ミステリー・ジェッツ @ 渋谷クラブクアトロ

ミステリー・ジェッツ @ 渋谷クラブクアトロ
ミステリー・ジェッツ @ 渋谷クラブクアトロ
ミステリー・ジェッツ @ 渋谷クラブクアトロ
ミステリー・ジェッツ @ 渋谷クラブクアトロ - pics by Tiger Haginopics by Tiger Hagino
ちょうど2年ぶりの、一夜限りの来日公演。前回はブレインの父親であるヘンリーもステージ終盤に登場するというサプライズがあって我々ファンを喜ばせてくれたが、今回は新作『セロトニン』収録曲を中心にしたパフォーマンスで、ミスジェの現在地をしっかりと見せつけてくれるライブになった。オープニング・アクトには既に海外でも好評を博している、日本の4人組ガールズ・バンド、The Suzanを迎え、2組のバンドがとても華やかで笑顔の絶えない、渋谷クラブクアトロの夜を過ごさせてくれた。

曽我部恵一のRose Recordからデビューし、ピーター・ビヨーン&ジョンのビヨーン・イットリングがプロデュースした新作をA-Trakのレーベルからリリースするという、異様なまでの幅広い支持層を獲得しながら活動しているThe Suzan。ときにラテン/カリブのリズムを取り入れながら、その割にどうしても陽気な躁状態に振り切れることの出来ない陰の部分を受け止めさせてしまうという、纏った雰囲気がどうにもロックでしかあり得ないバンドだ。「本当ははしゃぎたい」「本当は楽しみたい」「本当は繋がりたい」という思いがそのまま彼女たちの音楽になっていると言えば良いだろうか。トラッド風の妙に人懐っこいキーボードのメロディも印象的だ。ときにロネッツみたいなコーラスを聴かせたり、笠置シヅ子とレインコーツが並んで追いかけてくるようなブギー・チューンがあったり、オルガン・ガレージ・パンクもお手のものであったりする。かっこいい。1月26日に件のニュー・アルバム『Golden Week For The Poco Poco Beat』日本盤がいよいよリリースされるので、触れてみて欲しい。

さて、フロアから届けられる喝采の中にギタリストのウィル、ドラマーのカピル、ベーシストのカイ、そして松葉杖をついてステージ中央に腰掛けるヴォーカル/キーボード担当のブレインが登場し、ミステリー・ジェッツのステージが始まる。新作『セロトニン』のオープニング・ナンバーでもあった“アリス・スプリングス”から、眩く広がりのあるバンド・サウンドを聴かせていった。前作『トウェンティ・ワン』でのダンス・ポップへの大胆な路線変更にはずいぶん驚かされたが、ラフ・トレードからリリースされた新作では、美しくダイナミックな、正統派UKサイケ・ギター・ロックを作り上げ、地に足の着いた堂々たる演奏で届けてくれている。

ウィルが華々しいシンセ・サウンドを響かせて(キーボードはブレインが弾くものの他にウィルとカイのポジションにもそれぞれ設置されていて、細やかな役割分担によって楽曲群に彩りと奥行きを加えてゆくのだ)“ヤング・ラヴ”などの大振りかつキャッチーなナンバーも披露されてゆく。ミスジェの賑々しくカラフルなシンセ・サウンドは、ときどき80年代の産業ポップ/ロックのテイストを思い起こさせることもあるのだけれど、それよりもライブの場で聴くと、繊細な詩情と骨格のしっかりしたソング・ライティングによって、どのようなスタイルの曲でも高い水準のクオリティをキープし続けているということが分かる。しみじみするような「いいバンド」だ。

昨年のザ・カウント・アンド・シンデンの作品に参加した“アフター・ダーク”までが投下され、フロアは一気にヒート・アップしてゆく。ここから“ハイダウェイ”へと繋ぐダンサブルな展開は反則モノだ。大らかで甘美なサイケ・ポップもアップリフティングなダンス・ロックも、「芯のある歌心とメロディ」という基準を軸に、すべて等価に扱ってしまうのが、今のミスジェだ。今回のステージでは、デビュー作『メイキング・デンズ』からのナンバーは、丹念に織り込まれたハーモニー・ポップ“ダイアモンズ・イン・ザ・ダーク”一曲のみであった。

やはり『メイキング・デンズ』独特のボヘミアン気質漂うクラシカルな作風というのは、ヘンリーというブレーンあってこそのものだったのだろう。そんな一風変わったスタート地点から始まったミスジェは、親離れ・子離れというある意味当たり前の経験を通過して、真っ当で若々しいロック・バンドとしてのキャリアを歩み始めた。身も蓋もない言い方をしてしまえば、ミスジェは迷走している。ただしそこには大きな悲観や不安もない。現代社会を彷徨って、ときにベストと思われる決断をして、生きているという事実があるだけだ。今日から明日を何とかやりくりしようとする僕やあなたと、同じなのだ。今のミスジェは、ファンと共に育ってゆくバンドである。植え付けられた知識の中で完結したバンドと、どちらが真のボヘミアンか、答えは明らかだろう。

メンバー間の緊密なパートナーシップもじわじわとフロアにも伝播して、終始良いムードの中で行われた素晴らしいライブだった。ミスジェがこれからどこに向かって歩んでゆくのか、楽しみである。なお、今回の来日公演は一夜限りのものだったけれど、メンバーは1月14日に、渋谷Trump Roomで行われるイベント『VANITY』に、ゲストDJとして出演する予定になっている。(小池宏和)

ミステリー・ジェッツ セット・リスト
1:Alice Springs
2:Half In Love With Elizabeth
3:Serotonin
4:Lady Grey
5:Young Love
6:The Girl Is Gone
7:Hand Me Down
8:After Dark
9:Hideaway
10:Show Me The Light
11:Melt
12:Diamonds in the Dark
13:Two Doors Down
14:Dreaming Of Another World
15:Behind The Bunhouse
EN-1:Flash A Hungry Smile
EN-2:Lorna Doone
EN-3:Flakes
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