(Vo./Dr.)が躍り出て“君のスカートをめくりたい”を浴びせかけるのだった。もともとイラストが入れられたバックドロップにプロジェクターからの映像が重なって映し出される、なんとも異様な視界。ひとしきり前線オーディエンスとやりあっていたゲイリーがステージ下手のドラム・セットに収まると、新作の“Smells Like SURUME!!”がスタートだ。ファンキーでありながらドッタンバッタンとつんのめるように転がってゆくゲイリーのドラム。不穏な悲鳴のようなノイズを撒き散らすユコ・カティのキーボード。聴く者の体にまとわりつくようなT-マルガリータのベース。アルバムで聴くのとはまた一味違った、切羽詰まった深刻さが伝わるようなパフォーマンスだ(それと比例してバカバカしさも増すのだが)。

続いて“POP!烏龍ハイ”を披露すると例によってドラム・セットの上に乗り上がり、立ち上がった眼前の、無闇に高いポジションに設置されたマイクにしがみつくようにして「こんな感じで、ツアーに来てくれてアリガトウー!」と喚くゲイリー。「僕は無力です! 人は無力です! でも今日、これだけの人が集まってくれたエネルギーは、必ず何かの役に立ちます! だから僕は、心を込めて歌います! まさかこの歌がこんなに多くの人に聴かれるとは思いませんでした!」とそのまま、新作の限定盤ボーナス・トラック“美沙子に捧げるラブソング”を高らかに歌い始める。ただ普通に切実でロマンチックなだけのラブ・ソングなのに、ゲイリーが歌うというだけで名誉毀損の心配をしてしまうのはなぜだろうか。今にも空中分解しそうなスウィンギン・ビートを繰り出しながら、歌に込める熱もどんどん高くなってゆく。

「風船とか、楽しいっしょ? こっちにもばんばん投げ返してくれて構わないんで! じゃあ次は、昔、ゲイのカップルが僕のうちに泊まりにきたときに作った歌、聴いてください。こいつらを祝福しよう、と思って軽い気持ちで作り始めたんだけど、いつの間にかマジになっちゃいました!」と、《神は死んだ 泣き止んだ》の一節から勢い良く転げてゆく抒情詩“愛と平和の使者”が披露されるのであった。なぜ彼らは力強いバンド・グルーヴの、その推進力にこだわるのだろうか。こんなふうに、どうしても転がしたい、重いブルースが常に側にあるからだろうか。

ところで、モーモールルギャバンの演奏はムラが多く、外すところは思いっきり外したりもする。でも、どの曲が、とかではなくて、盛り上がれば盛り上がるほどにタイトに引き締まってもの凄い演奏をする。何ともバンドらしいバンドだ。「バンドらしさ」が極端なバンドと言えばいいだろうか。この後の“ATTENTION!”といった楽曲は、ゲイリーの歌いっぷりやユコの狂ったようなアドリブに至るまでめちゃくちゃカッコ良かった。そういうときはオーディエンスも盛り上がっているので、今回の公演では風船が多く飛び交う。なんか、風船の数が演奏のバロメーターになっているみたいで可笑しかった。

「楽しいねー! サザエさんよりも、ちびまる子ちゃんよりも、モーモールルギャバンを選んでくれてありがとう!」とゲイリーが告げて、“コンタクト”などユコがリード・ボーカルを務めるナンバーに突入。せつないメロディー・ラインが良く映えるユコの歌は、モーモールルギャバンの大切な武器だ。ドラム・プレイに専念したゲイリーは、やたらめったら多彩なフィルを一曲の中に盛り込もうとする。すこぶるポップだが「何かが欠けてるから何かが過剰になる」この感じ。こんなバンドがメジャーにいるという事実は、ポジティブな意味で実に怖い。今にもこれまでのポップ・ミュージックの常識が全部ひっくり返されてしまうような怖さがある。

ゲイリーが“ダースベイダーのテーマ”を口ずさんでから、急転直下に響き渡ってオーディエンスの間の手を巻きながらプレイされた“UWABURN”から、マルガリータの強力なリード・ベースに導かれた人力ダンス・ロック・チューン“ユキちゃんの遺伝子”ではまたもや無数の風船が中に打ち上がる。ロッキンなリフのコンビネーションで弾けるアルバム表題曲“BeVeci Calopueno”ではゲイリーの凄絶なドラムソロが挟み込まれ、混沌とした音像の中にユコのキーボードが喚き散らすように響くのだった。

そしてゲイリーが、いきなり告白を始める。「ホントはー! バンプ・オブ・チキンみたいなバンドになりたくてー! ギター/ボーカルやってたんスけどー! 野口って奴が辞めてー! 野口ムカついたんでー! こういう曲、作りましたー!」と“野口、久津川で爆死”に傾れ込んでいった。その曲の成り立ちは知っていたけど、演奏後にユコとマルガリータが補足説明する。「その後、実は野口くんは生きてて、結婚したらしいんだけど……」「幸セニナッテネ、ッテ感ジダッタンダケドー、離婚シチャイマシター!」マルガリータは声のピッチを上げてもらって、女の子みたいな声になっている。話の途中で地声のピッチに戻すと、嫌がって話さなくなるのだった。最後にゲイリー「それ、MCのネタにしていい?って本人に訊いたら、まだしてなかったの?だって」。

本編ラストは、喜劇のエンド・ロールのように妙な感傷を誘う“サイケな恋人”。満場のパンティ・コールを仕切りつつゲイリー、「俺だったらこんなバンド観に来ないけど、ホントありがとー! せめて、限界まで裸になって帰ります!」と銅鑼の音に合わせてスパッツを下ろし、パンツ姿に。さらにもう一枚を下ろして、ビキニ一丁になり去っていったのだった。

「……!! アンコール始まったら5秒で出てくるつもりだったけど、ゴメンちょっと遅れました」と今度は投げキッスを飛ばしまくる。「そりゃワンマンだからね! 用意してますよ! じゃあ、僕のドン底の青春と正面から向き合って作った曲です!」と“rendez-vous”がプレイされるのであった。オーディエンスのハンド・クラップとシンガロングが次第に膨らんでゆく。そして「ユコさんが頑に嫌がったんだけど!“パンティ泥棒の唄”ー!」と最後のもうひと盛り上がりである。ゲイリー、見るからにヘロヘロ。それでもダブルアンコールに登場し、クイーンのドラムを叩いて《WE WILL,WE WILL ユキちゃーん!》のコールから“ユキちゃん”だ。全身全霊のパフォーマンスがようやく幕を閉じた。どこまでも過剰。そして、やればやるほどなぜか切なくなる。これでも何かが足りない気がして、モーモールルギャバンはまた次のステージに向かうのだと思う。(小池宏和)
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