メアリー・J・ブライジ @ JCBホール

女王メアリー・J・ブライジ、『Music Saved My Life Tour』と銘打って、2007年のイヴェント以来の来日。単独公演としては、『ノー・モア・ドラマ』のツアー以来のことなので、なんと約9年ぶりということになる。米本国に始まってヨーロッパ諸国、アジアではソウ ル公演を経ての来日であり、東京で2日、そして大阪で1日という日程でツアーが行われる。更にその後はオーストラリア、ニュージーランド、マレーシアからアフリカ/ジンバブエに辿り着くという大規模なワールド・ツアーだ。今回レポートする東京初日もさすがの盛況。以下、今後の公演にお出かけ予定の方は、どうぞご注意を。

まず今回の公演では、オープニング・アクトを務めるMINMIがステージに登場。いきなり豪華な。「メアリーに、真夏ぐらい暑くしておくから、ってメッセージ・カード送ってん!」と、座席制のJCBホールでオーディエンスを立ち上がらせ、バキバキのダンス・ポップ・ チューンで煽り立てていった。MJB来日に際しての彼女自身の喜びを丸出しにしながら、歌詞にはアドリブで歓迎のフレーズを織り交ぜる。米国滞在中に、メアリーが音楽を通して子供たちをサポートする活動を行っているテレビ番組を観た、と語り、MINMI自身がお腹に赤ちゃんを宿してナーバスになっていた時期に、メアリーのこの歌を聴いて励まされた、とMJBもカヴァーした“ナチュラル・ウーマン”を熱唱して喝采を浴びる。オープニング・アクトという役割に徹した素晴らしいパフォーマンスだった。今後、東京2日目にはMyeが、そして大阪公演には再びMINMIが、オープニング・アクトを務める予定だ。

さて、いよいよ女王降臨である。ギター、ベース、ドラム、キーボード×3、女性コーラス×3、時折男性のダンサー×2という、このクラスのアーティストとしては至極真っ当でむしろシンプルに思えるぐらいのステージ上だが、描き出されるパフォーマンスは途方もないスケール感を受け止めさせるものであった。ぴっちりしたブラック&シルバーのボディ・スーツに身を包みサングラスをかけたMJBが登場し、LEDで煌めくスタンドからマイクを掴み取って歌い出す。挨拶代わりとばかりに繰り出した“MJB・ダ・MVP”でステップを踏みながらスウェイを求め、作品ではドレイクとの共演となった“ザ・ワン”では、強烈にバウンシーな演奏の中、メアリーの両脇を固めるダンサーとともにものすごいキレとリズム感のダンスを披露する。驚きだったのは、デビュー作、そしてセカンド・アルバムの時期のクラシック・ナンバーが序盤から立て続けに放たれていったことだ。“ビー・ハッピー”からフリースタイルのラップで“ユー・リマインド・ミー”に繋いで場内を加熱し、“リアル・ラヴ”のイントロでビギーのサンプル・ヴォイスが響き渡ると大歓声が沸き上がる。さすがに、MJBファン歴の長いオーディエンスも大喜びだろう。

ヒップ・ホップのトラック・メイキングで本格的なソウルを歌う、MJBが「クイーン・オブ・ヒップ・ホップ・ソウル」の名で呼ばれる所以も彼女のそのデビュー時からのスタイルにあった。今でこそ珍しくも何ともないスタイルだが、90年代前半にはまだ、世間には本格的なヒップ・ホップのトラックに合わせて生々しい歌を歌うということへの抵抗が幾らか残されていたし、本来ストリート・カルチャーだったヒップ・ホップをメインストリームのミュージシャンが取り入れてゆくことも、手探りの段階だった。ジャネット・ジャクソン/マイケル・ジャクソンらのアプローチや、ニュー・ジャック・スウィング旋風もあったが、それはあくまでも「メインストリームがヒップ・ホップの手法を取り入れた」ものであって、「ヒップ・ホップ・アーティストとソウル・シンガーが手を取り合う」ものではなかったのだ。MJBの登場と成功は、そういう意味で真に歓迎された、時代の転換だった。

ただし今回のステージは、そういう時代を懐古して愛でるものではなかった。何しろ演奏は凄腕の生バンドによる現在のアレンジなので、メアリーはそのグルーヴを掴み取りながら歌う。パフォーマンスはどこまでも生々しい躍動感に満ちているが、まるでDJミックスのように歌と演奏が止まらない。結果的に浮かび上がってくるのは、ある時代の特定のスタイルなどではなくて、MJBのスキルとバイタリティ、それを根本で支える意志といった、彼女の人間性そのものなのである。「ありがとう、本当にありがとうトーキョー。戻って来れて嬉しいわ」と告げる。Pファンク風にスタートした“ラヴ・ノー・リミット”では跳ね回り、楽しそうにハンド・クラップを誘うメアリーであった。

筋肉隆々のドラマーが気を吐いて凄まじいプレイでジャム・セッションを牽引すると、今度は白タンクにハットという姿になったメアリーとともに、アップリフティングな前半戦から“エヴリシング”を皮切りにより情緒的なソウル・ナンバーが繰り出される後半戦へと突入。昂ったシャウトを交えながら子供を抱く仕草を見せて切々と歌われる“ユア・チャイルド”や、ワン・コードのループの中で歌声が一際大きくドラマティックに展開してゆく“ディープ・インサイド”。クラシックなソウル色の強い99年作『メアリー』の楽曲群はこの辺りで大活躍してくれて嬉しい。最新作からの楽曲は少ないが“アイ・アム”はこの後に大きな歓声を巻いて披露された。

そして終盤は、ピアノのイントロに導かれた“ノー・モア・ドラマ”の全身を使って声を振り絞るような熱唱から、「私たちはどうして、共に乗り越えていかなければならないんだと思う? それは……ファミリーだからよ! そしてすべては……よりファインになるべきなの!」と“ジャスト・ファイン”で大きなシンガロングを誘う。“ファミリー・アフェア”を大きなジャンプでフィニッシュしたあとメアリーは袖に去ったのだが、すぐさま戻ってこれぞヒップ・ホップ・ソウルという盛り上がりの“ビー・ウィザウト・ユー”で《yes!》《no!》の間の手が場内に広がる。ダレる隙がどこにもない、メアリーの熱い意志と温かい女性性がひたすら注がれるようなパフォーマンスであった。内容の濃密さゆえに大満足だったが、1時間半強というボリュームはまるで30分ぐらいに感じられた。あと、セット・リストはツアー中ほぼ一貫しているので仕方ないけど、やはりロック・リスナーの欲としてはツェッペリンのカバー、聴きたかったな。(小池宏和)

セット・リスト
1:Intro.~Rock With You Intro.
2:MJB Da MVP
3:The One
4:Enough Cryin'
5:You Bring Me Joy
6:Be Happy
7:You Remind Me (Remix)
8:(Big Interlude)
9:Real Love
10:Everyday It Rains
11:I'm The Only Woman
12:I Love U (Yes I Du)
13:Love Is All I Need
14:Reminisce
15:Love No Limit
16:Mary Jane (All Night Long)
17:Good Woman Down
18:Everything
19:All That I Can Say
20:I Never Wanna Live Without You
21:Seven Days
22:Your Child
23:Deep Inside
24:I Am
25:Sweet Thing
26:Not Gon' Cry
27:I'm Going Down
28:No More Drama
29:Just Fine
30:Family Affair
EN:Be Without You
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