フラワーカンパニーズ @ 日比谷野外音楽堂

フラワーカンパニーズ @ 日比谷野外音楽堂
フラワーカンパニーズ @ 日比谷野外音楽堂 - all photos by Eri Shibataall photos by Eri Shibata
「おーい元気かー!? 野音へようこそー! やりますかー!」

よく晴れた春の空に力強く抜けてゆく、鈴木圭介の第一声。約一年半ぶりのフラワーカンパニーズの日比谷野音ワンマン『フラカン22年祭~ゾロ目だョ全員集合!~』だ。公演タイトルは、前回の日比谷野音公演のときの『20年だョ!全員集合』をもじったものになっている。後でリーダー=グレートマエカワは「1年半前にやったばっかりじゃん、って言われるかと思って、ちょっと心配してた」と語っていたが、ゾロ目記念、見事に大入りである。夕刻の野外に広がる見渡す限りのオーディエンスの顔を前にして、また心地よい風を受けてあからさまに上機嫌な4人は、最新アルバム『チェスト!チェスト!チェスト!』の“M.R.I”を皮切りにのっけからダイレクトに伝わる歌詞の楽曲群を並べ立てて飛ばしてゆくのであった。

“どっち坊主大会”では、圭介によるブルース・ハープとまくしたてるボーカルが盛り上がりに拍車をかける。そして“ロックンロール・スターダスト”ではコーラスのフックに合わせて「Hoo!!」とオーディエンスと一斉ジャンプを敢行。「『~ゾロ目だョ全員集合!~』ということで無理矢理タイトルつけましたが、次ゾロ目になるの11年後だからね? 53歳! こんなの着てらんないよ」とマエカワのオーバーオールを指さす圭介である。さてここで、ゲストのキーボード奏者に盟友・奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)を迎え、5人体制でパフォーマンスを進めてゆく。古めかしいロータリー・スピーカーを背負った奥野のけたたましいオルガン・サウンドに地を這うような力強いベース・ラインが絡み付いて“脳内百景”だ。迫力のピアノR&Bとなった懐かしのセカンド・シングル“ああ今日も空振り”も披露され、マエカワがベースをフルスイングで空振りしてフィニッシュする。「開幕したことだし、やらなきゃと思って」とは、圭介の弁である。

それにしても改めて『チェスト!チェスト!チェスト!』は、長いキャリアの貫禄が滲み出るような、ずっしりした手応えのある良曲揃いのアルバムである。チャーミングなメロディが瑞々しく弾ける“雲の形”、自虐モードが炸裂しながら圭介がしっかりとソウルフルな歌を届けてくれる“エコー”とプレイ。“雲の形”はライブ初公開で、これによって『チェスト!チェスト!チェスト!』の楽曲はすべてライブで演奏されたのだそうだ。ミスター小西の新しいドラム・セットの色に触れて、「何ていうんだこれ、玉虫色? ロック・バンドらしからぬ色だよね……」と圭介が漏らしたところに奥野が「友達んちにあった、濁った水槽みたいやな」と乗っかってさんざんだが、直後の情感豊かでドラマティックな“感情七号線”ではしっかりラララ……とコーラスが広がる。パフォーマンスの盛り上がりをMCで台無しにして、また楽曲の良さに救われる、という、ある意味ものすごく高度でアクロバティックなステージ進行とも言えるが。

そういうわけで公演本編は『チェスト!チェスト!チェスト!』収録曲をがっちりと堪能する形になったわけだが、時折効果的に挟み込まれる往年の名曲群がまた、素晴らしいものになっていた。“虹の雨上がり”を歌い終えると、

圭介:「震災のあと、ずっとやってます。別に(阪神・淡路の)震災の歌でもなんでもないんだけど、これ歌うと自分が元気出るんだよね」
マエカワ:「なんでこの曲、シングルにならなかったのかな?」
圭介:「どっかで路線、間違えたかな……」

そして辺りが少しずつ夜を迎えるというところに放たれた、“春色の道”だ。荘厳なシンセ・サウンド、マエカワが奏でるアコギのコード・ストローク、そして深い余韻を残して鳴らされる竹安のギター・サウンドに小西のパーカッションというイントロからカウントが打たれ、とんでもなくダイナミックなロック・アンサンブルが響き渡った。凄い。ノイジーで、でも気高いエネルギーに満ち満ちている。まるでロックの聖歌だ。巻き起こる大喝采の中にマエカワがボソリと「これもシングルじゃなかったんだよねぇ」。

