65デイズオブスタティック @ 恵比寿リキッドルーム

なんて言うんだろう、全編に亙って凄まじい「波長」を感じるライブだった。ステージ上の彼らが次から次へと波を繰り出し、その波をオーディエンスが次から次へと乗りこなしていくような、双方向で終りの見えないカタルシスの連続。全編インストの65daysofstaticのパフォーマンスにはもちろん言葉が存在しないわけで(途中のMCも「サンキュー」「チアース」「アリガトトーキョー」のほぼ3パターンのみ)、文字通り「暗黙の了解」のようにその波長が会場の空気を自在に操り高ぶらせていく。

昨年のメタモルフォーゼ出演以来となる65daysofstaticの単独来日公演である。2004年のデビュー以降、UKのポスト・ロック、インスト・ロック・シーンを孤軍奮闘で引っ張って来た彼らだが、新作『WE ARE EXPLODING ANYWAY』は彼らの中でポスト・ロックとインスト・ロックの定義が更に大胆に拡大した作品であり、あの広大な世界観をライブ・パフォーマンスにどう落とし込んでいくのか――フェス出演を除く単独来日としては4年ぶりとなった今回のツアーは、そんな65daysofstaticの現在地を90分間フルに使ってフルに描き出す内容となった。

オープニング・ナンバーは『WE ARE EXPLODING ANYWAY』からの“Go Complex”。キーボードとパーカッションのモノトーンなイントロから一転、ロブがドラム・セットに移動し、最初のタム一撃を振り下ろした瞬間に一気にバーストする4人のアンサンブル。堅固な(そしてかなりデカイ)塊のようなブレイクビーツと、その塊を片っ端から粉砕するように打ち鳴らされるギターのストローク、そしてボトムではエスニックなシンセがウネウネとトグロを巻いているという、のっけから120%の出力である。彼らの演奏はけっして音量が大きいわけではないのだが、それでもリキッド後方の椅子席で観ていた筆者の身体がバスドラのアタックと一緒にがんがん揺さぶられるくらいには鋭く、そして重い。

そこからシームレスになだれ込むのはこれまた新作からの“Piano Fights”。ギター×2、ベース、ドラムスの4人編成を基本に、ステージ上でめまぐるしく楽器をスイッチングしていく。シンセ・メインのエレクトロ、ギター・メインのポスト・ロック、パーカッションメインのトライバルなナンバーと、彼らのフォーメーションは曲に合わせて自在に変化していくのだが、この日の前半戦はギター・メインのポスト・ロックのセクションだったと言っていい。サイモンが弓弾きベースを披露した“Await Rescue”では雪崩打つ音塊→アルペジオで静寂のブレイク→再び雪崩打つ音塊と緩急差激しい展開に、フロアのオーディエンスの間にも忙しなくうねりが生まれていく。

そして“Crash Tactics”から始まった中盤戦はギターが鳴りを潜め、パーカッションとシンセが全面に押し出されたエレクトロなセクションに移り変わっていく。この辺りが「モグワイ×エイフェックス・ツイン」と称される65daysofstaticの本領発揮である。人力でここまで完璧にブレイクビーツを生成しうるバンドのプレイヤヴィリティは凄まじいし、彼らのエレクトロにはどこか人肌のぬくもりを感じさせるものだ。ここまでおよそ45分、ほぼノンストップで突っ走ってきた彼らだが、その間に次々に提示されたインストの可能性、その多種多様さに驚かずにはいられなかった。65daysofstaticのインスト・ロックは「言葉の欠落した音楽」ではなく、「言葉の無用な物語」なのだと改めて実感させられる。

圧巻は10分以上に及んだ本編ラストの“Tiger Girl”。前半のポスト・ロックと中盤のエレクトロがここにきて完璧に合致したただひとつの65daysofstaticの音楽になる。アンコールでは必殺の“Radio Protecter”もドロップされ、そこに集った誰もが興奮を満タンにチャージされた状態で大団円を迎える。『WE ARE EXPLODING ANYWAY』の多様性とインスト・ロックの可能性を追求し続けた濃密な体験のラストには、走りきった爽快感と共にむやみやたらと風通しの良いカタルシスが待ち受けていた。(粉川しの)
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