ノー・エイジ@渋谷クラブクアトロ

ノー・エイジ@渋谷クラブクアトロ
ノー・エイジ@渋谷クラブクアトロ
ノー・エイジ@渋谷クラブクアトロ
昨年9月にサブ・ポップからの2作目となる(通算3作目)アルバム『エヴリシング・イン・ビトゥイーン』を発表したLAのローファイ・パンク・デュオ、ノー・エイジによる、09年5月以来の来日公演。15日の大阪に引き続き行われる、東京・渋谷クラブクアトロでのショウである。さて、まずはアーロン・ザ・ダウンタウン・ドンなるゲストが登場する予定になっていたのだが、開演時間の19:00を過ぎてもなかなか姿を見せない。25分ほど待ったところに、クールでアングラ風なヒップホップ・ビートが響き渡る。そして現れたのがダウンタウン・ドンことアーロン・ボンダロフその人であった。このアーロン、ビートも鳴り止んだところに、ラップというかビート詩というか、落ち着いたダンディな語り口でキレの良いマイク・パフォーマンスを披露してゆく。最後に「ノー!」「エイジ!」のコール&レスポンスに辿り着いて、ノー・エイジの面々をステージに呼び入れるのであった。やたら気の利いた前説だったのだ。このためにわざわざ連れてきたのか。おもしろい。

そしてステージ上手に陣取ったランディの、ノイジーで深く美しいサウンドがまるで郷愁を喚起するようなメロディのリフレインを響かせ、中央でドラムを叩きながらディーンが歌うのは新作のオープニング・ナンバーでもある“ライフ・プロウラー”だ。下手ではネクタイにコートという出で立ちのサポート・メンバーが、サンプラーを操って音響に奥行きをもたらしている。続いて、ランディが低音弦を強調してラウドにプレイされる“ティーン・クリープス”。無為に過ごす時間の若い心模様を、詩情豊かに描き出してゆくのであった。爆音の中に、美しいメロディが浮かび上がってくる。とにかく、曲が素晴らしく良い。気が遠のくほどに甘美な音響を聴かせた“エヴリー・アーチスト・ニーズ・ア・トラジェディー”をフィニッシュすると、ランディは「アリガトウゴザイマス! ワタシタチハ、ノー・エイジ、デス!」と挨拶してオーディエンスの喝采を浴びるのであった。
ノー・エイジ@渋谷クラブクアトロ
Tシャツ姿になったディーンが威勢良くカウントを唱えて“フィーバー・ドリーミング”からは新作からの楽曲群が立て続けに放たれていった。バスドラム、タムタム、スネア、シンバルとハイハットが各ひとつずつ。時折タンバリンを付け加えるだけの、シンプル極まりないディーンのドラム・セットなのだが、なんだろうこの鳴り方は。一般的なパンクのアンサンブルというと、リズムは物語の推進装置で、爆音で掻き鳴らされるギターは感情表現の増幅器という印象があるが、ノー・エイジの場合は違うような気がする。爆音の中に浮かび上がってくるランディのギターが物語性を一手に担い、ディーンのドラムは凄まじくソリッドに響きながらも、感情の増幅器のような立ち位置に聴こえてくるのである。ディーンは「水曜日なのに、すごいパーティじゃないか?」とおどけているが、「ローファイ」をまったく言い訳にしない、この自らに課すハードルの高さと実際の音の構築ぶりは笑い事ではない。

アグレッシブなロックンロールがあれば、ブライトなポップ・ナンバーもある。エクスペリメンタルなインタープレイも挟み込まれる。そんな中でフレーズのひとつひとつが強いフックと化し、撒き散らされるノイズの粒子(実際は粒子じゃないけど)に至るまで、無駄なものが、どうでもいいものがひとつもない。痛快極まりない“キャッポ”では真っ赤な照明に照らされながらランディがギターを弾き倒しながらステージの淵まで躍り出てきて煽り、“バレイ・ハンプ・クラッシュ”ではTシャツを汗でぐっしょりと濡らしたディーンがカメラをフロアに向けていた。そしてドリーミーな音響空間を突き抜けて走り出し、現代社会の誰の側にもある闇を一息に描く“イレイサー”にフロアが大きく沸き返る。更にディーンは「すぐそばにいる人を、こう強く抱きしめるようにするんだ」とジェスチャーを交えて、けたたましくどこまでもホットな“スリーパー・ホールド”を歌った。最も近い絶望と最も近い希望を鷲掴みにして、とりわけ終盤はひたすらにフロアを加熱し続けるのであった。
ノー・エイジ@渋谷クラブクアトロ
あれだけ強烈なドラム・プレイをしながら首を固定して歌い続けるのはさすがにキツイはずだ。ランディがインタープレイやイントロを披露している間、ディーンは何度も立ち上がって身体のあちらこちらをチェックするような仕草を見せていた。それでも、彼の眼光はずっと鋭いままだ。果てしなく美しい現代のパンク・ソングを、歌い続けていた。「今日は本当にありがとう! 2008年……2007年だっけ? 以来の来日だったんだよ」。2009年以来だけど、一夜のパフォーマンスを共に駆け抜けるということが、こんなにもドラマティックな出来事に思えたのはずいぶん久しぶりのことだった。この感動をどうにか言葉にしたいと思うのだが、ベタで臭くて陳腐なフレーズしか思い浮かばない。でも、ノー・エイジは、知的なインディー・バンドである一方、ベタで臭くて陳腐なフレーズになってしまうようなことを徹底的にやりぬき、自分たちの居場所を作ったバンドなのだと思う。仕方がないので邦楽ロック史に燦然と輝く名フレーズを拝借させてもらうが、真に《写真には写らない美しさ》を観たステージであった。このフレーズが今もっとも似合うのは、ノー・エイジだ。(小池宏和)

<セット・リスト>
Life Prowler
Teen Creeps
You're A Target
Every Artist Needs A Tragedy
Fever Dreaming
Depletion
Common Heat
Losing Feeling
Cappo
Glitter
Valley Hump Crash
Eraser
Brain Burner
Chem Trails
Sleeper Hold
Six Pack
Shed And Transcend
Miner
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