「今回の野音はすごく楽しみにしていて、一時はどうなることかと思いましたが、無事にやることができて良かったです」と竹安。「今、やりながら気持ち良さを実感しています。ありがとうございます」と小西。折角の挨拶に水に差す形で「ベースのこと悪く言うなよ!」「ベースなんか誰も好き好んでやらないじゃん!」とやりあってるのはマエカワと圭介だが、子供か。バンドやろうぜ、な年頃か。そんないつまでもフラカンはフラカンなムードで、パンキッシュに転がる終盤に突入していった。“恋をしましょう”ではステージの淵に躍り出てギターを弾きまくる竹安。性急なディスコ・ロック・チューン“ラララで続け!”では「ストレス解消になるんだろ! ワーっつったら、ワーって返せ!」と盛大なコール&レスポンスを盛り込み、“アイム・オールライト”を「アーユーオーライ!? ヒビヤー!!」「アーユーオーライ!? ニッポーン!!」と駆け抜けて本編をフィニッシュするのであった。
フラワーカンパニーズ @ 日比谷野外音楽堂
《生きててよかった》の意味がこれまでとはまた違う形で胸に響く気がする“深夜高速”によって幕を開けた、メンバー全員ツアーTシャツ姿のアンコール。盛り上がるというよりも「浴びる」という感じで、一面の人々が一心不乱に聴き入っている。また、歌い出しで圭介ひとりにスポット・ライトが当てられてスタートした“元気ですか”は、途中、《お元気ですか 未来の日本 未来の君は》と歌詞を変えて歌われるのだった。「来週、仙台と盛岡にライブにいってきます。今日みんなに貰ったエネルギーを、真空パックして持っていって、そのまま置いてくるから」。くそ。なんだよう。感動させんなよ。

ダブル・アンコールは“白眼充血絶叫楽団”でスタートする。これがまたとんでもなかった。フラカンの「名曲」は、いつもささくれ立っていてふて腐れていてダメダメな自虐でのたうち回っていて、その先に一滴の「生きる意味」を絞り出そうとする。そんな自ら進んで人生の生贄になるようなロックに、ファンは絶大な信頼を寄せ、救われる。マエカワが言っていた「なんで(所謂)「良い曲」がシングルにならないのか」という話の本質もそこにあって、なだめすかすような癒しだけでは効かないし、足りないからである(別に“虹の雨上がり”や“春色の道”が甘っちょろい歌だとは思わないが)。フラカンは極限のロックでこそ極限状態にある人を救おうとする。なぜなら、彼らにも「そんなロックに救われたことがある」という、裏付けされた確信があるからだ。

ひた走るようなスポークンワードの一言一句が、そして《HEY HEY HO》の大合唱が東京の空へと力強く放たれた“東京タワー”に辿り着く。僕がどうこう言うまでもなく、これからもフラカンの歌は確実に誰かを救うはずだ。今こそ日本に、聴かせてやってくれ。アンコールでは20年記念時の赤いハッピを着たりしていた奥野を含め、5人で手を組んで高く掲げる。最後に挨拶したフラカンの姿は、何とも頼もしいものだった。……あ、書き忘れてたけど、初登場の出バナを見事に挫かれてしまったミスター小西の新ドラム・セット、特に“真冬の盆おどり”のタム・ロールなんかがド迫力で、かっこ良かったです。(小池宏和)

セット・リスト
1:M.R.I
2:It’s Only Rock’yun’ Roll
3:どっち坊主大会
4:ロックンロール・スターダスト
5:脳内百景
6:切符
7:ああ今日も空振り
8:雲の形
9:エコー
10:感情七号線
11:ペダルマシン・ミュージック
12:虹の雨あがり
13:日々のあぶく
14:春色の道
15:終わらないツアー
16:チェスト
17:恋をしましょう
18:ラララで続け!
19:アイム・オールライト

EN1-1:深夜高速
EN1-2:元少年の歌
EN1-3:元気ですか

EN2-1:白眼充血絶叫楽団
EN2-2:TEENAGE DREAM
EN2-3:真冬の盆踊り

EN3:東京タワー
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