斉藤和義@Zepp Tokyo

斉藤和義@Zepp Tokyo
一人多重録音によるレコーディングでアルバムを制作してきたこれまでとは違い、多彩なゲストを迎えて制作された最新作『ARE YOU READY?』を携えてのツアー『LIVE TOUR 2010 “STUPID SPIRIT”』の東京公演初日。今ツアーでは、いつものバンドメンバーである辻村豪文(G)、玉田豊夢(Dr)、隅倉弘至(B)に加えて、エマーソン北村(Key)に代わり、フジファブリックの山内総一郎(G)を迎えたトリプル・ギター編成だ。斉藤は「ライブではなかなか再現できないことが結構できて、楽しいんですよ。しかも、左右からギターが聞こえてきて、いい位置なんですよ」と説明していたけど、本当に3人のギターサウンドが緻密に練り上げられ、細部にわたる表現のみならず、ライブならではの臨場感も出ていて最高に格好良かった。

序盤に披露されたポッキーCMソングでもおなじみの“Stick to fun! Tonight!”から、そのトリプル・ギターが繰り広げるドライブ感にとにかく圧倒されてしまった。斉藤自らが監修・制作を手がけたポッキーギターを3人が揃って持ったところで会場から歓声が沸き起こり、辻村と山内がイントロのギターフレーズを掛け合うようにして響かせた瞬間に、もう圧倒。そして、ギターを2人に任せて、斉藤はなんとマラカスを振りながら小気味よく踊り歌う。常にギターを手にしているイメージが強いから、この姿はすごく新鮮だ。間奏部分で斉藤が強烈なリフをかますと、早くもオーディエンスはトリプル・ギターの迫力に虜になっていた。

「いえーい。 みなさん楽しんでますかー。そういえば、海老蔵は大丈夫ですかね?
僕も殴られないように気を付けます。というわけで、今日は海老蔵に贈ります」と、いつものゆるい口調で冗談も飛び出す中、ブルージーなギターリフを辻村と掛け合い、続いて山内と掛け合い、またもや3人のギターを存分に生かしたフレーズから始まった“ずっと好きだった”へ突入。サビの部分のメンバーによる透き通るようなコーラスもバランスよく自然に溶け込んでいた。

やはり、今ツアーではこのトリプル・ギター編成を意識した見せ方が多く、ギターのバリエーションによって楽曲の雰囲気がガラリと変わっていった。たとえば、3人ともエレキギターでロックに振り切れる楽曲だったり、斉藤がアコースティックギター、2人がエレキギターを持って柔らかい質感や哀愁に帯びた音色を出してみたり、スライドギターだったり、ワウギターだったり、奏法やエフェクトも多彩だった。音圧を出すというよりかは、ディテールを大事にしたアレンジが施されているのがよくわかる。特に「アコギ3人で合うんじゃないかなという曲をやります」といって始まった、全員が椅子に座ってのアコースティック・セットで披露した数曲が秀逸だった。目を瞑って耳を澄ませると、たくさんのフレーズが散りばめられていて、誰がどのパートを弾いているのかギターの手元に目がいってしまうなど、今までにない愉しみ方もできた。

ニュー・アルバムから、大きく羽を広げて空高く飛翔していくような壮大なイメージを抱かせる“Small Stone”などを挟んで、いよいよ後半戦に突入。すっかりしっとりとしたフロアを前に「そこ、俺のミルクにやられてるみたいですね。なーんつって」なんていうせっちゃんらしい下ネタも織り交ぜつつ(他にもいろいろありましたが…)、「せっかくのZeppツアーで騒がない手はないということで、ここからは貧血コースを用意しています。いくぜー!」と怒涛の勢いで次々と激しいロック・ナンバーを畳み掛けていく。そして、玉田の弾むようなドラムに導かれるように始まったのは、待ってましたと言わんばかりにオーディエンスのハンドクラップと大合唱に包まれた“歩いて帰ろう”。この後も次々と貧血、はたまた汗だく必至のナンバーが続きフロアはクライマックスを迎えた。

ツアーは、東京では2日目の公演もあり、12月19日(日)広島でのファイナルまで続くので、詳しいセットリストや演出を伝えられないのが残念だけど、ライブハウスから武道館まで、弾き語りからバンドスタイルまで様々な顔を見せてきた斉藤和義が、これまで以上にバンド感を生み出し、勢いで制作したアルバムだからこその生々しさを出しつつ、一つひとつの音を大事に紡ぎ上げたライブであったことには間違いない。ファイナルに行く方はお楽しみに!(阿部英理子)
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