星野源 @ 渋谷PARCO劇場

星野源 @ 渋谷PARCO劇場
いやぁ、堪能させていただきました。初のシングル「くだらないの中に」リリース記念のソロライブ「部屋 in PARCO劇場」2DAYSの初日。「星野源の部屋にお客さまをお招きする」というコンセプトのもと、手の込んだ演出が施されたオール着席スタイルのアクトは、終始リラックス・ムードでありながらも星野源という人間の思想やクリエイティヴィティを骨の髄まで味わい尽くせるような、とても刺激的なものだった。

場内に踏み入れた瞬間、一風変わったステージ風景が目に入る。左側にこたつ、中央に椅子とサイドテーブル、右側に大きな液晶テレビが置かれたステージ。その周りにアコギやスティール・ギター、譜面台などが置かれている。さらに開演時刻の数分前、アナウンスされたのは星野源本人による前説。「えー、本公演に際しての注意点を星野源が生でお送りします」という言葉に、客席からクスクスと笑いが起こる。この瞬間から、場内はプライベートで気取らない空気が流れる星野源の部屋へとトリップした。
星野源 @ 渋谷PARCO劇場
そして19:00過ぎ、暗転。ステージ上のテレビのスイッチが入り、映されたのはなんとオアシズの大久保佳代子。「今日は星野源の部屋で、源の“恥部”を思う存分味わってください」という彼女のコメントに続いて、Tシャツ&パーカーにジーンズというラフな出で立ちの星野源が登場する。画面上の大久保さんと軽い掛け合いをする星野。ステージ中央の椅子に着席すると、“歌を歌うときは”を弾き語りで披露してライブをしっとりとスタートさせた。歌を歌う上での決意や、人と向き合う上での所信表明を切々と綴ったようなこの歌。力強いメッセージ性に富んだ言葉が、あくまでも柔らかなサウンドに乗せて歌われていく。その後も、何気ない日常の風景を淡いタッチで切り取った水彩画のような楽曲が、丁寧に丁寧に届けられていった。

「ずっと前から部屋をコンセプトにしたライブがやりたくて。曲を作るときは家で深夜にギターを弾きながら作っているんですけど、今夜はそんな感じを味わっていただければと思います」と述べて、“たいやき”へ。曲を披露してはサイドテーブルに置いたマグカップのドリンクで喉をうるおす星野源は、席についた観客にコール&レスポンスを求めたり、「トイレ行きたい人はどうぞ」と言ったりと、あくまでマイペースなスタンスを崩さない。その肩の力が抜けたホストぶりに、「星野源の部屋に招かれたら、こんな風にリラックスした贅沢な時間が過ごせるんだろうなぁ」としみじみ思ってしまった。
星野源 @ 渋谷PARCO劇場
…と、しばし心地よい脱力感に襲われたのも束の間。ライブ初披露曲“湯気”を終えたところで、再び画面に大久保さんが登場。「老人がどうのこうのっていう枯れた歌じゃなくて、もっと若々しくてフレッシュな歌を歌いなさいよ!」と渇を入れ、星野をステージ左側のこたつエリアへと誘導する。そして今回のライブの目玉とも言えるコーナーのスタート。「今までほとんど誰にも聴かせたことのない歌を歌います」として、高校時代に部屋でひとりで作曲してはMDに自作アルバムとして録音していた、本人曰く「とっても恥ずかしい歌=僕の恥部」を次々と開陳していく。しかも、1曲を終えるたびに星野自らダメ出しポイントを述べるという自虐的スタイルで。確かに、いかにも高校生らしい青さ全開の歌詞とメロディはちょっと気恥ずかしかったけど、全体に漂う柔らかな空気感と切なさは、紛れもなく星野源のもの。こうやってひとり黙々と曲を作ることで、表現の精度を高めていった星野少年の姿が目に浮かんで、なんだか微笑ましかった。
星野源 @ 渋谷PARCO劇場
再び大久保さんのVTRが流れた後は、『ばかのうた』のレコーディングにも参加しているスティール・ギター奏者の高田漣が登場。ここからはアコギ+スティール・ギターの二重奏で“老夫婦”など4曲が演奏される。柔らかな星野源の歌声とアコギ、そして河辺の水面をたゆたうような高田漣のスティール・ギター。繊細でカラフルな音色が折り重なったサウンドスケープは、アコギ一本による絹糸のようなサウンドとはまた違った魅力があって、この上なく至福。色彩豊かでふくよかなSAKEROCKのサウンドにも似た軽やかな高揚感で場内が満たされると、着席したまま上体を揺らす観客の姿があちこちで見られた。

そしてライブもいよいよ佳境。ステージにひとり残った星野源が、再び弾き語りスタイルで“変わらないまま”をしめやかに歌う。さらに本編ラストを飾った“グー”“くらだないの中に”が素晴らしかった。“グー”に入る直前、星野はこんなことを語っていた。

「まだまだ大変な時期は続くけど、震災以降、延期が続いていた都内のライブハウスでも徐々に公演が再開されています。こうやって少しずつ、普通を取り戻していきたいと思います」

そうだ。今回の災害でたくさんの「普通」の営みが奪われてしまったように、「普通」を維持し続けることは決してたやすいことではない。それを肝に銘じているからこそ、星野源はありふれた日常を愛でるように歌う。そのはかなさを、大きな喪失感を込めて歌う。そんな彼の優しさと厳しさが、ラスト2曲にはギッチリと詰まっていたからだ。初期衝動に任せたロックンロールやエモーショナルなバラードのような派手さはないけれど、確かな真理が刻まれた歌とメロディ。その説得力の大きさに改めて驚かされるとともに、聴く者の背中を本当に強く押してくれるのは、きっとこういう歌なのだろうと深く感じ入ってしまった瞬間だった。

アンコールでは“ブランコ”“くせのうた”を弾き語りでプレイ。これでライブ終了かと思いきや、星野源がステージを去った後に再び大久保さんのVTRが。「良かったわ~、グッと来た。源の部屋を堪能できた。でもまだ足りない……っていう強欲な人は、明日も来ればいいじゃない。……えっ? 明日売り切れなの? じゃあダメじゃない! 源、ちょっと出てきなさいよ!」という彼女に促され、再びステージに現れた星野が客席に深々とおじぎをして、2時間強に及ぶライブは幕を閉じた。

終盤には、SAKEROCKも含めて今後さまざまなライブやイベントを企画していることも語られた。こうして、「普通」を取り戻すための星野源の営みは、ゆっくりと着実に進んでいくようだ。(齋藤美穂)
星野源 @ 渋谷PARCO劇場
セットリスト
1.歌を歌うときは
2.子供
3.キッチン
4.選手
5.茶碗
6.たいやき
7.ばらばら
8.ひらめき
9.湯気
10.だから私は嫌われる
11.家出
12.次は何に産まれましょうか?
13.ここに来る
14.老夫婦
15.ただいま
16.スーダラ節
17.穴を掘る
18.変わらないまま
19.グー
20.くだらないの中に
アンコール
21.ブランコ
22.くせのうた
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