ASIAN KUNG-FU GENERATION @ 恵比寿リキッドルーム

ASIAN KUNG-FU GENERATION @ 恵比寿リキッドルーム
ASIAN KUNG-FU GENERATION @ 恵比寿リキッドルーム
ASIAN KUNG-FU GENERATION @ 恵比寿リキッドルーム
ASIAN KUNG-FU GENERATION @ 恵比寿リキッドルーム
ASIAN KUNG-FU GENERATION @ 恵比寿リキッドルーム - pics by MITCH IKEDApics by MITCH IKEDA
『NANO-MUGEN CIRCUIT 2010』や夏フェス参加を経ての、ASIAN KUNG-FU GENERATION『Tour 2010-2011 「VIBRATION OF THE MUSIC」』。今年9月頭から来年の3月末まで、実に7ヶ月にも及ぶ、ライブハウスや大規模ホールが入り乱れるスケジュールで全国行脚する75本のロング・ツアーである。開始から1ヶ月が経過しているとはいえ、まだまだツアーの序盤。今回は東京・恵比寿リキッドルームでの公演の模様をレポートさせて頂きたい。

七色の照明が煌めくステージ上で、それに拮抗しあるいはそれ以上のカラフルなアンサンブルをいきなり届けてくる開演直後。傑作『マジックディスク』の、ドラマチックでロック・ミュージックの力強さも兼ね備えたオープニングが直に再現される。目下の最新シングル曲である“迷子犬と雨のビート”では、オーディエンスがフロア一面に高く腕を掲げて自発的なハンド・クラップを打ち鳴らし、豊かなバンド・サウンドを更に後押ししていた。

さて、今回のツアーでトピックとして挙げられるのは、まずキーボード奏者・金澤ダイスケ(フジファブリック)の参加だろう(ツアー中、幾つかの公演では山本健太がキーボードを務める)。楽曲に華やかな彩りを加えてゆく彼のサウンドは、『マジックディスク』の世界観にも見事にハマってアジカンの表現を押し広げていることが分かる。彼のプレイに応じて喜多が昂ったリード・ギターを披露するなど、バンド内での化学反応も上々な成果を上げているようだ。

“旅立つ君へ”から“ネオテニー”へと繋がる、スピードの中でゴッチの歌声が高らかに伸びるプレイを終えると、「えー、久々の東京で。以前は東京って緊張したんだけど。こいつらブログとかにいろいろ書くんだろうな、みたいに思って。今は、まあ書けばいいじゃん、っていう感じです。あちこちの出身の人がいると思うんですけど、僕はもともと田舎者なんで、気取らずに楽しくやりましょう」とリラックスした面持ちの挨拶で喝采を浴びている。マイペースなようにも見えるけれど、その実、素晴らしいアルバムを作り上げて万全の体勢でツアーに望んでいる、そんな自信の表れのような気もする。

今度は“さよならロストジェネレイション”のイントロでファルセットの歌声を聴かせるゴッチ。「今の笑うとこ」と本当に余裕のあるプレイだ。間奏の部分では喜多はギターから手を離し、自分の後方でプレイされる金澤のピアノを、ニコニコしながら聴き入ったりしている。この辺りでも『マジックディスク』の楽曲が続けざまに放たれていた。僕は今回のアジカンのツアーを初めて観たのだが、イメージしていたものと印象が随分違っていた。バンドの密なアレンジにキーボードやストリングスまでが織り込まれていた『マジックディスク』の演奏は、もっとガチガチに作り込まれていて、ある種のゴージャスさと緊張感を孕んだものになると思っていたのだ。もちろんアレンジは豊かだし金澤のキーボードも加わっているのだが、例えば金澤の存在は飛び道具的な目立ち方をするものではなくて、アジカンの4人の演奏にするりと馴染んでいる。綿密に準備が進められた上で、それが非常に洗練された「粋」というレベルにまで辿り着いているのだ。これはちょっと意外だったし、同時に嬉しい誤算でもあった。

“ループ&ループ”では一斉ジャンプを巻き起こしながら盛り上がり、“イエス”では金澤がけたたましく狂騒的なオルガン・プレイで更に煽り立てる。「新メンバーを紹介します。金澤ダイスケ・フロム・フジファブリック! アルバムを作る前から、鍵盤どうしよう? 俺が弾こうかな? 一人合宿かな?って思ってたんだけど、やっぱりダメだ、人を呼ぼう、っていうことになって。いや、ダメだっていうか、前から一緒にやりたかったし。……オシャレなんですよ。ウチの場合はツアー中、居酒屋で、《なんかミュージシャンの人が来るらしいから一応、色紙用意したけど、どっからどこまでがミュージシャン?》みたいになるんだけど、彼がいると《とりあえずあの辺だろう》と」。

終盤は、デビュー・アルバムの収録曲を多く並べたセット・リストになった。なるほど、『マジックディスク』の世界は、この頃の風通しの良さまでも包括するものである、と。何と言うか、今回のステージを目の当たりにすることによって、『マジックディスク』という作品の個人的な捉え方がまたひとつ変わったというか、「ここまで懐の深い作品だったのか」ということが改めてよく分かった。“アンダースタンド”では大きなシンガロングが起こり、“君という花”では伊地知の4つ打ちキックに情緒豊かなメロディが溢れてフロアが大きく波打つ。そして本編は美しいクライマックスを迎えていった。

「レーベル始めたんで、詳しくはホームページを観てください。アクセスしてくださいよ。音楽好きな人が増えたらいいな、と思ってやってるんで。難しいねインターネットは。こんなの作ってもみんな見てくれるのかな、みたいな葛藤もあってね……(ベースの)山ちゃんは、誰かが見てくれてないと前髪立てません」。そんなことを告げてアンコールに向かったゴッチである。リラックスしていて、実に軽やかに、ポップ・ミュージックの最も豊かで揺るぎない力へと観る者・聴く者を誘ってゆくアジカン。素晴らしいライブだった。さて明けて14日、お次は新木場スタジオコーストだ。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする