MASS OF THE FERMENTING DREGS@渋谷クラブクアトロ

MASS OF THE FERMENTING DREGS@渋谷クラブクアトロ
MASS OF THE FERMENTING DREGS@渋谷クラブクアトロ
MASS OF THE FERMENTING DREGS@渋谷クラブクアトロ - pics by 三吉ツカサpics by 三吉ツカサ
とにかく最高のロック・アクトであり、吉野功がドラマーとして加入してからの「この3人」になってからのMASS OF THE FERMENTING DREGSのアクトとしては間違いなく究極形と言えるものだった。終わってすぐに「で、この3人の次のライブはいつ観れるんだ?」と思ってしまうくらい、ステージ上の宮本菜津子/石本知恵美/吉野功の3人は目映いメロディとロックンロールを極限まで爆裂させまくっていた……それこそ「この日のステージを最後にギタリスト:石本知恵美がマスドレを脱退する」という事実すら、時として忘れさせてしまうくらいに。

自身のパニック障害の治療のために環境を変える必要があること、身体のことから始まった話し合いの中で音楽的な方向性の違いやこれから先にやりたいことのズレが生じたことーーそんな知恵美本人の脱退のメッセージがオフィシャル・ブログに掲載されたのは10月22日のことだった。9月のSHIBUYA-AX公演の熱演ぶりをこのサイトでもレポートしたばかりで、その記憶も冷めやらぬ中での発表に、個人的にも戸惑いと動揺を禁じ得なかった。彼女の脱退を惜しむ気持ちももちろんだが、2007年には初代ドラマー:後藤玲子が脱退し、後任の吉野とともに最強にオルタナティヴでカオティックでポップなロックのビートとアンサンブルをようやく確立した、まさにその矢先に!?ーーという気持ちが強かった。おそらく、9月のAX公演を観た人、そしてメジャー1stアルバムのリリース・ツアー『ゼロコンマ、色とりどりの世界』全国12+1本のラストを飾る追加公演=渋谷クラブクアトロ公演に集まった人の多くは同じ気持ちだったはずだ。

とはいえ、手を振りながら登場してくる3人の姿からも、「いくよ! せーのっ!」という菜津子の掛け声から気合い一閃、怒濤の爆音ノイズ越しに“She is inside, He is outside”へと雪崩れ込む3人の佇まいからも、“かくいうもの”で「ストラップ切れた! はははは!」と笑いながらハンドマイクで乱舞熱唱する菜津子の表情からも、時折メガネを振り飛ばしながら激しくビートをぶん回す吉野の表情からも、悲壮感やノスタルジーはまるで感じられなかった。あくまでミュージシャンとして、ロック・バンドとして、1曲1曲を完全燃焼させ、自らのエモーションを徹底的に弾けさせることだけに全身全霊を傾けていた。そんな3人の朗らかなストイシズムの形が逆に、この日を待ちわびた満場のオーディエンスの情熱とセンチメンタリズムに次々に火をつけたのか、フロアの狂騒感は1音ごとに増すばかりだ。

「暑いな! お風呂上がりみたいやね!」と最前列のファンの汗だくの顔を見て笑う菜津子。「知恵美ちゃん髪切ったな!」というフロアからの声に「友達か!」とツッコむ菜津子。この日、彼女は最後まで知恵美の脱退については一言も触れなかったし、知恵美自身からもバンドを去ることに対してのコメントは皆無だった。ただ、中盤に披露したくるり“飴色の部屋”カバー(トリビュート盤『くるり鶏びゅ~と』に参加した時にこの曲を演奏していた)の後に、「他のバンドさんの曲をやったことないんで、どんなもんかと思ってたんですけど……思い出と一緒になってる曲ってあると思うんですけど、“飴色の部屋”はまさにそうで。思い出のある曲なので、やりました! はい」と、この日唯一のMCらしいMCとして語っていた。どんな「思い出」か?までは語っていなかったが、《さよならいつか夏になるだろう/ひとりぼっちでゆく》という歌詞が、今日の「物言わぬ別離」のシチュエーションと不意に重なって、胸が熱くなった。

“ズレる”の鋭利なカッティングと♪トゥットゥのコーラス。“なんなん”のヘヴィなコード・ストローク。クアトロいっぱいのクラップへと導いた“ワールドイズユアーズ”でのギター・ソロ。“skabetty”でのキラキラと輝くようなアルペジオ……最後のマスドレでの演奏を、1曲1曲アグレッシヴに披露していく知恵美。激しく髪を振り乱しながら、永遠の少年のように極太ベース・ラインの「その先」のロックを追い続ける菜津子。そして、いつになく性急で荒々しいドラミングで3人のアンサンブルをクライマックスへと煽り立てる吉野。ラストの“ベアーズ”の中で、菜津子と知恵美は何度も向き合って視線を重ね、そして……残るエネルギーのすべてを燃やし尽くす鮮烈なキメとともに、22曲を2時間弱で駆け抜けたアクトは終了! 

「どうもありがとう!」とステージを去る菜津子、吉野。最前列のオーディエンスと手を触れ合う知恵美。「本日の公演はすべて終了しました」のアナウンスにも鳴り止まないアンコール……そして。フロアの外に掲示されていたのは、「明日からも、マスドレ、まだまだやるよ。これからのことは、12月24日、おひる、HPにて! よろしうに!」という菜津子の直筆メッセージ(サンタのイラストつき!)だった。マスドレの「その先」を、今はただ待ちたい。(高橋智樹)

[SET LIST]
01.She is inside, He is outside
02.かくいうもの
03.ひきずるビート
04.このスピードの先へ
05.I F A SURFER
06.青い、濃い、橙色の日
07.終わりのはじまり
08.ONEDAY
09.サイダーと君
10.ズレる
11.エンドロール
12.飴色の部屋(くるりカバー)
13.なんなん
14.まで。
15.delusionalism
16.ワールドイズユアーズ
17.skabetty
18.さんざめく
19.RAT
20.ゼロコンマ、色とりどりの世界
21.ハイライト
22.ベアーズ
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