マイ・ケミカル・ロマンス @ 横浜アリーナ

マイ・ケミカル・ロマンス @ 横浜アリーナ
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マイ・ケミカル・ロマンス @ 横浜アリーナ
マイ・ケミカル・ロマンス @ 横浜アリーナ - pics by TEPPEIpics by TEPPEI
2009年のサマソニ出演以来となるマイ・ケミカル・ロマンスの単独ツアーである。2009年のサマソニのステージは、彼らにとって過渡期(もしくは混迷期)を象徴する内容だったと言っても過言ではない。『ブラック・パレード』で全世界的な成功を手中に収めたと同時に来たる新作に大きなプレッシャーを抱え、実際に新作の制作は暗礁に乗り上げ、未だ先が見えない状態でとりあえずステージに上がった、あのサマソニはそういうものだったからだ。しかし昨年、遂に新作『DANGER DAYS』がリリースされた。そこにあったのはロックンロール、『ブラック・パレード』の呪縛を振り払って余りある力強い、そしてカラフルなロックンロールを打ち鳴らす新生マイ・ケミカル・ロマンスの姿だった。今回の来日公演は現在地をしっかり踏みしめ前を向く彼らに出会うことができる、本当に久々の機会だったと言っていい。

18時23分、客電が落ち、オーディエンスの大歓声の中フラッシュライトが激しく点滅する。1曲目は“NA NA NA”だ。のっけからトップギアでの疾走、『DANGER DAYS』のロックンロールの即着火性を象徴するオープナーだ。ここから間髪いれず“THANK YOU FOR THE VENOM”へとなだれ込む。照明は“NA NA NA”の赤から青へと転じる。そのポップな色彩と勢いと句読点をすっとばして突き進む様にこれまた即反応したアリーナは後方までホッピングの波が広がっていく。

「トーキョー、ダンスしたいか?」とジェラルドが言うやピコピコしたイントロがスタートする。『DANGER DAYS』中でも際立って異色なエレポップ・チューン、“PLANETARY(GO!)”だ。シンセサイザーと四つ打ちのドラムスを主体としたこのナンバーは本当にポップ、そしてどこか人を食ったキッチュだ。ジェラルドのオオカミの遠吠えの真似で始まった“HOUSE OF WOLVES”も、ブラック・サバスのパロディみたいなおどろおどろしい演出を加えながらパンキッシュに、そしてこれまたポップに進んでいく。ちなみに最後に付記したセットリストは、現場で配られたペーパーをそのまま転載している。途中の改行も現物通りに再現した結果だ。この改行はMCの入るタイミングだったり、さらには曲調ごとのセクション分けの意味もあるんじゃないかとライブを観ていて思った。ここまでは最新作で彼らが描いた物語をベースにしたアニメ的場面構成のようなコンセプトを感じる流れだ。

続く“SING”、映画『ウォッチメン』のサントラでカバーしたボブ・ディランの“DESOLATION ROW”は逆にシンガロング、シンプルなメロディの良さに特化したパートとなっていた。そして「今日初めて僕らのライブを観る人は?ずっと観に来てくれている人はどのくらいいる?」とジェラルドが問いかけると、半々の割合くらいで手が挙がる。それを確認したジェラルドは「じゃあ次は古い曲をやるよ」と言って“OUR LADY OF SORROWS”へ。彼らのファースト・アルバム『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』からの本当に古いナンバーだ。これがまた秀逸で、最初期のマイケミのガチャガチャと不整形だったパンク・チューンが、『DANGER DAYS』の整形&パワー充填の機会を経て凄まじくアップデートされている。

続く“MAMA”は大仰なSEからフェードインする、まるで劇中劇のようなスタートを切る。これはこの“MAMA”だけではなく、『BLACK PARADE』からのナンバー全般に感じた印象だが、ショウの一連の流れの中で隔離されて鳴っていたように思うのだ。ちなみに全開の『BLACK PARADE』ツアーはご存じのとおり明確な2部構成で、1部は白塗りメイクを施したジェラルドが率いる『BLACK PARADE』完全再現のセクションだった。そのコンセプトが外された今、徹頭徹尾コンセプト・アルバムだった『BLACK PARADE』の楽曲を通常のセットリスト内でプレイするにはそれなりのクッションが必要ということかもしれない。素面&Tシャツ姿で別人格の「武装」を施していないジェラルドがこの曲を歌う姿はなんだか非常にシュールだ。

………………なんていう様に、あれこれ分析しながら観ていられたのはここまでだった。後半はただもうひたすらに過剰過多なエモーションの渦に揉まれ、気付いた時にはボルトの緩んだ蛇口みたいにボロボロと涙が落ちるのを止めることができないでいた。その時の自分の気持ちをもう少し噛み砕いて思い返してみるならば、『BLACK PARADE』から『DANGER DAYS』への大胆な変貌とそれを可能にした彼らの勇気を目撃したのが前半戦だったとしたら、それでも変わらない、いや、永遠に変われないマイケミの本質をまざまざと見せつけられたのがこの日の後半戦だった、ということかもしれない。

“I’M NOT OK”、“THE ONLY HOPE FOR ME IS YOU”のやけくそ逆噴射的ポジティビティ。ドンくさいほど真摯にメロドラマ調の哀愁を奏でていく“GHOST”。「おれたちはガレージが大好きだ!!!!MC5が大好きなんだああああああ!!!」と全編に亙って絶叫しているような身も蓋も無いガレージ・チューン“VAMPIRE MONEY”。ルーザー達が遠い未来で迎える(かもしれない)勝利宣言として鳴る“HELENA”。そしてアンコール1曲目、ピアノイントロ最初の一音で地鳴りのような大歓声が轟いた“WELCOME TO THE BLACK PARADE”。かつてはショウの始まりを、その厳かな儀式を象徴するナンバーだったこの曲が、あらゆる解釈や深読みから自由な場所でフィナーレとして打ち鳴らされるスーパー・カタルシス。

それらは圧倒的なエモーションの洪水だった。しかし、そこで生じた自分自身の感情の昂りが行きつく先は、けっして「ロックンロール、最高!」といった類の信仰でもなかったし、力漲る万能感でもなかった。むしろ自分の重い体と現実が昂る感情と乖離することで、ロックンロールによって今尚「変われない」自分自身がよりビビッドに突き付けられる体験だった。そう、マイケミは私達を導くロックンロールのカリスマではない。私達と共に迷い彷徨う、むしろ私達の分身のような存在ではないか。

とどのつまり、マイ・ケミカル・ロマンスの最大の魅力とは、「弱さ」なのだと思う。だからこそコンセプトで武装したのが『BLACK PARADE』だったし、その弱さゆえに幾度敗北したとしても何度でも地べたから這い上がって再び始めればいいんだと開き直る強さを手に入れたのが『DANGER DAYS』だった。この日、彼らが見せたのはそんないくつもの弱さであり、いくつもの敗北であり、そして敗者復活の風景であり、それらが何度も何度も繰り返される私達の人生の縮図でもあった。 (粉川しの)

2月5日 横浜アリーナ
NA NA NA
THANK YOU FOR THE VENOM

PLANETARY(GO!)
HOUSE OF WOLVES

SING
DESOLATION ROW
OUR LADY OF SORROWS

MAMA
FAMOUS

SUMMERTIME
I’M NOT OK
THE ONLY HOPE FOR ME IS YOU

GHOST
VAMPIRE MONEY
TEENNAGERS

THE KIDS FROM YESTERDAY
HELENA

(encore)
WELCOME TO THE BLACK PARADE
CANCER
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