People In The Box@日比谷野外大音楽堂

People In The Box@日比谷野外大音楽堂
People In The Box@日比谷野外大音楽堂
People In The Box@日比谷野外大音楽堂
People In The Box@日比谷野外大音楽堂
People In The Boxのライブを観た後、いつも言葉にならないようなたくさんの感情に胸が苛まれる感覚になるのだけど、それがPeople In The Boxの音楽を感じる上で正しい解釈なのだということを今日の野音で改めて確信させてくれたように思う。今日は10月6日にニュー・アルバム『Family Record』をリリースしたばかりのPeople In The Boxが、初の日比谷野外大音楽堂ワンマンライブ『空から降ってくる vol.2』を開催。発売直後だけれども、今日のライブはリリースツアーとはまた別枠のワンマンライブとして、『Family Record』の楽曲を含めて、これまでのPeople In The Boxを総括したようなセットリストだ。

7分ほど押した17:37、会場は暗転。ライブの始まりを告げるオープニング映像が流れた。“旧市街”のPVを手掛けている若手映像作家の加藤隆による柔らかなタッチのアニメーションに乗って、波多野による詩の朗読が聞こえてきた。完全に映画を観ているような感覚に陥った中、SEに乗ってゆっくりとメンバーが登場。そして、物語の始まりは“旧市街”で幕を開けた。山口のハイハットに導かれるように、福井の地を這うようなベース音が響き渡り、波多野がメロディにならない言葉を叫ぶ。会場は一変してただならぬ雰囲気に包まれた。変則的にリズムが加速したり、減速したり、目まぐるしい変化を続けていく中で、オーディエンスはその世界観にどっぷりと浸かってゆらゆらと揺れ動く。その重厚なサウンドから一転、“アメリカ”で聴かせてくれた透明感溢れる山口と福井が秀逸なコーラスワークが秀逸だった。触れたら壊れそうな儚い優しさが突然襲いかかってきたり、恐怖にも似た残酷さが柔らかく包みこんだり、心はかき乱されっ放しで心地よい疲労感に見舞われる。

「降ってくるのが雨じゃなくてよかったね」と波多野が言う。連日の秋晴れで雨の心配もなく、秋の野外の月夜の下で聴くピープルがこんなにも至高の時間だとは……感嘆のため息がもれるほど、空からは美しくて、生々しくて、破壊的なPeople In The Boxの音楽が降り注がれ、会場はすっかりその世界観に染められていく。夜空に抜けていくような流麗なメロディと暴力的でノイジーなギターサウンドが同時に心を揺さぶってくる“ストックホルム”はライブでものすごく映える。福井が「今回のアルバムは3人のプレイヤーとしての表現が、うまく再生できるCDになっています。ながく愛されることを願っています」とMCで言っていたけど、『Family Record』の楽曲はライブで聴くと、3ピースというフォーマットの中で表現できうるギリギリに挑んでいる3人の姿が浮き彫りになって、私たちの五感を研ぎ澄まさせてくれる。一部、高音部分で波多野の声が若干辛そうな曲も何曲かあったのだけれど、それでも、3人の表現力豊かなバンド・アンサンブルがそれをカバーしていたので、まったく問題なかった。

山口からはいつも通りのあのテンションで、「Family Record」ツアーに追加公演が決定したことが発表された。大阪と名古屋の追加公演が発表されたのだが、「東京はのちほどね」とじらされ期待を煽られる中、「今日、おかんが来てるけど、言います! 全力でぶっ殺していきます!」とお決まりのフレーズを経て、後半へ突入。“生物学”からの“天使の胃袋”で一気に駆け抜けていき、怒涛のドライヴ感で攻める“完璧な庭”の流れでどんどん激しさを増していく。さらに“ペーパートリップ”では暗闇の中に無数の畜光の物体が弾け飛び、野音ならではの演出がクライマックスを彩る。本編ラストは“バースデイ”。波多野の言葉にならない激しい絶叫が会場を渦巻き、身震いするほどの興奮と息を呑むほどの緊張感に包まれ、しばらくの間放心状態に見舞われた。

「本当は2曲の予定だったけど、3曲やります」という山口の嬉しいアンコールの言葉で、“新市街”“ユリイカ”“She Hates December”の3曲を披露。さらに鳴りやまないアンコールを求める手拍子に2度目に登場したときに、波多野は言葉を必死に見つけるようにして話を始めた。「『Familiy Record』っていうCDは……なんていうか、こう……なんだろうな…………。たぶん、今の僕の言葉にできない状態は音楽のあるべき姿として正しいと思うんだ。すごくストレートに伝えると、みんながピープルが好きでいてくれて、すごく嬉しい」。言葉では到底説明しきれないようないろんな感情がぶつかりあって、私たちを挑発し、魅了するPeople In The Boxの音楽。『Family Record』は音楽で表現するということに真摯に向き合っている3人だからこそ、勝ち得た賜物ほかならない。そして、今3人はこれまで以上にリスナーに対して真っ直ぐ向き合っているような気がする。

ラストには映画のエンドロールのようにこのライブに関わった人々のクレジットなどが流れ、ライブの余韻に浸るように静かに見入る。そして最後に予告として3月24日(木)中野サンプラザにてツアー・ファイナル公演が行われることが発表された。今日『Family Record』の中で演奏されていない楽曲も数曲あるし、序章にすぎないのかもしれない。全国を回ってさらにその世界観に磨きをかけて帰ってきたころ、私たちに一体どんな景色を見せてくれるか。3月が今から待ち遠しい。(阿部英理子)


1.旧市街
2.アメリカ
3.はじまりの国
4.ベルリン
5.海抜0m
6.リマ
7.ストックホルム
8.水曜日/密室
9.冷血と作法
10.犬猫芝居
11.レントゲン
12.レテビーチ
13.ブリキの夜明け
14.泥の中の生活
15.火曜日/空室
16.月曜日/無菌室
17.生物学
18.天使の胃袋
19.完璧な庭
20.ペーパートリップ
21.日曜日/浴室
22.バースデイ

アンコール1
1.新市街
2.ユリイカ
3.She Hates December

アンコール2
1.ヨーロッパ
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