シザー・シスターズ @ Zepp Tokyo

シザー・シスターズ @ Zepp Tokyo - pic by Masanori Narusepic by Masanori Naruse
昨年のフジ・ロックでは最終日のクロージング・アクトとして登場し、雨降る深夜の苗場に凄まじくアッパー&ド迫力のパーティーを出現させてしまったシザー・シスターズ。クロージングという特別枠での出演だったにも拘らず彼らのステージをベスト・アクトに挙げる声は後を絶たず、あの夜の彼らが見せたステージはシザー・シスターズのライブ・バンドとしてのポテンシャル、破格のショウマンシップの遺憾なく発揮する内容だったと言っていい。横殴りの大雨の中で万単位の人が笑いながら泣いてるみたいなテンションで踊り狂っていた、あの光景は未だに忘れることができない。

そんなシザーズの待望の単独公演である。開演前のZepp Tokyoに満ちていた華やかなムードは普段のロック・バンドのコンサートではなかなか体験できない種類のもので、ド派手なファッションで着飾り洒落度を競い合う女子達、既にビール5杯くらい飲んでるんじゃないかと思うほど陽気なテンションでぶちあがっている外国人のオーディエンス達、そして巨大ウィッグとボリューミーなつけまつ毛を装着して気合上等なドラァグ・クイーンのお姉さま達……と、とにかく場内はカラフル、カーニバルの幕開けのようにジョイフル、そしてハロウィンの夜のようにどこか猥雑でシュールだ。シザーズのライブはステージ上の彼らだけではなく、フロアのオーディエンス達自身もが主役になる、一大エンターテイメントであることは言うまでもない。

19時23分、ビョークやヤー・ヤー・ヤーズを回して会場を盛り上げていたDJが引っ込み、遂にシザーズがステージに登場する。超ヒップでハイセンスなのにどこか笑えて、超陽気なのにどこか後ろ暗くて、超楽しくて超アッパーなパーティー精神でぶっとばしていくのにどこか切なく物悲しくもある――そんなシザーズのショウの幕開けである。

この日の1曲目は最新作『NIGHT WORK』からのタイトル・チューンだ。点滅するライトの中に走り込んできたジェイクは胸元全開の黒のジャンプスーツ(股間の黒のブリーフが丸見え)を着込み、そして優雅に歩み入ってきたアナはゴージャス&セクシーな赤のドレスを纏っている(胸元の黒のブラが丸見え)。この、「肝心の場所(股間&胸)が丸出し」というのがもう、いかんともしがたくシザーズである。

2曲目で早くも必殺の“LAURA”がドロップされる。「今夜は私達のショウにお越しいただきありがとうございます!」と流ちょうな日本語でアナ。日本語でMCするバンドは他にもいるけれど、敬語まで器用に使いこなす人はそうそういないだろう。そしてスロウな“LAURA”から“ANY WHICH WAY”、“SHE’S MY MAN”へと一気に加速していくディスコ・ビート。「私達はトモダチじゃなくてホモダチよね!」と更に煽るアナ姉さん、更に煽られとんでもないことになったオーディエンスの大歓声は、殆ど効果音のシーケンスみたいなことになっている。“TITS ON THE RADIO”ではジェイクに馬乗りになりながら腰を振るという恒例の女豹プレイを挟みながらアナが熱唱、続く“HARDER YOU GET”ではジェイクが上着を脱ぎ捨てたほぼタイツ姿で腰をグラインドさせながら歌い上げる。この中盤2曲は言わばシザーズの「セクシャル強調パート」といったところか。

そして圧巻だったのが“RUNNING OUT”から始まったシザーズの「フィジカル&ど根性パート」だ。アナはこの曲のためにわざわざハイヒールをロウヒールにはき替え、ステージ上で本気で走りだすのだ。ランニングマシーン・エクササイズのようなその振付は、文字通りランニング・アウトである。セクシャルなナイト・ミュージックを標榜するはずのシザーズのライブには、時々こんな超体育会系の瞬間が差し込まれるのが面白い。エンターテイメントに対するプロ根性がただヘロヘロ踊ることを彼らに許さないのだろうし、大がかりな装置も転換もなく、彼らの肉体だけで作りだすエンターテイメント空間へのプライドみたいなものが垣間見える瞬間でもある。続く“MAMA”ではジェイク、アナ、そしてコーラス隊が見事に揃った振付でダンスを披露し、途中の小芝居まで計算ずくで魅せていく。

その後はジェイクとアナがそれぞれソロでボーカルを取るナンバーが続き、“COMFORTABLY NUMB”から始まった後半戦はこれまた全力疾走のダンス・パーティーへと化していく。ステージ上の彼らの運動量も凄まじいが、テンションが上がる一方で天井知らずだったこの日のオーディエンスも凄まじかった。「ユー・アー・スマッシング・ライク・ゴッジィラァ!!」とアナ、“FILTHY GORGEOUS”では堪らずジェイクが客席へとダイブ。アンコールの“FIRE”~“I DON’T FEEL LIKE DANCIN’”はアナに思わず「ベスト・ライブ・エバー!!」と叫ばせるに値したフィナーレだった。

シザー・シスターズのライブは、彼らが、そして私達が底抜けにハッピーな人種だからハッピーになるものではない。彼らが、私達が完全無欠の華やかな人生を送っているから華やかになるのでもない。むしろその逆で、彼らが、私達が欠陥だらけの生き物だからこそ生まれるバックドラフト的な一発逆転の祝祭、それがシザーズのライブなのだと思う。闇が濃ければ濃いほど眩い光を感じられる。シザーズの「夜のお仕事(NIGHT WORK)」とは、つまりそういうものなのだと思う。(粉川しの)
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